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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●婚約者編

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7.意外な事実


大変お待たせいたしました!


 

 あっと言う間に二ヶ月が経ち、無事に道路の改修工事も終わりを迎えた。

 あの後も何回か手伝いには行ったけれど、最後のほうは私ではない人が行っていたので完成した道路を私はまだ見られていなかった。


「マルカ、次の休みは母上とのお茶会の授業以外に何か予定があるかい?」

「ありません。というかお茶会の授業もなくなりました」


 本当はリディアナお義母様とお茶会を行いつついろいろと教えてもらう予定だったのだが、お義母様がご友人のお茶会に招待されたことで延期になったのだ。

 だからのんびりとアルカランデ公爵領についての資料に目を通そうかと思っていたところだった。


「それはちょうど良かった。マルカさえ良ければ私と一緒に出掛けないか?」

「もちろんです! あ、でもクライヴァル様、お仕事は? たしか次に休みが合うのはもう少し先のはずでしたよね?」

「殿下がね、今担当している仕事が終わったら休みを取って良いと言うものだから」

「終わりそうなんですか?」


 自分でもわかるくらいに声が弾んでしまった。

 同じ屋敷に帰り、こうして毎日顔を合わせてるとはいえ、クライヴァル様は忙しいので一緒に出掛けられるのは久々だ。

 嬉しさから明るさを増した声に気づいたクライヴァル様は頬を緩ませた。


「そんなに喜んでくれるなんて頑張った甲斐があったな」


 クライヴァル様は殿下に言われたものはもう終わらせたらしい。今は念のためその先で必要だと思われる資料を作成しているだけなのでいつでも休みは取れるということだった。

 さすがクライヴァル様だ。


「先日工事が終わった道路を見に行かないか? デートの場所としてはどうかと思うが、マルカはまだ完成したものを見ていなかっただろう?」

「いいんですか? 嬉しいです!」


 自分も少し関わったものだったから、完成したものを一度は見ておきたかったのだ。

 クライヴァル様はそんな私の気持ちをわかっていたのだろう。


「ありがとうございます。今から楽しみです」

「私もだ。休みは三日後で良かったよね? 母上との予定がないのなら午前中から出掛けようか。それで久しぶりに外で食事でもどうだろう」

「最高ですね。明日からの仕事がもっと頑張れそうです」




 そんな会話をしたのが三日前のこと。

 あっと言う間にお出掛け当日を迎えた。


「どうかしたか?」

「いえ、楽しみがあると三日なんてあっという間に過ぎてしまうんだなと思って」

「ふふ、そんなに楽しみにしてくれていたなんて私も嬉しいよ。さ、お手をどうぞ婚約者殿?」


 そう言ってクライヴァル様は馬車に乗る私のために手を差し出した。


「まあ、ありがとうございます婚約者様」


 差し出された手を取り馬車に乗り込むと、それにクライヴァル様も続く。

 今日のクライヴァル様はシンプルなシャツにトラウザーズと揃いのベストという装いだ。

 いつもの変装用のぼさぼさの巻き毛の鬘を被るのかと思ったら、今日はそのままのクライヴァル様で行くと言った。

 というのも、今日はアルカランデ公爵家の馬車に乗って移動するからだ。

 つまり公爵家の馬車から誰だかわからない髪の毛がぼさぼさの男性が出てきたらおかしなことになってしまう。

 変装していたほうが自由に動くことができるのに、それをせずに出掛けるのはきちんと理由あってのことだ。

 クライヴァル様は改修工事が終わり、重量のある馬車も通ることができるようになった道をせっかくだから通ってみないかと私に言った。

 なんという粋な計らい。出発前からワクワクが止まらない。


「はは、今からそんなに張り切っていては早々に疲れてしまうんじゃないか?」

「でも本当に楽しみで! それにこう見えて体力は結構あるんですよ?」

「それは知っているけれどね。けれど今日は一応アルカランデの名を背負っての行動をするようにと母上からも言われているだろう?」

「う、そうでした……」


 お忍びとは違い、アルカランデ家とわかる馬車を使うからには私たちの行動にはアルカランデ家の者としての責任が伴う。

 非常に面倒くさいことだが、どこで誰が見ているかもわからないので貴族のご令嬢として恥ずかしい行動はしないようにとのリディアナお義母様からのお達しがあった。


「そこまで気負うこともないけれど、マルカは意外と真面目だからね。体力よりも気疲れしてしまわないか心配だよ」


 生まれついての貴族であるクライヴァル様とは違い、貴族の血筋ではあるけれど元は孤児院で暮らしていた私は気を抜くとボロが出る。

 ボロが出ると言っても母様や孤児院での教育の甲斐もあってそこまで酷い所作にはならないのだけれど。

 ただ、生来の気の強さとか、無駄に高い行動力を発揮しないようにとリディアナお義母様は心配されていて、逆にクライヴァル様はそれを抑えようとして気疲れしないかと心配しているのだろう。


