第5フェーズ
【登場人物】
リン・フォワード
700年、世界は十分に再生したようだ。
僕の身体のように。
しかし僕の心は未だ再生していない。
燻ったまま、濁ったまま、淀んだままだ。
本当にこのままでいいのか。
このままここで、大地と一体になって、木の一部となって、世界を見守っていていいのか。
いや見守る資格はないはずだ。
この世界を壊したのは僕なのだから。
720年、僕の前を誰かが通った。
彼等はとある組織の話をしていた。
世界を崩壊させたエネルギーを悪用し、爆発物を多量に作り、武器や兵器を作り、世界征服を試みるというものだった。
全ての話が本当かどうかは分からない。
それでも、居ても立ってもいられなかった。
そのエネルギーが僕に関係していることは知っていた。
同じ波長は惹かれ合う。
僕は身体を起こした。
繋がっていた木々や葉は千切れた。
土が舞った。
久しぶりに、足で大地を感じた。
歩く度に足先が知覚する。
新鮮な感覚。
一歩、また一歩と、生きていることを感じ、歩を進めた。
723年、街へと着いた。
どこの街かは分からない。
身なりはゴミを漁って見繕った。
身体は少しばかり熱い。
まだ制御は上手くいっていない。
まだ人には触れられない。
触れたら最後、それは燃え尽きるだろう。
情報は欲しいが、まだ人と話をするほどには、心は回復していない。
昼間の人里に降りるべきではない。
昼間は山で生活し、夜間に降りてきて、人の会話を盗み聞きする。
今はまだそれしかできない。
724年、だんだんと熱操作ができるようになった。
有機物、生きている人間ならば特に熱源探知は有効だと知った。
無機物も僅かに探知できるが、途切れ途切れ。
これの会得にはまだ時間を要するようだ。
それでも盗み聞きは楽になった。
探知のおかげで、人に触れることなく、距離を置いて情報を得られる。
化け物の僕にとっては、とても重要な体質。
人に害をなさない。
存在するのに、そこに居ない、そんな感覚。
725年、この街での情報は十分に得た。
街を出る必要がある。
結局誰とも会話をしなかった。
食事の摂取も必要ではなかったところが大きい。
食べられるし、五感はあるが、エネルギーにはならない。
僕そのもの、この熱量こそがエネルギー。
街の出口には人がいた。
少女とその母親。
見つめる先には帽子。
帽子は高い木に引っかかていた。
僕と少女は眼があった。
関わることはできない。
関わるべきではない。
ここは通り過ぎる、その一択。
なのだが、その途中で僕は止まってしまった。
止まってしまった僕を少女とその母親は見ていた。
僕は勇気を振り絞り、高い木にジャンプして、それを取った。
帽子が焼けることはなかった。
制御は上手くできていた。
帽子を受け取った少女は、お礼を言ってくれた。
その感謝は、ただの一言だが、僕の心は満たされていた。
思わず僕も、ありがとうと呟いていた。
その時、僕の道は決まった。




