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エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない  作者: 秋月真鳥
最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
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29.クリスタの結婚式

 クリスタの結婚式は王宮で行われる。

 わたくしとエクムント様は前日から王宮入りをしておいて、クリスタのウエディングドレスを楽しみにしていた。

 花嫁と被らないようにわたくしは辺境伯領の特産品の紫の布で作ったドレスを着て、髪は結い上げて赤い薔薇の花の髪飾りで纏める。エクムント様は青い爽やかなタキシードを纏っている。

 エクムント様に手を取られて王宮の大広間に行くと、クリスタが父にエスコートされて大広間に入ってくる。

 ヴェールは裾がピンク色に染められて、金糸で刺繍が施されている。金色のティアラは王妃殿下から譲られたものだろう。ウエディングドレスは、金色の刺繍の他に、ピンク色の薔薇とその葉のような緑の刺繍が施されていて、上は純白なのだが裾に向かってピンク色に染まっていて、裾にはピンクの薔薇と葉が並んでいる。

 物凄く豪華なウエディングドレスに見とれていると、父がクリスタに何か囁いて、クリスタが頷き、ハインリヒ殿下の隣りに歩み出る。

 ハインリヒ殿下とクリスタが並んだ前に、国王陛下が立った。


「ハインリヒ、クリスタ、誓いの言葉を」

「私、ハインリヒ・レデラーはクリスタ・ディッペルを妻とし、健やかなるときも病めるときも、生涯愛し、共に生きることを誓います」

「わたくし、クリスタ・ディッペルはハインリヒ・レデラーを夫とし、健やかなるときも病めるときも、生涯愛し、共に生きることを誓います」


 誓いの言葉が述べられると、国王陛下が結婚誓約書に二人にサインをさせる。

 これでクリスタは皇太子妃殿下になったのだ。今後は公の場ではクリスタ殿下と呼ばなければいけない。

 指輪を交換して、誓いの口付けをする二人に大広間は拍手でわいていた。


 結婚式が無事に済むと、昼食会で披露宴が行われる。

 結婚式の披露宴は年齢に関係なく参加できるので、フランツもマリアも、デニス殿もゲオルグ殿も、ガブリエラ嬢もケヴィン殿もフリーダ嬢も、ユリアーナ殿下も参加していた。

 ディーデリヒ殿下とディートリンデ殿下の席も用意されていて、席に座っていられないときのために食堂の隅に敷物をしいて乳母がおもちゃを用意して遊ぶスペースも確保されていた。


 前世の記憶では『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』はこの結婚式で最終巻で、完結していたのだが、そこに描かれている挿絵の衣装とクリスタ殿下が実際に纏っている衣装とは全く違う。ハインリヒ殿下も黒のタキシードに青と金の刺繍が施されたものを着ていて、最終巻の表紙の絵が結婚式の絵だったのだがそれとは全く違っていた。

 原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』では国王陛下と王妃殿下の和解もなかったし、ユリアーナ殿下やディーデリヒ殿下やディートリンデ殿下の誕生もなかった。

 王妃殿下のティアラを譲られることもなく、王妃殿下のアイデアでクリスタ殿下の好きなピンク色をウエディングドレスに混ぜることもなく、古めかしいウエディングドレスで原作では結婚していたのだろう。


 何より、クリスタ殿下の表情が全く違う。

 表紙や挿絵でも笑顔だったのだが、いわゆる貴族の嗜み的な笑顔だったのが、心から嬉しそうな喜びに満ち溢れた顔になっている。


「今日はクリスタが我がレデラー家の一員となる大事な日。そんな日に祝いに来てくれた皆の者に感謝する。クリスタはこれから皇太子妃としてこの国を導いていく。私もクリスタの活躍に期待し、応援したいと思っている」

「わたくしのために、ありがとうございます、国王陛下。わたくしもこのめでたい日を迎えられて心から幸せでいっぱいです。ハインリヒ殿下の妻として、王家の一員として、これまで以上に努力していこうと思います」

