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ちびスト!!

 穏やかな昼下がり。

 学園の敷地内にある商業施設の一角に、ルイーズ、ソレンヌ、エド、エルヴィラ、ロマーヌの五人は訪れていた。


 この商業施設は、一般的な店とはひと味違っていた。というのも、ここで店を構えるのは、ほとんどがストレンジ持ちの職人たち。彼らの技術によって生み出される商品は、学園の外では滅多に手に入らない珍品ばかりである。


 その希少性と高品質ゆえに、ストレンジ騎士団や王宮の高官たちも、ひそかに足を運ぶ場所となっていた。

 もっとも、一般公開はされておらず、立ち入りには特別なパスポートが必要とされている。


 この日は、留学生であるエルヴィラとロマーヌに、ダルシアク国が誇る“ストレンジによる商業”を体験させるため、五人はショッピングを楽しんでいた。


 そんな中、ふとエドが足を止める。

 視線の先には、腰の曲がった老婆が、自分の身体よりも大きな荷物を抱えて、よろよろと歩いている姿があった。


「婆さん。大丈夫か?この荷物、どこまで運ぶんだ?」

「お婆さま、よろしければ私たちがお運びしますわ」


 エドとルイーズが駆け寄り、荷物を引き取るように手を添えた。


「おお、ありがとねぇ……助かるよ」

「困ったときはお互い様ですわ」

「こんな大荷物、万が一転んだら大変ですから」

「そうそう。それに、見過ごせるような性格でもないしね」


 ソレンヌ、エルヴィラ、ロマーヌも自然とその輪に加わる。


「若いのに、優しい子たちだねぇ」


 老婆は目を細め、口元に柔らかな笑みを浮かべた。


「で、これ、どこまで運べばいいんだ?」


 エドが尋ねると、老婆は道の先を指差した。

 五人がその方向に目を向けると、黒い天幕がゆらりと風に揺れているのが見えた。


「あそこさ。あれが私の店でね。占いをやってるんだよ。あと、いろんな薬も作っててね。こっちはその材料が入ってるのさ」


 少し誇らしげに老婆は言う。


 やがて天幕にたどり着くと、五人は思わず立ち止まった。

 布地はくすんだ黒で統一され、入口には鈴のついた木製の札が吊るされている。まるで物語に出てくる怪しい魔女の店のようだ。


「……なんか、雰囲気あるね」

「入るの、ちょっと勇気いりません?」

「けど、逆に気になる……」


 小声でささやき合いながらも、五人は天幕の中へと足を踏み入れた。


 中は意外にも広々としており、薄暗い光の中に色とりどりの薬瓶が棚に並んでいる。

 テーブルには効能が丁寧に記された札が置かれており、回復薬や安眠薬といった日常に役立つもののほか、惚れ薬、暗記薬といった変わり種も揃っていた。


 天幕の一角にはカーテンで仕切られた占いスペースがあり、さらに奥には黒布で覆われたプライベートルームらしき空間が見えた。


「婆さん、この辺でいいか?」

「ああ、そこに置いておいておくれ。中身の整理は私がやるから、そのままで構わんよ」


 エドが荷物をそっと床に下ろすと、老婆はまた優しく微笑んだ。


「本当に助かったよ。ありがとねぇ。これはお礼だよ」


 そう言って、お婆さんは小さな袋を差し出した。中には色とりどりのクッキーが詰まっている。

 断るのも失礼だと考え、五人は丁寧に礼を言い、その袋を受け取った。


 その後、ひと息つこうと、道すがらにあった喫茶店へと足を運ぶことにした。

 この喫茶店は飲食物の持ち込みが可能で、時間ごとの利用料と、注文した飲み物の代金が加算される仕組みのようだ。


 五人はそれぞれ好きな飲み物を頼み、テラス席で腰を下ろした。

 そして、お婆さんからもらったクッキーの袋を開ける。


「美味しそ~!」

「まあ、ハートの型もあって可愛らしいですわね」


 クッキーは見た目も鮮やかで、花や星、動物などさまざまな形に象られていた。

 それぞれの色も淡く優しく、見るからに丁寧に作られている。


「いただきまーす!」

「おいしいっ!」

「サクッとしていて、でも硬すぎず……ホロホロとしていて口どけもいいですわ」

「情けは人のためならず、とはこのことですね」


 五人は笑い合いながら、舌鼓を打つ。

 気がつけば、袋の中のクッキーはあっという間になくなっていた。

 そのとき。


「お、あれはロマーヌたちじゃないか?」


 ルイーズたちのいるテラスから少し離れた通りを、別の一団が歩いてくるのが見えた。

 ジェルヴェール、ロラン、デジレ、ピエール、セレスタン、ヴィヴィアン、レオポルド、ドナシアン──。


 ロマーヌから今日の行き先を聞いていたデジレが、興味を持ち、男性陣を誘って独自に見学に来ていたのだ。

 偶然にも、喫茶店のテラスでくつろぐ彼女たちの姿を見つけた一行は、軽やかな足取りで近づいてきた。


「こんにちは、お嬢さん方。ここで会うなんて奇遇だね。もしよければ、ご一緒しても?」


 デジレは軽い笑みを浮かべながら声をかけた。


「あら、兄様たちも商業施設を見学に?」

「ああ。ロマーヌから話を聞いて、僕も気になってね」

「それなら、一言教えてくだされば……!」


 ロマーヌがやや頬を膨らませながら口を開いた、その瞬間だった。


 ――ボフンッ!


