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スタニスラスが攻略対象だった場合

もしも、ストワにスタニスラス攻略ルートがあった場合。

ヒロインはスタニスラス狙いで起動してます。全員ゲームキャラ且つルイーズは悪役令嬢キャラとして降臨してます。

にゃんだふるLove・2も執筆中。次回投稿予定です


生徒会長であるスタニスラスと副会長のルイーズは担任に呼ばれ職員室へと来ていた。



「それでは、失礼します」

「失礼致します」


スタニスラスとルイーズは教師との対話も終わり頭を下げて職員室を出ようとした時、


「きゃっ」

「おっと……」



スタニスラスがドアを開け職員室を出ると職員室に入ろうとしていた一人の少女とぶつかった。スタニスラスの胸板に顔を打ち付けた少女は鼻を抑えながら顔を上げる。


「すまない。怪我はないかい?」


スタニスラスは少女の肩に手を添えて、少女に問う。

スタニスラスにぶつかった少女、ラシェルは目の前に佇む青少年に目を奪われた。

光を反射する神々しいまでの銀の髪に吸い込まれるような澄んだ深い青。見るもの全てを圧倒し惹き込む程の美貌。


「ちょっと貴女、何時まで抱き着いているのよ」


スタニスラスとラシェルが未だ密着したままでいると、呆然と目の前の男性に見蕩れていたラシェルの耳に不機嫌そうな女性の声が聞こえ我に返る。

スタニスラスの背後には柳眉を寄せて、ラシェルに鋭い目を向けるルイーズがいた。


「あ、わっ。す、すみません!私は大丈夫です」

「だが、念の為保健室に──」

「いえ!ほ、本当に大丈夫です!それよりも、貴方は大丈夫ですか?」

「ああ、私なら大丈夫だ」

「そうですか。良かったぁ。前方不注意で本当にすみませんでした」


ラシェルは慌ててスタニスラスから離れ頭を下げると、スタニスラスの提案に頭と手を同時に振って断り。

スタニスラスの容態を確認して、無事だと分かれば胸を撫で下ろして再度謝罪を述べて職員室内へと入って行き。

第一王子を目の前にしても物怖じしないラシェルの姿に驚くスタニスラスとルイーズ。だが、二人は生徒会長と副会長だけあって中等部の生徒は全員把握している。しかし、彼女に会ったのは二人とも初対面で直ぐに、近々庶民から珍しいストレンジを持つ少女が入学して来るという噂の人物なのだと目星をつけた。


「私の事を知らなくとも、私を前にしても物怖じしないとは珍しい子だったな」

「……殆どの女生徒はスタン様を目の前にすると、上がってしまって上手く話せなくなりますものね」

「ああ。物怖じしない人物は君以来だな」

「何だか愉しそうですわね」

「いやいや、可愛い子だったなって思っただけだよ」

「……っ。そうですか……それは良かったですわね」



ルイーズはスタニスラスの言葉に一瞬下唇を噛み締めた。スタニスラスはルイーズの婚約者でルイーズは彼の事を愛していた。

だから、本当は愛しい彼の口から他の女を褒める言葉なんて聞きたくない。だけど、そんな事を言ってしまえば重いヤツだと思われるかもしれないと思ったルイーズは喉まで出かかった言葉を呑み込む。

