大地の街を経て
【登場人物】
リン
フィロ
ジェット
オウル
僕達は仙都を出て、ダイスを振って、大地の街を選び、いまはこの街を出発するところ。
街特有の衣装も譲り受け、心新たにと思ったが、次なる行き先を決める前に別れ道があるとのこと。
時間はかかるが安全に進めると言われる沼地と、短時間で越えられると言われる暗闇の2つだ。
暗闇の方は情報が少なすぎるため、ほとんどの人達は沼地を選ぶらしい。
暗闇を選ぶ物好きもいたらしいが、情報を持ち帰ったものはいない、と言われている。
僕達4人が選んだ道は暗闇。
多数決は2対2の引き分けだったけど、オウルの自動駆動は主の意志に背き、暗闇を選択したがために、こうなった次第。
オウルはメンテナンスが必要と言っていたが、故障している風には見えない。
なんにせよ、自分達の選択に後悔をしなければいいだけのこと。
街の人達に見送られながら僕達は暗闇へと向かった。
少し歩いた先から森の雰囲気が一変していた。
「所々木々が折れてたり、根っこから無くなってたりしていますね」
「伐採にしちゃあ、少し変だな」
街の人達は自然豊かな生活をしていた。
木々の伐採もお手の物だったはずだから、これは彼等がしたわけではない、もっと別の…。
「地面も少し抉れているよね、自然災害なのかな?」
「ねぇ、あれーなにー?」
フィロの指さす先には、岩のように大きな黒い塊が横に延びている。
近づいてみると、それが生き物だったことが判明した。
「大きすぎるだろ…」
「死んでます、よね?」
「ブヨブヨー」
「この腐臭は死んでいるからなのか、この生物独特の匂いなのか分からないね」
黒い塊の腸は半分ほど削られていた。
全長20メートルはある生物の腹をだ。
つまり、この大口の歯型生物は他にもいるということ。
「縄張り争い的な何かですかね」
「これ、ナイフや銃も通らねぇんじゃねぇか?」
「逃げるしかないってことか」
「あっ、歯が抜けてる」
「フィロ、汚いから何でもかんでも盗っちゃダメだからね」
これが暗闇と言われる所以なのだろう。
情報を持ち帰った者達がいないのは、きっとこの生物に食べられたから。
僕は早くも選択を間違えたんじゃないかと思えてきた。
「どうする?戻る?」
「戻るのは性に合わねぇ」
「僕も、その気はないです」
「私も、もんだいないよ」
「頑固だなー、皆」
ふと、何か後ろで這いずるような、何かが蠢く音が聞こえた。
オウルの自動駆動が“敵発見”と言わなければ、退避は一瞬遅れただろう。
黒い大型生物が大口を開けて僕達を飲み込もうとしていたからだ。
「散開!!」
僕の掛け声とともに、動き出す3人と1体。
お互い一定の距離を保ちながら、前へと走る。
ジェットの応戦による銃は全く効いている様子がない。
「どうすんだこれ!!」
「どうしようもないよ!!逃げ回るのみ!!」
「地図は確かフィロが持ってたよね!?」
「うん、はいオウル!パス!」
「「「「あっ…」」」」
空中に投げられた地図は、黒い生物の口に吸い込まれた。
口に投げ入れたのではない。
生物が近くまで迫っていたということだ。
「危ないっ!」
「うわっとっと!」
「地図無しとかやべーじゃんよ!」
「こういう時こそ、自動駆動ですよ。彼に周囲を探ってもらいつつ、安全な道を行きましょう!」
「そんな道本当にあるのか!?」
「少しは信用してください!」
道標が無い以上、僕も役には立てそうにない。
ここは高性能な機械に頼る他なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どれだけ走っただろうか。
まだ僕達は黒い生物に追いかけられている。
僕や運動能力の高いフィロ、傭兵として生きてきたジェットは余裕があったが、机仕事のオウルはそうはいかない。
オウルは途中から自動駆動に運ばれていた。
「それって、そういう機能もあるんだ」
一家に1体は自動駆動、なんて言われてもいいかもしれないほどに便利だ。
「道、迷ってるんじゃねーか?」
「そう思われても仕方ないですよ、地図無いんですから」
「私は、あっちがいいと思うよ」
オウルとジェットの口喧嘩を他所に、フィロは前へと駆け出す。
獣人の嗅覚に従うべきか、機械の提案を優先すべきが迷うとこだが、ここはリーダーでもある僕の判断に委ねられた。
「フィロを信じよう」
何故この決断に至ったかは、ここが森の中だったからだ。
市街地なら自動駆動を優先したと思う。
森という自然の中では、獣人の方が道に詳しいと思ってしまったのは単なる思い込み。
「おい!もう1体来たぞ!!」
「いえ、まだ来ます!計3体!!」
「共倒れになってくれないかな?」
僕らの会話を他所に、フィロはどんどん前へと突き進む。
さながら猪突猛進といったところだが、フィロは猫、猫突猛進と言うべきか。
道なりは獣道となり、岩肌も見えてきて走りにくい。
四足歩行で走るフィロならばともかく、普通の人達なら躓いて転けていただろう。
オウルが自動駆動に運ばれていて本当に良かった。
「───こ、ジャンプ!……その下くぐる!」
岩を跳び、曲がった木の下を潜る。
指示に従いなら獣道を抜けると開けた所に出た。
後ろからは3体の生物が迫ってくる。
「このあとは!?」
「あそこにジャンプしてあれにつかまる」
「「はっ?」」
オウルは自動駆動に運ばれているからいいが、ジェットは傭兵と言えど身体能力は獣人より劣る。
谷越えで絶壁からジャンプして向こう岸の岩に掴まるなんて所業、普通はできないし、考案もしない。
僕はまぁなんとかなるけど、この提案は普通飲み込めないほど。
やはり僕は人選、選ぶべき道を間違えたのかもしれない。
「破れかぶれだ!突き進むぞ俺は!」
「僕もバックアップします!」
「どうにでもなれ!」
「いっくよー!!」
一斉の掛け声により、対岸へと渡る。
黒い生物は何故か急停止。
谷に落ちることもなく、こちら側へ跳ぶこともなく、森へと戻っていった。
「ふぅ、間一髪」
「あの生物って意外と賢いのかもしれませんね」
「俺はもうこの道通らねぇからな」
「これはきねんだね♪」
「おまっ…猫女、まだ持ってたのかよ」
「結局持ってたんだ」
「うん」
黒い生物の歯なんて、どうするのやら。
専門家に売ればそれなり儲けになるのかもしれないけど、中々機会はないだろう。
「あっ、あれ!」
遠くの方には、街が見える。
波乱道中の旅路はなんとか次に繋がったらしい。




