真実の伝播
【登場人物】
リン
フィロ
ジェット
オウル
キィ
キィの話を僕達は聞いた。
事務所側は、キィの身なりや経歴から歌い手としては雇用せず、作詞家として雇うだけになったらしい。
それに反発したキィが訴訟を起こすなどと発言したため、ここに幽閉されてしまったようなのだ。
腸が煮えくり返るような話だ。
「ずっとではなかったと思う。私の気持ちを落ち着かせる意味があったんだと思う」
「それでもだよ」
これは悪事に他ならない。
真実を伝えて、しかる処置をしてもらう必要がある。
「それに私、独り身でさ…これ前にも話したよね」
以前一緒の食事中に聞いた話だ。
「その時は言わなかったけど、私虐待されていたんだよね」
「え!?」
「だからほら、背中酷いでしょ」
僕とオウルは両手を顔に覆い隙間から見る。
確かに、傷痕があった。
「これが一番の理由だと思うの。歌詞だけ採用する事務所側の意図も分かってるつもり」
「…そうだとしてもだよ、それでキィはいいの?」
「…良くないよ、私だって歌いたい。この声を聞いてもらいたい!」
「なら、やる事は1つだよ。ここは電波塔だし、直ぐにできるよね…オウル?」
「はい、もう準備できました」
階段を登る際に始めたハッキングは終わったようだ。
この場所から真実を、そしてキィの歌声を響かせる。
誰が何と言おうと、僕達の詩を汚させないために。
「本当に、全部言っていいのかしら?」
「うん、いまはキィの声しか届かないようにしたからね」
街に静寂が訪れたあと、キィの歌声が響き渡る。
偽物ではなく、本物の歌手の声。
真実の詩。
街の人達は動揺しただろう。
誰が歌っているのか、どこで歌っているのか。
事務所の関係者は気づいただろけど、もう遅い。
それに猛者の警備員は、簡単には通してくれない。
歌い終わったキィは真実を話していた。
これまでの経緯と自分の身の上話が街中に広がる。
それは記録され、人の心に残る。
彼女が伝えきったと思ったあとに、僕らはアンコールした。
そして、彼らがここに登ってくるその時まで、歌はずっと流れ続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後、僕達は釈放された。
テロを起こした人物として逮捕されていたからだ。
住人の声や蜂起した人達の訴えにより、事務所側が悪と認定されたおかげで自由の身となった。
その人達には感謝しかない。
キィも同じように捕まっていたが、釈放後は一人の歌手として表舞台に降り立った。
今、街中では、彼女の歌声が一番に響いている。
「おなかへった」
「逮捕なんて初めての経験ですよ」
「また俺の経歴にキズがついたぜ」
「名誉のキズだからいいじゃん」
僕達はもうすぐ、街の外へと出る。
いつものように、誰かが見送るなんてことはない。
でも、それでいい。
この街は歌や曲が流れているからこそ、人がいる証拠。
誰かに見送られている気分にもなる。
僕達4人の旅はまだ続く。
何処に行き着くか、未来は分からない。
だけれど、人の感謝はやっぱり心地いい。
僕の心はまた1つ埋めることができた気がする。
街の外にも広がる、彼女の“ありがとう”の言葉によって。
【外伝③ 詩よ届け 完】