 突如、白い煙がテラス席を包んだ。


「「「「「えっ!?きゃああああ!?」」」」」


 煙は数秒で晴れた。

 しかし、その場にいた五人は、目を見開いて互いを見合った。


「ななな、なんですのこれは?」

「ち、小さくなってる!?」

「ど、どういうことですのっ!?身体が……身体が……!」

「わあー!みんなちっちゃ~いねぇ」

「レーオー!この後勝負しろーっ!」


 ルイーズ、ソレンヌ、エルヴィラ、ロマーヌ、エドの順に、口々に叫ぶ。

 ロマーヌは状況を楽しんでいるように無邪気に笑い、エドに至っては己の変化よりもレオポルドに突撃する気満々で、もはや通常運転である。


 一方、男性陣は固まっていた。

 当然だろう。本来は十三~十五歳の少女たちが、まるで幼児のような姿に変わっているのだから。


「おい……夢じゃないよな……?」

「じょ、冗談、だよな?これ……」

「……一体、何がどうしてこうなった……?」


 誰もが困惑しながら、クッキーの袋に視線を向けた。

 男性陣は、五人の話からクッキーを食べた直後に幼児化が起きたことを聞き、原因は老婆から貰ったそれに間違いないと判断する。


「困りましたわ……」


 眉尻を下げ、ルイーズが小さな声で呟く。

 その声音には、明らかな不安が滲んでいた。


「なんか……ことばも、うまくしゃべれないねぇ」


 ロマーヌが、舌足らずな口調で言葉をこぼす。

 まるで、口の使い方まで幼くなったかのようだ。


「ふえぇぇ……ヴィヴィアンさまぁ……っ。こんな姿じゃ、ヴィヴィアンさまのお嫁さんになれませんわぁぁ……!」


 エルヴィラはついに堪えきれず、ヴィヴィアンに抱きついて泣き出した。


「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて、エルヴィラ」


 ヴィヴィアンは、戸惑いながらもその小さな身体を優しく抱き上げ、背中をぽんぽんと叩いて宥める。


 その様子を見ていたルイーズとソレンヌの胸に、込み上げる感情が押し寄せた。

 不安と心細さ、そしてヴィヴィアンに甘えるエルヴィラへの小さな羨望──。


 ──こんな姿では、ジル様に釣り合いませんわ……。


 もしもこのまま一生小さいままだったらどうしよう。ルイーズの心に、そんな恐怖が忍び寄る。


 ──こんな姿を、レナルド様が見たら……どう思われるのでしょうか。……いえ、きっと……何とも思わないですわよね。


 ソレンヌは自嘲を込めてそう思うが、どこか甘えたくなるような不安が胸に渦巻いていた。精神も、年齢相応に退行しているのだろう。

 感情を抑えきれず、胸の奥が痛んだ。


「ふ、ふぇっ……」

「ぅう……っ」


 双眸に涙を浮かべ、エルヴィラに釣られたようにルイーズとソレンヌも泣き出してしまいそうになる。


「ルイーズ嬢!?」

「ソレンヌ嬢!?」


 その様子に、即座に動いたのはジェルヴェールとロランだった。

 普段は気丈で、涙など見せたことのない二人の突然の変化に、さすがの彼らも動揺を隠せない。


 ヴィヴィアンのように抱き上げてあげるべきか──

