新生
【登場人物】
秘密
ここは、とある山脈、その麓。
街や都市には含まれない大地の一画。
湖畔があり、川が流れる、その自然豊かな場所にはポツンと1つ一軒家。
自給自足の生活をしているのは、とある男女。
家の壁には狩猟用に使うと思われる武器が2つ、折り重なっている。
「──っつ、にがっ」
「仕方あるまい、生まれてこの方料理なぞした事がないからな。嫌なら食べなくていいんだぞ?」
「いや食うさ、全部食べる」
「酒はいいのか?」
「禁酒するって言っただろ?」
「──が、気にする必要はないだろ」
「今なんて言ったんだ?」
「何度も同じ事は言わん、馬鹿め!」
2人がこの場所に来て、1ヶ月が経とうとしている。
元々此処には、今彼らが住んでいる使い古した家と農具があった。
生活できるまで綺麗に改築したのは、男の方の知恵。
農具の使い方に関しては、お互いからっきしだったが、素人なりに土を耕すほどには使えている。
食材については現地調達。
屋外生活に慣れている男にとっては容易いこと。
自然が豊かなだけあって食べ物には困らない。
保管についても、女の携行する武器の能力によって、食材を腐らせることはない。
生活に困らなければ、人間関係のストレスを抱えることもない。
彼らに何か問題があるとすれば、それはコミュニケーション。
そもそもの話、彼らの出会いは半年程前、会話をしたのは数ヶ月前になる。
趣味嗜好は違えど生き方は似ていた。
孤高で己の武に自信を持つ。
そんな2人にも、共に歩むべき存在がいた。
女の方は主君同然、敬愛し忠誠を誓っていた。
男の方は好敵手であり仲間、信頼できる友だった。
ゆえに、2人は敵同士だった。
刃を交えた。
信念を貫いた。
気持ちをぶつけた。
勝敗の行方は────それこそが、今彼らが此処にいる理由。
未来へ、進んだ証。
されど、依然としてぎこちない。
主君は傍らにいない。
合いの手はない。
終焉未来の世界を塗り替えた主達のように、この壁は彼ら自身で少しずつ崩していく必要がある。
「──で…この薪は何?」
「暖炉に焚べる物だ。身体冷やすと良くねぇからな」
「しょ──私は、冷気に耐性がある。その…気を使う必要はない」
口癖を直す、これもまた必要なこと。
「それは知ってる、俺が言ってるのはそっちだ」
「あぁ、そうか…そうだったな…」
女は自分の腹部を擦る。
微かな、ただ確かに脈は打つ。
新たな生命は宿っている。
「これからは俺メインで食材を取りに行ってくる。こういう時経験者が居ればいいんだがな、頼れる奴が居ねぇのは少しマズったか…いや此処に来るのは俺らが決めたことだし仕方ないな」
此処には彼ら以外の人間はいない。
これから先、何が起きても、彼らのみでやり遂げなければならない。
「私は、いい。万が一の時は、この命に替えてでもこの子は守ってみせる」
「おいおい、そう言うことは言うなよ!俺は博打は好きだが、もう失うのは御免だからな!」
「それは甘えた考えだ──まぁそれも悪くないか……」
「お互い、変わったな」
「そうかも、しれないな」
互いを仕切る壁は少しずつ取り除かれる。
雪解けの春のように、ゆっくりと。
「なぁ、■■■■」
「なんだ■■■?」
「いや、呼んでみただけだ」
「そうか──でも俺は嬉しいぜ■■■。俺はお前を愛している」
「………………………私もだ、■■■■」
仕切りが無くなるのは、いつの日か。
それは遠くない、かもしれない。
白い氷剣と変化式銃剣。
2つは家宝として語り継がれていく。