変わりに出て来た言葉はとても可愛くない言葉。

ルイーズは素っ気なく言葉を返して続く廊下を先に歩き出す。


また、可愛くない言い方をしてしまった。

本当は他の女性を可愛いなんて言わないでと言ってしまいたい。

素直になる事も、寛容になる事も出来ないルイーズは嫉妬に歪んだ内情を隠すように歩く速度を早める。


「ルイーズ?」


スタニスラスがルイーズの変化に気付き名前を呼ぶ。


「わたくし、教室に忘れ物をしたのを思い出しましたのでスタン様は先に生徒会室に行かれてて下さいませ」


彼にだけはこんな重くて醜い自分を見られたくなくて、自己嫌悪に陥る自分を隠してしまいたくて無理矢理笑顔を貼り付けてそれだけ言うと教室の方面へと向かう。


「ルゥ」


スタニスラスはルイーズの腕を掴み、引き寄せて捕まえる。


「ルゥ……何か怒っているのかい?」

「お、怒ってなどいませんわ」

「じゃあ、さっきの作り笑いは何だい?私に隠し事が出来ると思ってるの?」


ルイーズの腰に腕が回る。

背後から抱き締められる形で捕えられては逃げ出す事も出来ない。

こんな時でもドキドキと高鳴る胸の音がうるさい。早く、解放される事を願っていると腰に回された腕とは反対の手で顎を掴まれ持ち上げられる。


「ルゥ……君の嘘を私が分からないとでも思っているのかい?」


顔を持ち上げられた事で、スタニスラスを見上げる状態となったルイーズは目前に迫るスタニスラスに目を見開き徐々に体温が上昇する。

目を逸らしたいのに、スタニスラスの吸い込まれるような青い瞳から目が逸らせない。頬は淡紅色に染まり、瞳が潤む。

スタニスラスは腕に抱き込んだ婚約者の身体がふるふると小刻みに震え、上気した頬に耳まで真っ赤に染まる姿は小動物を思い立たせた。何時もは、釣り上がった目尻が気の強い印象を他者に植え付けてしまうルイーズだが、スタニスラスの腕の中で困惑している彼女は今はそんな気の強さなど微塵も感じさせない程に眉尻を垂らし蠱惑的な菫色の瞳には涙が滲み潤んでいる。


「はぁ……君はまたそんな顔を……」


普段は凛々しく近寄り難い雰囲気を醸し出す彼女がこんな表情をするなんて、他の男に知られれば今まで以上にルイーズにお近付きになろうとする不届き者が出て来てしまうとスタニスラスは嘆息を吐いた。

しかし、スタニスラスの溜息にルイーズは彼に呆れられたのだと思うと更に涙が滲んだ。

これ以上、嫌われたく無くてスタニスラスの手から逃れて顔を俯かせ彼の胸板を彼方に押した。


「わたくしは何も隠してなどおりませんわ。わたくしはこれで失礼致します」


潤んでいる瞳を隠すように双眸を細めて笑顔を作り、スタニスラスが何かを言う前に脱兎の如く逃げ出した。


「ちょ、ル……ゥ。」


スタニスラスは手を伸ばして、再度ルイーズを捕まえようとするもその手をすり抜けて彼女は淑女らしからぬ動きで走り去って行った。

幸いな事に人気がなかったから良かったものの、上級貴族のご令嬢が脱兎の如く逃げ出す姿など人に見られれば噂所ではすまない。


スタニスラスは行き場を失った手を引っ込めて前髪を掻き上げる。


「あれ……絶対勘違いさせたよな。だけど……何だよあれ。可愛過ぎるだろっ。最後も公爵令嬢が脱兎の如く逃げ出すって……。くくっ、本当に、ルゥは可愛過ぎて困る」


彼女の泣き出しそうな表情から勘違いさせた事は理解している。だが、スタニスラスに迫られて上気する頬も潤む瞳も淑女らしからぬ動作も全てはスタニスラスだけが知っていること。

