訪れた旅人
【登場人物】
シャルル・ミン
リン・フォワード
「却下だ、君の草案は些か無謀すぎる。もう少し現実を見た方がいい」
投げ出された書類。
私の提案書は今日もまた突き返された。
『共存社会における条項』には、市民と手を取り合って未来を築く、私の思い描いた生活が書かれている。
「それと君がいまここに居られるのは、その才能あってこそだ。肝に銘じておくように、無闇矢鱈に敵を作る必要もない」
「……はい」
言い返すことはできない。
上司の言う事は市政という観点から見れば正しい。
これ以上の反論は、異分子と見做され排除される。
路頭に迷うのは論外だ。
野望は叶わずして終えるだろう。
「でも、このままだといずれ…」
何れは機械だけの都市になる。
そうなれば、道具となるのは私達自身に他ならない。
今から何か行動しなければならないのに、上司は相手にしてくれないし、自分の立場を鑑みれば思い切った、強引な手段はとれない。
結局、何も変えれない、いつも通りの毎日。
「はぁ、散歩でもしてこよう」
気晴らしにカフェにでも行こうかと考えたが、店員も機械だったことを思い出した私は、外を歩くことに変更。
景観なんてものはない。
見慣れた景色。
どんよりした空気。
気分を変えることは到底出来ないと思っていたが、今日の街並みは違った。
この都市では見慣れない服装をした人物が、地図を片手にキョロキョロとしていたのだ。
間違いなく都市外の人間、旅人だろう。
旅人の来訪は珍しくない。
でも今日は何故か、声を掛けずにはいられなかった。
「どうかしましたか?」
「あ、どうも、この都市の人?」
「そうですね」
大方、道に迷ったのだろう。
よく聞く話だ。
「何処にいこうとしてるんですか?」
「いや別にこれといって…観光中かな」
「ここは観光には不向きだと思いますよ」
「これはこれで趣きがあっていいと、僕は思うけどな」
変な人だ。
大きな荷物を持っているわけでもないし、本当に観光かどうか怪しい。
「紹介所ってある?」
「職業紹介所ですか。あるにはありますが、機能していないですよ。ほら、ここは機械が機械人間が働くのが主流ですから」
「なるほどね~」
「働き口を探しているのなら、他の都市や街に行った方が良いと思いますよ」
「丁寧にありがとね、若いのに色々と知ってて凄いね」
確かに私は若い。
10代で開発部に抜擢されたのは偉業と言われてる。
でもこの人の見た目も、私とさほど変わらないと思うけどな。
白髪は苦労している証拠と言われることもあるけど、私はそうは思わないしね。
「そういえば、名前聞かなかったな…まぁいいか」
もう会うことはないだろう。
観光や仕事に不向きと分かれば、他の所に行くはず。
これが、人が増えない理由。
この都市で人間が生きていくには旨味が少なすぎる。
「少しは気分転換にはなったかな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっと貴方、なんでそこにいるのよ?」
「えっ?あっ、さっきの親切な人」
それはどうもありがとう。
普通の事をしただけなのに、感謝されるとは思っていなかった。
というか何故、仕事終わりの帰り道に出くわすの?
そこは私の家の前なんですけど!?
「あ〜ごめんね、話込んじゃってて」
「長…」
旅人が話をしている相手は、ヤヨイ・ユルグ。
私の家の隣に住んでいて、機械都市の前都市長。
通称、ヤヨイ婆。
一人隠居生活を送っている。
「長はもうやめい、昔の話じゃ」
私がこの都市に拾われた際は、現役で仕事をしていた。
長年勤めた役職を降りたのは高齢が理由ではあるが、市政が悪化したのは都市長が変わってから。
私個人としては、復帰してもらいたいと思っているほど、出来た人だ。
「ヤヨイ婆と旅人さんがなんで話をしているの?」
「別に良いじゃろ。それにこのお方、今日の宿はないみたいじゃから泊めてあげなさい」
「なんで私が!?」
「なんでもじゃ、シャルル」
「シャルルっていうんだね、僕はリン、よろしく」
「よろしくって、まだ了承したわけじゃないんだけど?」
一つ屋根の下、若い男女がってやつ?
ヤヨイ婆、変なこと考えてないでしょうね。
私は今忙しいんだから。
恋に現を抜かすなんてこと、絶対にないんだからね。