 しかし、中身は年頃の令嬢。軽々しく触れていいものかと迷っていると、


「どうしたんスか?二人とも。小さくなって寂しくなっちゃったんですかねぇ?」


 そう言って、セレスタンがふわりと優しく、二人の頭を撫でた。

 大きくて温かい手が、そっと髪をなぞる。

 ルイーズとソレンヌの表情が、少しずつ和らいでいく。

 胸に広がった安堵が、涙を静かに引かせた。


 二人の様子を見て、ジェルヴェールとロランはほっと胸を撫で下ろす。

 が、すぐに視線をセレスタンに向け、じろりと睨んだ。


「ドナシアン抱っこ~!」


 そのとき、元気いっぱいな声が響いた。ロマーヌだった。


「いけません、ロマーヌ様!夫婦でも、婚約者でもない男性にそのような……っ。それならば、私が抱っこいたします!」


 ピエールが慌てて駆け寄るが、ロマーヌはぷいっと顔を背ける。


「えぇ~、ピエールはいいよ~。ドナシアンがいいんだもん」

「ぷっ……あっははは!ロマーヌは本当にドナシアン王子が好きだな。もう、いっそ婚約したらどうだ?」


 デジレが茶化すように笑いながら言うと、


「殿下!一国の王子ともあろうお方が、そのような軽口を叩かないでください!」


 顔を真っ赤にしたピエールが、抗議の声を上げた。


「巨人め!駆逐してやる~!」


 小さな体で大きく手を振り回しながら、エドが叫ぶ。


「頼むから、少し大人しくしてくれ……」


 レオポルドはげっそりとした表情で暴れるエドを後ろから抱え上げていた。体は軽くなっているが、精神的な疲労は倍増している。


「このままでは、僕たちも──いや、何より彼女たちが困りますからね。ひとまずクッキーを渡されたという老婆の元へ行ってみましょう。その人が、元に戻す方法を知っているはずです」


 冷静に状況を見極めたドナシアンの提案に、一同は頷いた。

 この場に留まっていても進展はない。ならば行動するしかない。


 こうして、変わり果てた彼女たちをそれぞれの男子が抱え、老婆の天幕があった場所へと向かった。


 ルイーズはジェルヴェールが、ソレンヌはロランが、エドはレオポルドが抱え、エルヴィラはヴィヴィアンの腕の中、そしてロマーヌはしぶしぶピエールに抱きかかえられる形で移動した。

 目指すは、クッキーを渡した老婆の天幕。

 しかし、たどり着いた先にあったのは、見覚えのない別の店舗だった。


「……天幕が、ありませんわ」


 ルイーズが震える声で呟く。驚きと戸惑いが混じった瞳で辺りを見渡した。


「そういえば……わたくし、聞いたことがありますの」


 ソレンヌも天幕が消えている光景に言葉を失っていたが、ふと何かを思い出したように顔を上げた。


「いちぶの生徒の間で、まことしやかにささやかれているうわさがあるんですの」


 まだ拙い舌足らずな口調のまま、言葉を続ける。


「あるときは、テスト前に暗記薬を手にいれた生徒がいたり……またあるときは、ほれ薬でいちゅうの人を手に入れようとしてしゅらばになったり……。その薬を売っていたのは、姿を変えてあらわれる“魔女”だと──」