そう思うと、胸の内からルイーズに対する愛しい気持ちに自然と表情が緩和され綻ぶ。


「少し、意地悪し過ぎたかな。後で、ちゃんと誤解を解いて置かないと」


本当は言わずとも彼女の嫉妬には気付いていた。

だけど、ルイーズの口から彼女の胸の内に隠した言葉を言わせたくて少し意地悪をしてしまった。

ルイーズは自分の事を重いだとか醜いと思っているようだが、そんな事は無い。惚れた女にヤキモチ妬かれて気分を害する男が何処にいるだろうか。

寧ろ、普段色々と我慢している彼女から自分だけを見て欲しいなんて言われたら理性が飛んでしまわないかだけが心配だ。


「あ。貴方は先程の……」


背後から声を掛けられ、スタニスラスは振り返る。

そこには、先程職員室を出る時にぶつかった少女がいた。


「やあ。もう、編入の手続きは終わったのかい?」


スタニスラスは即座に王子スマイルに切り替えてラシェルと対面する。


「え!?何故私が編入だと知っているんですか?」

「私はこの学園の生徒会長だからね。中等部の生徒は全員把握しているよ。君は二年生に編入して来たラシェル嬢だろう?」

「は、はい。生徒全員の名前を知っているなんて凄いですね」


ラシェルは視線を彷徨わせながら頬を赤らめ、賞賛する。


「ははっ、これくらい別に凄いことではないよ。それに、先程私と一緒にいた女生徒がいただろう?彼女も中等部の生徒は全員把握している」

「す、凄い。私なんて今から友達が出来るかも心配ですし、名前を覚えるのも大変だと不安になっていました」

「君なら心配しなくてもすぐに友人が出来るんじゃないかな」

「本当ですか!?」

「君次第だけどね」

「私、頑張ります!友達100人目指します」

「うん。頑張ってね。それじゃあ、私はそろそろ生徒会室にいかないと行けないから失礼するよ」


スタニスラスは作り笑いを浮かべたまま、ラシェルとの会話を切上げ生徒会室へ向かおうとする。


「ま、待って下さい!あの……お名前を伺ってもよろしいですか?あっ、えっと……せ、先輩に対して失礼な態度でしたら申し訳ございません」


ラシェルは慌ててスタニスラスの手を掴んで引き止める。掴んだ手を両手で握り直し背の高いスタニスラスを上目遣いで見上げながら首を傾げる。

ふと、我に返れば手を離してあわあわと狼狽えながら頭を下げた。


「ははっ。いいよ、気にしなくて。私の名前はスタニスラスだ」

「あの、スタニスラス様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「君の好きにしたらいい。それじゃあ、今度こそ私は行くよ」


スタニスラスはラシェルに別れを告げて、生徒会室に続く廊下を歩き出す。

背後では、惚けた様子でスタニスラスを見つめるラシェルだったが、スタニスラスは一度も振り返る事はなかった。そして、ラシェルに背を向けたスタニスラスの顔には一切の表情が無く全ての感情が抜け落ち、寧ろその能面のような表情は恐ろしくもあった。



数日後。


スタニスラスは二階の窓から外を眺めていた。

その表情は柔らかく、スタニスラスのその表情を目撃した令嬢達は自分に向けられたものでなくても思わず赤面してしまう程に優しく慈愛に溢れた表情をしていた。


「ルイ──」

「スタニスラス様」


誰もが畏れ多いと遠巻きに彼を見つめる中、スタニスラスに近付く影があった。

スタニスラスが窓の外に呼び掛けると同時に、彼の名を呼ばれてスタニスラスは其方を振り向く。


「君は……」

「あ、あの。その……クラスの仲良くなった子からスタニスラス様の話を聞いて……私一度ちゃんと謝りたくって!スタニスラス様がダルシアク国の第一王子であらせられると知らなかったとはいえ、大変無礼を致しました」


