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海路に落ちる影 8

 天気が良かったせいだと思うが、シュクラへ向かう船旅はクイルを出発して6日目の昼まで退屈なほど問題なく快調に進んだ。

 船内も弛緩した雰囲気に包まれていたが6日目の午後視界に小さな島が幾つか見え出すと船内は一気に緊張した雰囲気に包まれる。

 見張りに立つ人員が倍になり日が沈む前に島影に錨を降ろして船を止めると息を殺したように灯火管制を敷いて日の出を待つ。

 周囲が明るくなると直ぐに錨を上げて帆を張り航海を再開した。

 この息が詰まるような緊張した状況がいつまで続くのか休憩していた船員に訪ねてみると予定通り航海が進めば明日の昼前に群島部を抜ける筈だが、今夜襲撃される可能性が高いとも教えてくれる。

 嫌なフラグが立った気がするが、何が出来る訳でもないので大人しく割り当ての船室に戻り退屈な時間を持て余した。

 日が陰り始めると早々に船を島影に止め錨を下ろして停泊した。

 夕食も早めに済ませて休むが海賊襲撃の話を聞いたので今夜は俺達も夜番を立てるとみんなで決め俺が最初に務める。

 夜半前ファナに代わって貰いベッドで横になるが10分のしない内に声を掛けられた。


「みんな起きて、何か大きなものが近づいてくる。」

 ベッドから飛び起き気配探知を広げてファナの言う大きなものの気配を見つけるとそれへ魔眼を向けてみる。

 まだかなりの距離はあるが近づいてくる気配はやはり船で、このモネイラさんの船には及ばないがそれでも十分大型と言っていい大きさがある。

 帆の向きを調整している船員を数人鑑定してみると皆海賊と見えるので嫌な予感が的中したようだ。

 黙って見ている訳にもいかないので海賊の襲撃を伝えようとベッドから立ち上がり扉を開けるが、甲板上の監視要員達も気付いたようで襲撃と迎撃準備を伝える報せが聞こえてくる。

 俺達も迎撃に手を貸そうかと思ったが非戦闘員は船室で待機と聞こえるし、連携の確認もしていない人間が下手に係わっても混乱が起こるだけだろうからここは船上戦闘のやり方を見せて貰うとしよう。

 扉を閉めるとみんな装備を身に着け始めていたので俺も倣って鎧を着ながら話しかける。

「聞こえた通り船の警備も気付いて対応するみたいだから今は任せよう。」

 みんな、はいと返事をして頷いてくれた。


 襲撃に気付いても船が動き出さない所を見ると海賊を返り討ちの出来る自信があるんだろう。

 剣帯を腰に巻き剣と盾を佩びて戦闘準備を終えると状況確認のため外へ魔眼を向けてみた。

 だいぶ海賊船が近づいてきているがこちらも戦闘準備を終えたようで、甲板上に幾つも篝火がたかれ武装した人達が息を整え待機している。

 40人程いるその人達はほとんど同じような革鎧を着こみ確かシミターと言った曲刀を腰に刺して弓を持っているが10人程毛色の違う装備をしていた。

 ローブ姿に杖を持った人もいれば明らかに場違いな全身金属鎧を身に纏った人もいるので彼らは臨時の護衛として雇われた討伐者達なんだろう。

 レベルも全員20代後半なので中々の使い手をモネイラさんは集めてみたいだ。

 海賊船がさらに迫って来てこちらの船に突っ込んでくるかと思ったが、舳先が逸れ帆の開きを変えて減速が始まるとこれが合図になったようで双方攻撃を開始した。

 まず魔術の明りを撃ち込んで敵船を照らしだし、続いて弓を射かけ魔術を撃ち込んでいく。

 加えてこちらからは大型のバリスタで槍のような矢を撃ち込み、護衛の討伐者の一人が短槍を投げ込んでもいた。

 攻撃の手数は明らかにこちらの船が上回りで海賊船の攻撃はすぐに低調になったので、さっさと逃げ出すか大人しく降伏すると思っていたら海賊船からの攻撃が止んだ次の瞬間向こうの船に桁外れに大きな気配が急に現れた。