 彼女の声に、場が静まり返る。

 冗談や作り話に思えていた噂が、今まさに現実のものとなって彼らの前に立ちはだかっていた。


「たしか、彼女はどこからともなくあらわれ、用がすめばこつぜんと姿をけす、って」


 そこまで口にした瞬間、一行の足が止まる。誰もが顔を見合わせ、沈黙した。


「……え、これ、詰んでないか?」


 デジレのぼそりとした一言に、皆の表情が一気に曇る。


「ど、どうするんスか!?このままじゃ元に戻らないままかもしれませんよ!?」

「彼女たちもこのままだと支障どころか、生活すらまともに送れませんし……」

「とりあえず学園に連絡?……いや、ストレンジに関わるものなら、“ストレンジ騎士団”の方がいいかも」


 ロランの冷静な提案に、皆が「それだ!」と口々に賛同した。


「すぐに、アイロス団長と面会できるよう手配します」


 ドナシアンが即座に行動を開始する。

 一行は急ぎ、ストレンジ騎士団本部へと向かった。


 あらかじめ連絡を受けていたアイロス団長が出迎え、一行を別室へ案内する。

 ドナシアンがクッキーが入っていた袋を手渡し、事の経緯を詳細に説明した。


 アイロスは黙ってうなずくと、袋の底に残っていたクッキーのかけらを注意深く取り出し、専用の装置にかけた。


「……これは、若返りクッキーですね」

「若返り……?」


 ロランが眉をひそめた。


「はい。本来は一個だけ食べれば、肌のしわが少し減る程度の、美容目的の代物です。が、二個、三個と重ねて食べることで、効果が強まり、実年齢以上に若返ってしまうのです」


