音楽の街
【登場人物】
リン
フィロ
ジェット
オウル
キィ
仙都を出発して数ヶ月、僕達4人は山を越え谷を越え嵐を越え、音楽の街へと来ている。
この街はその名の通り、様々な場所から音楽が聞こえてくる。
楽器の奏でる音、斉唱する合唱団、音が絶えることはなく、道行く人を愉快にする、そんな街だ。
様々な曲や歌声が流れても、交わることなく不快感も与えないのは、電波塔兼時計塔の役割が大きいとのこと。
音の周波数を程よく調和する機械が組み込まれているらしい。
飽きの来ない毎日は続き、残る滞在予定も2週間となった頃、僕達は路地裏で歌う一人の女性と出会った。
彼女の名前はキィ。
プロを目指して早数年。
毎日この路地裏で歌っては、立ち止まる観客を魅了しているようだった。
彼女の歌声は透き通っていて、とても心地の良い声調だがプロになれないのは、ここが音楽の街だからである。
原石はいくらでもいるということ。
音楽関連の競争レベルは世界随一だ。
そんな彼女と僕達は意気投合して、食事に行くほどの仲になった。
そして今日は滞在3週間目、残り1週間でこの街を出る予定の話を僕達はしていた。
「来週には出発するのね」
「そうだね」
「くぅ〜、キィちゃんの勇姿見届けてからでもいいんじゃねぇのか?」
「ぐうたらしたいだけでしょう。ここんとこ毎日酒の飲み過ぎですよ」
「なんだ飲みたいのか、オウル?」
「けっこうです」
「まぁまぁ2人とも、食事中に喧嘩はやめてね。それとキィのコンテストは、来月に流れたから僕達は見届けられないって話したばかりだよね?」
「そうだったか!?」
「そうだよ」
「いいのよ、コンテストは…。今引き抜きの話を頂いているから、そっちを優先するつもり」
「「「「そうなの?」」」」
その話は初耳だ。
身の上話もできるほどになったのはつい最近だから、教えてくれなかったのだろうけど、キィの夢が叶うのなら、それはそれで良いことだ。
「引き抜き先は信頼できる所なのか?」
「それは、まぁね、けっこう有名どころだから」
「何か、引っかかる所があるんですか?」
「……ううん、ないよ」
「私は、かしが好き」
「ありがとう、フィロちゃん」
「歌詞も1人で考えてるんですよね、凄いですよ」
「うん、やっと認められたって感じかな…一応、明日にはその事務所に行って、早ければ数日後にはデビューの予定よ」
「宴の準備をしなきゃな」
今まさに酒盛りしているというのに、何を言っているのやら。
まぁ、お酒を飲んでいるはジェットだけだし、お祝いの席を設けるのは良い案だ。
何かしらのプレゼントを用意するのもいいかもしれない。
デビュー話題もあって、その日の食事会は大いに盛り上がった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日、僕達は見知っている歌詞の曲を聴いた。
しかし、それはキィの声ではなく、全くの別の人。
何故、そのようなことが起きたのか不明だった。
キィは事務所の名前を教えてくれなかったが、絶えず流れるその曲が、どこから放送されているか、調べれば分かることだった。
ただ、僕達の問いには誰も答えてくれず、『そのような者を雇った事実はない』の一点張り。
何がどうなっているのか…。
その日ずっと曲は流れた。