スタニスラスを呼んだのは二年生に編入して来たばかりのラシェルだった。


「気にしなくていいよ。私も自分の正体を言わなかったのだし、君が謝ることじゃない」

「しかし……」

「この話はもうお終い。私が王子だからとそう畏まらなくていいよ。この学園では、身分を振り翳す事は禁止されているし何より私達は同じ学生でしか無いんだから」

「は、はい。ありがとうございます」


スタニスラスは繕った笑顔を向けて、ラシェルに微笑む。スタニスラスが万人に向ける笑顔だ。

ラシェルは先程の慈愛に溢れた表情とは違うと感じているも、自分に向けられた笑顔に胸が高鳴り頬が色付く。


「それじゃあ、君も友達作り頑張ってね」


スタニスラスはそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。

ラシェルは呼び止めたかったが、おいそれと王子を呼び止めるなんて事は出来ずに彼の後ろ姿を見送った。


「スタニスラス様は何を見ていらしたのかな」


先のスタニスラスの表情が気になってラシェルは窓の外を見る。彼が見下ろしていたように下に視線を向けると、そこには、ルイーズの姿があった。

ルイーズは自分の水のストレンジを使って花壇に水やりをしていたのだ。

ルイーズは蹲踞の姿勢で花達を愛でていた。


「あの方は確かスタニスラス様の婚約者の……」


ラシェルはツキンと胸が痛むのを感じた。

その時は、これが何なのか分からなかったが後々この胸の痛みの正体を知る事となる。



月日は流れ、ラシェルは自分がスタニスラスに恋をしているのだと気付いた。

だけど、彼には婚約者がいる。駄目だとは分かっていたが、この気持ちを止めることは出来なかった。

表立って、気持ちを打ち明けることは出来ないけれど、スタニスラスに遭遇すれば何かと話しかけたり、分からない問題の教えを乞いたりと何とかしてスタニスラスと接点を持とうと頑張った。


「スタニスラス様!」

「ラシェル嬢、今日はどうしたんだい?」

「スタニスラス様は先輩ですし、ラシェルと呼んで下さっていいんですよ?」

「ラシェル嬢、御機嫌よう」

「あっ、ご、御機嫌よう。ルイーズ様」


スタニスラスとルイーズが渡り廊下を歩いていると、向かいからラシェルが此方に向かって来ておりスタニスラスの姿を見つけると表情を華やかせて駆け寄った。

ルイーズは、スタニスラスの二歩程後ろについて歩いていた為、ラシェルの方からは背の高いスタニスラスの影にルイーズが隠れてしまって気が付かなった。

それを指摘するように、ルイーズがスタニスラスの後方からラシェルが見える位置に移動して挨拶をする。ルイーズも一緒だとは思わなかったラシェルは彼女の存在に思わず萎縮してしまった。


「それで、ラシェル嬢は何か私に用があるんじゃないのかい?」

「あ、そ、そうでした。えと……先日スタニスラス様に教えて頂いたところがテストに出ていい点数が採れたので御礼を言いたくて」

「へえ、それはおめでとう。だけど、それは君が頑張った証だよ」

「……態々、そんな事でスタニスラス様を呼び止めたんですの。それに、スタニスラス様の手を煩わせるなんて……これだから庶民は」

「ルイーズ。ごめんね、彼女も悪気があったわけじゃないんだ。」

「い、いえ。ルイーズ様の仰る通りですので。申し訳ございませんでした」


スタニスラスはルイーズを咎め、ラシェルに向き直り謝罪する。

こういった事は今回が初めてではなく、ラシェルはルイーズと出会うと何かしら小言を言われていた。その所為で、彼女に対しての苦手意識が強まりルイーズに出会うと怯えてしまう。

ルイーズの注意にラシェルは目尻に涙を浮かべてスタニスラスとルイーズに頭を下げて走り去った。



最近、スタニスラスの周囲に付き纏う存在にルイーズは面白くない感情を抱いていた。

ハニーピンクの髪に甘い蜜を流し込んだような蜂蜜色の瞳。天真爛漫で男女共に人気者の彼女。身長は低くて優しく垂れた目尻と常に潤んだ瞳は小動物のようで庇護欲を唆る。

自分とは、真逆の存在。

それが、ルイーズがラシェルに対する印象だった。

彼女の飾らない天真爛漫さは庶民だけでなく、貴族の男性をも虜にしていった。

それに、容姿も相俟って年上からも人気を博した。

彼女の天真爛漫さはスタニスラスにも適応された。人とあまり壁を作らないラシェルはスタニスラスと仲良くなり、勉強を教えてもらったりする程に仲良くなっていたのだ。


「スタニスラス様……わたくし、これから用事がありますので失礼致しますわ。先程は行き過ぎた発言を致しました。申し訳ございません」

「ルゥ……」

「それでは、御前失礼致します」


ルイーズは深々と頭を下げた。スタニスラスが小さくルイーズを呼んだが気付かない振りをして、スタニスラスと分かれた。

ルイーズは早歩きで、花壇へと向かった。

嫌い嫌い嫌い。

醜く嫉妬してしまう自分に嫌気がさしていた。


「これ以上、醜くなりたくないのに……スタン様のことを思うと止まらなくなってしまう。こんなわたくし……スタン様には見せられないわ」


ルイーズは何時もの花壇の場所に着いて、蹲る。


「あの女が近付くだけで、スタン様があの女に笑顔を向けるだけでわたくしの心が真っ黒に染まってしまいそうで恐ろしいわ。本当は嫌なの。スタン様が他の女性に笑顔を向けているだけでも。いつか、わたくしも見たことない笑顔をわたくし以外の誰かに向けられるのが怖いのよ」