「クリスタ、私のことは今後、義父上と呼んでくれると嬉しい」

「わたくしのことは義母上と」

「はい、義父上、義母上」


 クリスタ殿下が王家に認められて結婚式を挙げている。

 原作ではこの場に王妃殿下はいなかったし、「義父上」「義母上」と呼んでほしいだなんていう親し気な言葉は出てこなかったはずだ。

 本当に完全に物語は変わったのだと思うと同時に、クリスタ殿下の物語はこれで終わりではなくて、これからもクリスタ殿下の人生も、わたくしの人生も続いていくのだと実感できる。


 微笑ましい挨拶を聞いてから、わたくしはエクムント様と一緒にクリスタ殿下とハインリヒ殿下のところにお祝いに行った。


「クリスタ殿下、本当におめでとうございます。ウエディングドレスもとてもよくお似合いです」

「お姉様……ではなかったです、辺境伯夫人にそのようなことを言われると、本当にわたくしも結婚したのだと実感できて嬉しいです。辺境伯夫人、住む場所は離れてしまいますが、これからも我が国を支え続けてください」

「もちろんです、クリスタ殿下」


 差し出されたクリスタ殿下の手を握ると、とても暖かかった。


「ハインリヒ殿下、この度は本当におめでとうございます」

「ありがとうございます、エクムント殿……いいえ、公の場では辺境伯とお呼びせねばなりませんね」

「クリスタ殿下は私の妻の妹で、私の義妹にもなります。これからもエリザベート共々よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。辺境伯領は今やこの国の経済を支える大事な場所となっています。辺境伯領なしにこの国は存在しえません。どうか辺境伯領と中央の繋がりを大事に思ってくださると嬉しいです」

「もちろんです」


 ハインリヒ殿下とエクムント様も手を取り合って挨拶をしていた。


 昼食会が長引いたので、お茶会は開かれず、各自の部屋で休憩してお化粧直しや衣装直しをして、晩餐会にまた食堂に集まった。

 食堂で晩餐を食べると、大広間に移動して舞踏会が始まる。

 舞踏会は何度も経験があるが、わたくしはエクムント様のそばを離れないように気を付けていた。


 以前に飲み物をすり替えられて、葡萄ジュースではなくてアルコールの高い蒸留酒の入った葡萄酒を飲んでしまったことがあるのだ。

 そんなことをする無礼者は現れないだろうが、それでも一度そういう経験をしてしまうとアルコール自体にわたくしはいい思い出がなかった。


 エクムント様と一緒にいると、結婚式なので特別に参加を許されているデニス殿とゲオルグ殿がわたくしたちのところに駆けて来た。


「フィンガーブレスレットが届きました! 物凄く格好いいです!」

「これで、こうして……変身!」

「私たちもドラゴンの戦士になれる気がします」


 マルレーンが書いている少年向けの物語は、主人公が手の甲にある紋章でドラゴンの力を解放して、ドラゴンの戦士に変身するものだった。変身のポーズをとるゲオルグ殿に負けじとデニス殿も変身のポーズを取っている。


「マルレーンに許可を取って、主人公の手の甲にある紋章に似せた配置でガラスビーズを編み込んだフィンガーブレスレットを作れば……」

「なんですか、それは!? 欲しいです!」

「私も欲しいです!」


 思わず呟いてしまったことにデニス殿もゲオルグ殿も反応している。

 これは新しい商売ができそうだ。


「マルレーンにもお金が入るようにしましょうね」


 この世界に著作権はないのだが、優しく言ってくださるエクムント様に、わたくしはエクムント様が夫でよかったと心から思ったのだった。


 エクムント様はわたくしが幼いころからお世話をしてもらったマルレーンを尊重して、そのアイデアのフィンガーブレスレットを作るとなると、ちゃんと発案者のマルレーンにもお金が入るようにしてくれようとしている。

 わたくしにとってマルレーンは特別な相手であり、ずっと幼いころから一緒だったので大事なのは当然だが、一人の侍女だったマルレーンをエクムント様まで尊重してくれようとしてくれるのが本当に嬉しい。


「エクムント様、ありがとうございます」

「エリザベートの発案で、またフィンガーブレスレットが売れそうですよ。お礼を言うのはこちらの方です」

「お礼などいりません。わたくしも辺境伯領の一員なのですから」


 胸を張って答えると、エクムント様が「そうでした」と微笑んでくださった。


読んでいただきありがとうございました。

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