海路に落ちる影 10
一応罠を警戒して亀使いの方を見ると砂浜に膝をつき荒い呼吸で時折せき込みながら俺を睨み返してきた。
魔眼で状態を調べてみるとプラーナとマナが完全に枯渇してライフも4分の1を割り込んでおり、もう何も出来ないだろう。
限界突破を解除してアーマードタートルキングの幻核石を拾い上げると海中からファナとリゼラが近づいて来た。
「主様、最後は少しハラハラした。油断大敵、気を付けて。」
「そうよ。私達だって控えてたんだから上手く使って欲しかったわ、セイ様。」
「二人とも悪かった。それと心配してくれてありがと。むこうの二人にも謝らないといけないけど先に済ませて置く事があるから、二人は周囲を警戒しててくれ。」
ファナとリゼラが頷いてくれるのを確かめて剣を鞘に納め、ポーチからポーションを取り出して飲み干し消耗したプラーナとマナ回復していく。
三本目を飲み干して消耗をほぼ回復した所で、傍にいたファナとリゼラが急に構えを取ったので二人が警戒する方へ俺も視線を向けると亀使いが砂浜を這って近づいてきていた。
「その核をさっさと俺に返せ、そうすれば今回だけは見逃してやる。後俺を殺そうなんて思うなよ、俺が死ねばその核からあの亀が魔物として復活するからな?」
にやけた顔で亀使いがこう言って来るのは俺達が幻獣の事を知らないと思っているからだろう。
無視してもいいがこれらやる事を見せつけてにやけた顔を絶望で染めてやろう。
「確かに魔王級の魔物が魔核石から復活したって記録を読んだ頃があるから、あながちお前の言ってる事も嘘じゃないのかもな?だがこの核はお前には返さないしあの亀が魔物として復活する事も無い。」
俺の話を聞いて亀使いの表情が訝しがるものに変わるが構わず話を続ける。
「話は変わるが幻獣使いが絶対にやっちゃあいけない事の一つに幻獣の実体化中にプラーナとマナが尽きて幻獣が核に戻ってしまう事があるよな。戦闘中に起こると無防備になって危険だって理由の他に、使い手がプラーナとマナの枯渇状態を脱するまで幻獣の核との契約が失効状態になるからって訳もある。この状態だと他の使い手に幻獣を奪われる可能性があるからなんだが、ここまで言えばこれから俺がやる事も分かるな?」
訝しがっていた亀使いの表情が引きつり、やめろーと叫ぶが構わず手の中の核へプラーナとマナを注ぎ込んで行く。
かなりの抵抗を予想いていたがすんなり契約の更新は進んで行きポーションで回復した以上のプラーナとマナを俺から吸収してあの亀が俺の目の前に実体化した。
亀使いが実体化していた時から大きさは変わってないように見えるが明らかに迫力が増し、魔眼で鑑定してみると剛力のアビリティが追加され確かに俺の幻獣になっている。
「今日からお前の名前はタルドルだ。よろしく頼むぞ。」
話かけたタルドルは嬉しそうに一吠えするが、ゆっくりと首を伸ばして後退りをする亀使いを睨みつけた。
視線に憎悪が籠っているのでかなり扱いに不満があったんだろう。
「そいつは始末するつもりだから、お前がやりたいんなら好きにしていいぞ。」
短く吼えて答えたタルドルは、尻尾を連接剣のようにして亀使いを胴薙ぎに両断すると口から炎のブレスを吐き出して瞬く間に灰へ変えた。
「よし、ここの始末はこれでいい、戻ろう。」
タルドルを幻核石に戻し頷いてくれた二人に傍へ来てもらい転移法術を発動した。
海賊船の甲板に出るとアリアとティアが傍に寄ってきてくれる。
「ご無事で何よりです。セイジ様。」
「私達の準備が無駄になって本当に良かったです、御主人様。」
「二人共心配してくれてありがと、それと海賊たちの見張りご苦労様。」
2人とも笑顔で頷いてくれた。
「一息つきたい所だけど、俺はモネイラさんと話をしてくるから拘束されてる所へ案内してくれ。」
ファナが頷いて先に立ってくれ俺は後に続いた。
案内してくれた部屋の扉を開け俺が先に入ってモネイラさん達へ話かける。
「今回は、災難でしたね、モネイラさん。」
黙って座っていたモネイラさん達が一斉に俺の方を向いた。
「セイジ殿、脱出されたのでは?」
「確かにモネイラさんの言うとおり逃げたんですけど、海賊たちが余りに無防備だったんで奇襲を仕掛けて全員生け捕りにするか仕留めました。片が付いたので皆さんを解放しに来たんですが、その前に一つ決めておきましょう。」
「海賊から手に入れる戦利品の分配の話ですな?」
「ええ、その通りです。時間をかけて腹の探り合いをするのは苦手なので、俺の腹案を言います。海賊たちが使役していた幻獣を回収したのでこれは俺達が貰います。代わりに生け捕りにした海賊達と海賊船その物はモネイラさん達が自由にしてください。後の船内やもしあるならアジトの金品は山分けにしましょう。これでどうですか?」
海賊達がどれ位ため込んでいるかは分からないが、この案なら船の舷側を壊した事や義理を欠いて逃げた事も水に流してくれるだろう。
「異論を言える立場ではないので戦利品の分配はセイジ殿が言われた案の通りで構いません。ただ旅客のままで構わないのでセイジ殿達には予定通りシュクラまで同道をお願いできませんか?」
「ええ、いいですよ。シュクラまで旅客として同行します。」
話しが纏まったのでモネイラさん達を縛る縄を順に切っていった。
モネイラさん達と甲板へ戻り海賊達に隷属制約をかけてアジトが何処か聞いてみたが、船をねぐらにしていたようで特定のアジトを持ってはいなかった。
その分船内に略奪品を溜めこんでいてモネイラさん達から奪った物以外に900万ヘルク強の白金貨や金貨に1000万ヘルク以上の宝飾品や美術品があった。
金品は山分けの約束だったが俺達には現金化が難しい宝飾品や美術品はすべてモネイラさん達に譲り、代わりに白金貨や金貨は全部俺達の取り分にさせて貰った。
海賊たちの所有権を引き渡すと俺達は元の部屋に戻って休ませて貰ったが、モネイラさん達は無理を押して準備を整えたようで日の出とともに2隻の船は動き出した。
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