ルイーズの瞳からポロポロと涙が溢れる。

それと同時に胸の内に溜め込んでいた思いを吐き出した。

周りからは、完璧な令嬢と賞賛されているけど本当は欠点だらけだ。本当は繊細で、ちょっとした事でも傷付くし、スタニスラスの事となると歯止めが効かなくなる。

何時も不安で不安で、心の鎧を身に纏って自衛しなければ、スタニスラスに執拗に執着するただの女に成り下がってしまう。

それだけは嫌だった。

彼の役に立つ為に努力を重ねて来た。外には決して出さないけど、彼と同じ目線に立ち、彼と対等に意見を交わせるくらいの頭脳を持たなければと。

他の令嬢達に追い落とされない程の完璧な令嬢となり、強い心を保たなければと。

そう思って頑張って来た。


だけど、今までスタニスラスが誰か特定の人物に優しくすると言うことはなかった。

みんなに平等に優しくて、笑顔を向けていた。

それなのに、ラシェルはその平等を打ち壊した。

スタニスラスに直接勉強を見てもらったり、誰もが遠巻きにしか見られない彼と気軽に話たり。

ラシェルがスタニスラスの特別になりつつある。

それが、ルイーズにとって、怖くて怖くて堪らなかった。


「こんなところ、誰にも見せられないわね」


ルイーズは自嘲して涙を拭い立ち上がる。


「そろそろ、帰らなくちゃ。……スタン様はもう、帰られたわよね……」


顔を引き締め直すと、ルイーズは教室に鞄を取りに校内へと戻った。



一方。スタニスラスはルイーズと分かれて先に教室へと戻りルイーズを待つ事にした。

最近、何かが上手くいっていない。そんな漠然とした違和感をスタニスラスは抱いていた。


「スタニスラス様……か、」


人気の無くなった教室で独り言つ。

今までならばスタン様と呼んでいた。それが、最近では愛称では無くなった。


「次は、殿下呼びにでもなるんだろうか」


自嘲混じり呟くと、胸を裂くような痛みに襲われた。胸元の服を握る。


「何処でこうなった……」


ルイーズが泣いている。

彼女は決して、涙を見せないがそんな気がしていた。最近のルイーズは、笑顔を一切見せなくなった。

その冷たい表情の下で泣いているような気がしたのだ。それなのに、ルイーズを抱き締めようとするもそれが出来ない。

今のルイーズに無闇に触れると拒絶されるのではないか。そんな恐怖があった。


「情けないな……。好きな女を抱き締めることすら出来ないヘタレだったとは……」


スタニスラスは自嘲を浮かべて、椅子に凭れ天井を仰ぎ見る。


「あの女か……あの女が来てから何かがおかしくなった……」


スタニスラスは一つの答えに行きつく。

あの女とはラシェルの存在。ラシェルが編入して来てから、ラシェルがスタニスラスに近付く度にルイーズとの距離が広がっている事に気付いた。

勉強の事だって、スタニスラスが図書室にいる時にラシェルと偶々居合わせて、分からないところがあるから教えてくれと頼まれて教えてやった程度だ。

それに、スタニスラスからラシェルに話しかける事はない。常に、ラシェルの方から話しかけてくるのだ。


「一度、ルゥとしっかりと話し合った方が良さそうだな」


スタニスラスは自分とルイーズの鞄を持って、ルイーズが居るであろう場所へと向かう。

共同の廊下を進む。まだ、学園内に残っていた生徒達がチラホラといてスタニスラスに別れの挨拶をする。

それを適当に返しつつ、ルイーズを迎えに行く。