「大丈夫ですよ。いざとなったらクライヴァル様が止めてくれるでしょう?」


 自分でも気をつけるつもりだけれど、いざとなったらクライヴァル様に頼る。

 昔の自分だったら全て自分でどうにかしなければと思うところだけれど、今はそうじゃない。

 自分ではどうにもできない時に助けてくれる人がいる。頼っても大丈夫だと思える相手がいる。

 それだけで心には余裕が生まれ、自分らしくいられるのだと知った。


「嬉しいことを言ってくれるね」


 クライヴァル様は私のそういう部分も知っているから、彼を頼ることが心を許しているのだと理解して喜んでくれるのだ。


「以前は頼ってほしいと願っても遠慮してしまっていたのに――お、マルカ、見てごらん。そろそろ改修した道に入るよ」


 クライヴァル様の言葉に窓から外を見ると、ここまでの石畳と新しく完成した石畳の道の境目が見えた。

 いよいよ新しい道に入る。

 期待に満ちた私の心とは裏腹に、新しい道に入っても馬車の乗り心地は何も変わらなかった。


「……」

「マルカ? どうしたんだ?」

「いえ、新しい道に入っても何も変わらないんだなと」


 もっと馬車が揺れなくなるとかいろいろあると思っていたのだ。けれど実際は何も変わらない。

 強いて言うなら馬車を引く馬の蹄の音が少し違うくらいで、言われなければ道が変わったとは気づけないほどだ。

 私のその言葉を聞き、クライヴァル様はくすくすと笑った。


「それはそうだろう。そうなるように作られているのだからね。むしろ違和感を感じさせないことが職人の腕の良さを表しているんじゃないかな」

「そういうものですか?」

「そういうものだね。マルカは元のこの道を知らないんだったか?」

「はい」


 今回工事をした道も元々は石畳の道だったということは知っているけれど、王都に連れてこられてからはあまり自由に出歩けなかったのでそれ以上のことは知らない。

 クライヴァル様曰く、元のこの道は敷かれた石が薄く、大型で重量のある馬車が通ると石が割れてしまうことがあり、そのような馬車はここまで入ってこられなかったそうだ。


「いっそ全面土のままのほうが馬車も入れるのでは? という話にもなっていたんだよ」


 けれど雨が降ったりして地面がぬかるむとそれはそれで危険だし、道路が整備されればその周囲に新たなお店ができたりもして活気が湧くと民からの要望が前々から上がっていたらしい。


「ただ、岩山から必要な石を切り出してくるのも、適切な大きさに加工するのも手間と時間がかかるからと先延ばしにされていた部分もあってね」


 魔術師長とそれに連なる古株の魔術師には可能だけれど、彼らは実力があるが故、他の仕事も多い。

 長期間工事に駆り出すにはいかないという意見もあったようだ。


「けれどなぜだか最近魔法省の魔術師たちの魔力制御の能力が向上したようでね。それなら魔術師長たちに頼らなくても工事が可能だということになったんだ」

「そうだったんですね」

「……他人事のように聞いているけれど、きっかけはマルカだからね?」

「……はい?」


 きっかけは私? 何の?

 言われている意味がわからず首を傾げる私を見てクライヴァル様は苦笑を漏らした。


「あんなに影響を与えているのに本人は無自覚だもんなぁ。魔法省に入る者は魔力が高く、強力な魔法を得意とする反面、細かいコントロールが苦手だと魔術師長から聞いたことはないかい?」


 たしかに聞いたことがある。

 強力な魔法が使えるということは、それだけで魔力の高さを表している。

 自慢と言ったら変だけれど、ある種のステータスのようなものなのだ。だからこそ派手で強力な魔法であるほどすごいと言われる。

 特に若い魔術師ほどそれを誇りに思っている者も多い。

 年嵩の魔術師ともなれば、派手なものから精密な魔力のコントロールを必要とする地味な魔法まで扱えるのだが。


「君の先輩であるグリーたちもそうだったはずだ」


 たしかにあの三人も初めて会った時はドッカンドッカン強力な魔法ばかりを使っていて、『役立つ魔法・応用編』を読んでいないことを魔術師長が嘆いていた。

 けれど最近は彼らもその本を読むようになっている。


「それってマルカの影響だろう?」

「まあ、そうですね。あの人たちもずいぶんな負けず嫌いですから」


 私は魔力も高いほうだけれど、派手な魔法よりも便利な魔法を好んでいる。

 シールドで身を守ったり、温かい風で髪を乾かしたり、地味だけれどとても便利。けれど微妙な調整のためには精密なコントロールを要するものばかりだ。

 自分たちと同じく高い魔力を持っているのに、どうしてそんなに細かいコントロールができるのだ、新しく入ってきた後輩の私に使えて自分たちには使えない魔法があるなんて悔しい! となったところに、私の愛読書が『役立つ魔法・応用編』だと魔術師長に教えられ、彼らもそれを読むようになったという経緯がある。


「でもそれがどうして先ほどの発言に繋がるんですか?」

「負けず嫌いなのはグリーたちだけではないということだよ。彼らが後輩のマルカに負けられないと思ったのと同じように、中堅の魔術師たちもグリーたちに負けていられないと奮起したのだろうね」


 その結果、魔法省の魔術師全体の魔力制御能力が向上したということらしい。


「うーん、後付けじゃないですか?」

「魔術師長は『自分の娘の功績だ』と言い切っていたけどね」

「……」


 魔術師長――いえ、フェリクスお義父様、ちょっと親馬鹿が過ぎやしませんかね。


(まあ自慢の娘と思ってもらえるのは嬉しいことだけれどね)


 まあ本当かどうかは別として、魔術師の魔力制御能力が上がったおかげで道が綺麗になり、しかも自分もその工事に携わることができるなんて光栄なことだと、パカラパカラとリズムよく進む馬の蹄の音を聞きながら嬉しく思うのだった。


本当にお待たせしました!

またしてもちょっと腰を痛めておりまして、更新遅くなり申し訳ありません(;´Д`)

前回から1ヶ月近く経ってるわ……。

もう12月じゃん……今年もう終わるじゃないか……。

年末はバタつくので更新遅くなるかもしれませんが、できるだけ頑張ります!


いいねや感想&誤字報告に評価などありがとうございます。

寒い冬に心が温まりますー(*´▽`*)

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