 俺達が幻獣を実体化した時の感触とよく似ていたので慌ててその気配へ魔眼を向けてみると、そいつがいた。


アーマードタートルキング Lv58

筋力 406

体力 743

知性 406

精神 743

敏捷 232

感性 290

アビリティ

王城たる甲殻

全属性干渉

自動回復

剛体

体内多重障壁

スキル

5個


 鑑定で見ると感じた通りそいつは誰かが実体化した幻獣のようで、能力も化け物だがそこそこ大型の海賊船の甲板を占領するその亀によく似た巨体も圧巻だ。

 その姿で俺の知っている亀と違う所は単に大きさだけじゃなく首や四本の足に尻尾まで一目で強固と分かる鱗に覆われ頭も蜥蜴や竜のそれに似ている所だろう。

 能力的に見ても限界突破まで使えば何とか向こうの攻撃を防げるだろうが、恐らくこちらの攻撃ではかすり傷をつけるのが精一杯でそれも直ぐに回復されてしまう筈だ。

 いきなり現れたそいつに俺がかなり驚いたように同系統の探知スキルを持っているんだろう数人の討伐者の手も止まるが、他の人達は気付かなかったようで戦闘にさっさと決着をつけようと勢いを増して攻撃を続行する。

 数を増した矢と魔術が海賊船に殺到するがそいつが一吠えして船の周囲に展開した障壁が全ての矢を弾き揺らぎもせず魔術を全部受け切った。

 この船の船員や雇われた討伐者達はやはり腕利きのようで、今の攻撃を完封され戦闘の流れが変わったとすぐに判断し攻撃を続けながら錨を巻き上げ逃げる準備を始めるが、海賊船は舷側を横付けしようと距離を詰めてきた。


 あの亀と正面から戦っても勝ち目は無さそうだし、旅客である俺達にこの船を守る義務はないので少し後ろめたいが俺達は単独で逃げるとしよう。

 転移法術は発動した時点で周囲へ大きな余波が伝わるのでまだ海賊に見つかっていない今は使用を避け、海賊船から見て死角になる舷側から海に入りそのまま海中を逃げよう。

 傍にある島以外でここから近い陸地は恐らく海賊達が隠れていたと思う小島が海賊船の向こう5km程に見えるだけで後は10km以上離れている。

 気は進まないが一旦この島に上陸し魔眼で情報を集めてから次にどう動くか決めよう。

 亀の幻獣を捕捉眼の目標に設定し魔眼を切って船室に遮音結界を展開すると皆を見回した。

「みんなも気配で分かると思うけど急に現れたヤツには恐らく勝てないと思うから、俺達は独自にこの船から逃げる異論はないな?」

 全員頷いてくれるので話を続ける。

「転移法術を使うと海賊達に気づかれるかも知れないから、海賊船の死角になる舷側に穴をあけて海に入りそのまま海中を逃げよう。」

 今度も全員頷いてくれたので具体的な手順を素早く相談し、ファナからクザンの幻核石を受け取ると遮音結界を解除して船室を飛び出した。

 上から怒号が聞こえてくる船内の廊下を走りながら水精霊を召喚して加護を展開し、運よく船員とすれ違わず目的の舷側に接している船倉へ飛び込むと嵌め殺しの窓の周囲を剣で切り裂き人が通れる穴をあけた。

 相談した通り最初にファナがその穴から外へ飛び出しティアとリゼラが続くと、俺も剣を鞘に納めてアリアを腰から抱き上げると穴から海へ飛び出す。

 障壁法術を待機して弓や魔術の狙撃に備えたが2〜3秒で何事もなく着水でき法術の待機を解除してクザンを実体化した。

 俺の真下に現れたクザンの角を掴んで周囲の気配を感じてみるとティア達も集まり終えているようで、確認のため魔眼を向けると三人共にペネルの角を掴み終えていた。

 

 戦闘を迂回して目的の島へ向かうようクザンを操りティア達とペネルの気配がついてくるのを確かめると戦闘の様子を確認するため船の方へ魔眼を向ける。

 モネイラさんの船は動き出しているが海賊の船も間近に迫っており必死に攻撃しているが全てあの亀の障壁に阻まれている。

 さらに両者の船が近づきほぼ横に並んだ瞬間、あの亀が足裏から大量の水を噴出させながら飛び上がりモネイラさんの船へ降下していく。

 甲板へ強引に着地する事で4〜5人踏み潰し揺れる船に足を取られて動きの止まった人達を噛み潰し、伸ばした尻尾の先端を剣のように尖らせて振り回し何人も仕留めていた。

 一連のあの亀の攻撃で腕の立つ討伐者達は全滅したようでそこからは作業のように船員達が倒されていく。

 勝敗は決したようだし俺達を追って来る様子も無いので進行方向へ視線を戻した。




お読み頂き有難う御座います。

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