スタニスラスが二つも鞄を持っている事に、疑問を持つ者もいるが、王子の足を止めるような不届き者はいない。

あと数メートルで曲がり角に差し掛かる時だった、


「スタニスラス様!まだ、残っていらしたんですね」


背後から声を掛けられ振り返る。

そこには、今一番会いたくない人物がいた。


「ラシェル嬢、また会ったね。今帰りかい?」

「はい。あ、あの…宜しければ一緒に……」

「スタ──」


作り笑いをラシェルに向けると、彼女は顔を赤らめモジモジと言いにくそうにしながら下校に誘って来ようとする。

言い切る前に、彼女の思考を読み取ったスタニスラスは冷めた目で彼女を見下ろす。婚約者がいる異性に対して、気軽に誘う彼女の言動が理解出来ない。

婚約者ではない女性と、二人きりで帰ると言うことは傍から見ると私が婚約者のルイーズを裏切りラシェルを取ったと見られるだろう。

過程や理由はどうでもいい。第三者から見たら見たものが全てなのだから。

即座に断りを入れようとした時、凛と透き通るような涼やかな声が進行方向から聞こえて、ラシェルを無視して振り返る。

しかし、背後には誰もいなかった。


「ルゥ?」


スタニスラスは見えない人物の名前を尋ねるが、確信していた。

あの声はルイーズで間違えない。

スタニスラスがルイーズの声を間違えるはずがなかった。

そして、この先にあるのは曲がり角。スタニスラスは曲がり角まで歩いて行く。


「やっぱり、ルゥだった」


そこには、両手で口元を抑え壁に背を付けて隠れるルイーズの姿があった。

ルイーズは教室に戻ろとして、曲がり角を曲がるとスタニスラスの姿を見つけて条件反射のように彼の名前を呼ぼうとした。

しかし、彼の奥にラシェルの姿を見つけてルイーズはすぐに姿を隠したのだった。

スタニスラスに名前を呼ばれた時は、バレたという恐怖とあの一瞬で自分の存在に気付いてくれた嬉しさに感情がせめぎ合っていた。

そして、曲がり角から影が現れた。上を見上げると、壁に腕を付いてスタニスラスがルイーズを覗き込んでいた。ルイーズを見つけたスタニスラスは小さい頃よく遊んだ時に見せていた嬉しそうな表情で笑った。


「ルゥ……何で隠れたんだい?」


スタニスラスはルイーズの腕を引いて抱き寄せる。


「だ、だって何かお話中のようでしたので……」


久しぶりに抱き寄せられるスタニスラスの広い胸板。ドキドキと心臓が高鳴る中、ルイーズは顔を俯かせて答える。


「私は何時だってルゥを最優先するよ。それに、君は遠慮し過ぎる節があるからね、もっと我儘になってくれていいんだよ」


スタニスラスはルイーズの腰に腕を回して抱きしめる。

顔を俯かせる彼女の額に髪の上から口付けた。


「す、スタン様っ。こんな所で──」

「やっと、愛称で呼んでくれた」

「へ?」

「最近ずっとスタニスラス様って呼んでいただろう?久し振りに君の口から愛称が聞けた」


ルイーズに愛称で呼ばれた。

それだけの事がこんなにも嬉しい。胸が裂けるような痛みはもうない。今、胸の内にあるのはルイーズが愛しいと言うことと、彼女をこの腕に抱き締められることが幸せだという感情だけだった。


「あ、あの……スタニスラス様」

「ああ、ごめんね。私の愛しい婚約者の存在を感じたからついルイーズを探してしまったよ。それで……一緒に下校出来ないかって話だったかな。見ての通り私には婚約者がいる。恋人でもない異性を安易に誘うものではないよ。周囲の人からは節操がない人物だと思われかねないからね」