 面々が一斉に袋の中を覗き込む。中にはまだ、砕けたクッキーの残りがいくつか残っていた。


「この袋……ざっと見て一ダース分は入っていたようですね。まだ若い彼女たちがそんなに食べてしまえば……」

「そりゃあ、あんな姿になりますね……」


 ドナシアンが苦笑まじりに呟き、部屋の奥を見やった。

 そこでは、幼くなった彼女たちがキャッキャとはしゃぎ、セレスタンとレオポルドが遊び相手になっていた。


「治す方法はないのか?」


 ドナシアンが真顔で問うと、アイロスは頷いて答える。


「薬効は判明しましたので、成分を分析できれば、解毒剤の調合は可能です。今日中には用意できると思いますが、数時間はかかるでしょう」


 今はちょうど午後のティータイムに差しかかる頃。夕方には薬が完成するだろう、と察した一行は、それまでの時間を過ごすことにした。

 男性陣も順々に、幼い彼女たちの相手をし始める。


「ねぇねぇ、みんなは大きくなったら何になりたいのかな?」


 不意にデジレが問いかけると、子どもたちは一瞬動きを止め、真剣に考え始めた。


「わたくしは、ヴィヴィアンさまのお嫁さんですの!」


 誰よりも早く、エルヴィラが胸を張って答える。


「わたしは、いろんな世界を見てみたいー!」


 ロマーヌが両手を広げて跳ねるように叫んだ。


「わたし、レオのじーさんになりたい!」


 何故か自信満々にそう言い放ったエドに、場が一瞬静まり返る。

 思考も年齢相応に退行しているのだろうか、と本気で心配になる空気。ルイーズとソレンヌが哀れむような視線をエドに向ける。


「エド、それを言うなら“レオポルドさまのお爺さまみたいに強くなりたい”でしょ?」

「レオポルドさまのお爺さまになってどうするんですの……」


 二人が揃ってツッコむと、当のレオポルドも、どこか遠いものを見るような目でエドを見つめていた。

 デジレは必死に笑いを堪えて口元を押さえ、他の面々も苦笑にとどめるしかなかった。


「わたくしは……」


 ルイーズが小さくつぶやきかけて、言葉を飲み込む。

 そして、くいくいとジェルヴェールの袖を引いた。


「……?」


 不思議そうに顔を向けると、ルイーズはそっと彼の耳元に口を寄せた。


「わたくし……ジル様のお嫁さんになりたいですわ」


 その言葉を囁いたあとも、ルイーズはジェルヴェールの袖を小さな手でぎゅっと掴んだまま、真っ赤な顔で俯いていた。

 ジェルヴェールの胸が、締めつけられるように痛んだ。


「うっ……」

「ジル!?どうした!?」


 突然胸元を押さえた彼に、ロランが思わず声を上げる。


「い、いえ、なんでもないです……」


 必死に平静を装うジェルヴェール。


「だめ……ですか?」


 不安げに瞳を潤ませ、小首を傾げるルイーズ。

 その破壊力に、彼の理性は限界を迎えた。

 気づけば、ルイーズを抱きかかえたまま扉に向かっていた。


「ルイーズ嬢が可愛すぎるので、一時間ほど外出してきてもいいですか」

「ジェルヴェール!?」


 あまりにも普段の彼らしからぬ発言に、その場にいた全員が凍りつく。


「ちょ、待て!待て待て!」


 デジレとロランが慌てて止めに入る。


「お菓子、買ってあげるんですっ!」


 彼の目は本気だった。


「いや、気持ちはわかるけどさ!?外出はだめだから!」

「その姿で知り合いに見られたらどうする気だ!」


 二人の全力の説得で、ようやくジェルヴェールは冷静さを取り戻し、ルイーズをそっと降ろした。


「じゃあ、ソレンヌ嬢はどうかな〜?」


 場の空気を変えるように、デジレが最後の一人に声をかける。


「わたくしは……ずっと皆さまと一緒に、こうしていたいですの。皆さまといる時間が大好きですわ……」


 小さく、けれどしっかりとした声。

 スカートの裾を握りしめ、顔を真っ赤にして俯くソレンヌ。


「ソレンヌ!わたくしもですわ!みんなと一緒が一番ですわ!」


 ルイーズが駆け寄ってソレンヌに抱きつき、他の三人も「私も!」と声を揃えて、ソレンヌを囲んで抱きついた。


「な、なにあれ……可愛すぎるんだが……!」


 無邪気に抱き合って笑う幼女たちの光景に、デジレが感嘆の声を漏らす。

 その言葉に、ロランの目が鋭く細められた。


「わたしも混ざってきていいかな?今、ものすごくソレンヌ嬢を抱きしめたい」


 ロランの肩に手を置いて呟くデジレに、ロランは低く、氷のような声で言った。


「ソレンヌ嬢に指一本でも触れたら……燃やす」


 本気だ。というより、それ以上の覚悟がにじみ出ていた。

 デジレは背筋を凍らせながら、静かにその手を引っ込めた。

 夕陽が地平線に沈みかけた頃、ようやくアイロスが解毒剤を携えて戻ってきた。

 それぞれに薬を飲ませると、彼女たちは順番にすうっと眠りに落ちていく。

 眠っている間に身体はゆっくりと元の姿へと戻っていき、やがて元の姿の彼女たちが穏やかな寝息を立てて並んでいた。

 その姿を確認した瞬間、男性陣は大きく息を吐いた。


「……よかった」


 誰ともなく漏れた安堵の声。

 今日一日でどっと疲労が押し寄せてくるのを、彼らは全身で感じていた。


──────


【おまけ】スタニスラスの場合


「スタン……さま?」


 ぱちりと丸い瞳を瞬かせ、小さくなったルイーズがスタニスラスを見上げた。

 その瞬間、スタニスラスは動きを止め、震える手で口元を覆ったかと思うと、その場にくずおれた。


 ──て、天使が目の前に……!?私の天使っ!


 震える肩を隠そうともせず、彼は小声で呟いた。


「氷の中に閉じ込めて、毎日、愛でていたい……」


 その発言を聞いたロランとデジレは、完全に呆れ顔で顔を見合わせる。


「……ダメだこいつ」

「本音も建前も、両方アウトだったわ」


 二人の突っ込みが、静かに響いた。


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