「──っ!?申し訳ございませんでした」


スタニスラスの表情には何時もの笑顔が一切無かった。

ラシェルはスタニスラスに冷たくあしらわれた上に、ハッキリと拒絶された事を悟り涙を浮かべて走り去って行った。


「ルゥ。君の鞄は持って来たからこのまま一緒に帰ろうか」

「よ、良かったんですの?」


ルイーズはラシェルが走り去って行った方を見つめながら、何事も無かったかのように話しかけてくるスタニスラスに問う。


「私の婚約者殿はおかしな事をいうね。こんなにも愛しくて可愛い婚約者がいるのに、他の女性と帰るわけないだろう?君以外と恋仲の噂が立つのは御免こうむるよ」

「いとっ……」

「ぶふっ」


ボンッ、と音がしそうな程に一瞬にして赤面するルイーズ。

それを見たスタニスラスは思わず噴き出し、肩を震わせた。


「も、もうっ!スタン様、わたくしをからかって楽しんでおられますわね!」


含み笑いをするスタニスラスにルイーズは元々の釣り目を更に釣り上げて、キッと睨める。

そんな様子も彼女の照れ隠しである事は、スタニスラスにはお見通しで可愛い彼女を優しく抱き締めた。


「ごめんごめん。だけど、言った言葉は全て本心からだよ。私はルゥ以外の女性は要らない。私が欲しい女性は今も昔もルゥただ一人だ」

「す、スタン様……」

「ねえ、ルゥ。君の内側に隠していた気持ちを聞かせて。私はルゥから向けられる感情ならどんなものでも受け止めるから」


ルイーズはスタニスラスの言葉に、今までルイーズがラシェルに抱えていた感情は全て彼に見抜かれていたのだと悟った。


「寮に帰る前に、生徒会室で君の今まで抱えて来た思いを聞いてもいいかな?」

「……スタン様にとっては良いものではないですわよ」

「それでも、聞きたいんだ。君の気持ちを」

「醜くて自分勝手で汚れていても……?」

「君から私に向けられる思いはどんなものであっても嬉しいよ。それだけ、ルゥが私の事を想ってくれてるってことだろ?それに……君はそう思っていても私には醜くも自分勝手だとも汚れているとも感じないかもかもしれない」

「スタン様はわたくしの事などお見通しなのですね……」

「そうでも無いよ。君との距離を感じ始めてから何度もこの腕の中に君を抱き締めたいと思っていた。だけど、拒絶されるのが怖くて君を更に不安にさせてしまった。本当に自分が情けないよ」

「そっ、そんな事はありませんわ!スタン様は何時でもかっこいいですもの!スタン様はおモテになられるから、何時わたくしから心が離れてしまうか怖くて……スタン様から逃げてしまっていたのはわたくしの方ですわ!」


ルイーズは卑下するスタニスラスの言葉に否を唱え、懸命に言い募る。

ルイーズの口から容姿を褒められる事などあまり無かったスタニスラスは思わず瞠目する。


「はぁ……本当にルゥは私を誑かす唯一の女性だよ。あんまり、可愛いことを言わないでくれないか。理性が……」

「え?あの……スタン様?」


ルイーズを抱き締めたまま肩口に顔を埋めるスタニスラスに、ルイーズは硬直しつつも彼に呼び掛ける。


「この続きは、二人っきりの場所で聞かせてもらうよ」

「ひうっ……」


スタニスラスは肩口から顔を横に向けてルイーズの首元に唇を寄せれば、眼前に晒される柔肌へと吸い付き。

彼女の白い肌にはくっきりと、紅い跡が付けられていた。


「きゃっ!」


ルイーズは現状理解する間もなく、スタニスラスに横抱きに抱え上げられてはそのまま生徒会室へと連れ込まれたのだった。

はあ……妄想が爆発してしまいました。

こんな…こんなルートがあったて良いじゃない!ヒロインに靡かないライバルキャラ一途な攻略対象がいても良いじゃない!って思って書いてみました。

とはいえ、攻略出来ないキャラなんて攻略対象とは言えないうえに、ならば出すなよってなるんですけどね( '-' )

ヒロイン良い子でもスタンがルイーズ以外を選ぶのは許しません。そして、うちのスタンはルイーズ以外を異性と認識してないのです。だから、ルイーズ以外には基本冷たい奴なんです。王子仮面脱いだら無表情な奴なんです

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