81.卒業試験
お待たせしましたー。
まだ指が本調子じゃないので短めです。
すみません。
そして卒業パーティー、の前の卒業試験。
それなりに緊張して臨んだのだが、座学に関してはまったく問題なかった。
今までの試験の延長のような問題だったので、私と少なくともクリスティナ様にとっては比較的簡単だったように思う。
残すは魔法実技試験のみ。
公平を期すために一人ずつ試験場に呼ばれて行うらしい。
これは意外と時間がかかりそうだと思っていたのだが、あっと言う間に私まで順番が回ってきた。
(思ったよりも試験内容が簡単か、時間制限があるのかどちらかね)
――コンコン
試験場の扉をノックする。
「三学年第一クラス、マルカです」
「入りなさい」
扉を開けると試験官が3人。
いずれも今までの授業で私たちに魔法を教えてくれていた教師たちだ。
その中でもおっとり、というか語尾を伸ばしがちな女教師が話を始める。
「今から試験内容を説明するわねぇ。そこにある5つの的を制限時間内に壊すこと。制限時間は5分。どのような方法でも魔法を使っていればオッケーよぉ。ただし、そこにある線より近づくのは禁止ね」
「わかりました」
やはり時間制限があったか。
それに線から出てはいけないということは遠隔操作が上手くできなければ的を壊すことは不可能ということだ。
授業でも的に魔法を当てたり壊したりするものもあったから、それの応用といったところだろう。
ふむふむと内容を理解していると、先生たちがつまらなそうに溜息を吐いた。
「マルカさんができるのはもうわかってるのよねぇ。もっと難しい内容なら面白かったのに残念だわぁ」
「魔法省にスカウトされるほどの実力者の本気、見たかったですね」
「マルカさんだけ試験内容変えます? って、それは駄目ですよねー」
「……」
今は一応試験中のはずなのだが。
試験官である教師がこの態度で良いのか。駄目だと思う。
まあ何人も何人も同じ試験をしていたら教師たちも飽きてしまうのだろう。
「あの、先生方……そろそろ試験を始めませんか?」
「ああ! ごめんなさいねぇ。用意はいいかしら?」
「はい」
「では、始め!」
開始の合図とともに私は右腕を的に向け突き出し、手を開いてその指先それぞれに小さな火球を作り出した。
そして一旦手を握り込むと、弾き出すように一気に指を開いた。
的は等間隔で5つ並ぶ。指先の火球も5つ。
指を開くと同時に私の指先から放たれた火球は、一直線に的に向かって飛んでいき、5つの的全てが 一斉にぼわっと燃えた。
この間ものの10秒程度。
(よし! 上手くできた!)
欲を言えばもう少し早く魔法を展開できるようになりたいところだけれど、今の私にはこれが精一杯だ。
けれど制限時間以内に的を全て壊せたので良しとしよう。
燃えている的を同じ要領で今度は水球で消火し、教師陣のほうを見ればみんながぽかんと口を開けて私を見ていた。
「あの、終わりました」
「え、ええ。そうね、終わったわね……ごめんなさいねぇ、ちょっと予想以上で言葉が出ないのよぉ。マルカさん、あなた本当にすごいのねぇ」
「……ちなみにだけれど、マルカさんはもっと派手な魔法を使って的を壊すこともできるんだよね?」
「はい、そちらのほうが良かったですか?」
どちらかというと、そのほうが簡単だったりもする。
魔力量が多いなら派手に大きく魔法を展開したほうが見栄えも良いだろうし、的5つを全て飲み込むような大きな火球をぶつけたほうが簡単ではある。
魔力量が多ければそれは簡単なことだ。
けれど、それなら的は1つでも良いのでは? と私は思ったのだ。
せっかく5つに分かれているのだからピンポイントで壊してこそ面白味がある。
それに細かな魔力制御こそ私の腕の見せ所だ。
だからこそ制御重視のやり方を選択したのだが、派手なほうが良いというのならそちらを見せるのも吝かではない。
「まだ制限時間も残っていますし、そちらのパターンもやりますか?」
私の問いに教師たちが「どうします?」「必要あります?」「うーん、でも少し見てみたいですよねぇ?」と言い、結局派手パターンも行うことになった。
「マルカさんのタイミングで始めて良いわよぉ」
「わかりました。いきます」
私は先ほどとは違い手の平の上に火球を作り出すとそれを「えいっ」と的に向かって投げた。
火球はふよふよと的のほうへ飛んでいく。
派手パターンと言ったのに、なんなら先ほどより地味ではないか? と教師たちは思っているかもしれないが慌てないでほしい。見せ場はここからだ。
火球が的のすぐ側まで近づいた時、私は指をパチンと鳴らした。
すると火球は一気に大きくなり、そのまま渦を巻くように横に伸びて5つの的をあっという間に飲み込んだ。
ついでに大きい炎だから熱いかなと思い、自分の前に広めにシールドも張ってみた。
(なかなかきれいな炎だったんじゃないかしら)
自分の魔法に満足していると、教師たちがパチパチと拍手をし始めた。
「派手さの中にも工夫が見られて大変よかったわぁ」
「さすがは魔術師長が魔法省に欲しがるだけのことはある」
「私たちも日々研鑚しないとだな」
どうやら期待に応えられたらしい。
「では試験はこれで終了ね。お疲れ様ぁ」
「ありがとうございました」
お辞儀をして試験場を出る。
試験場の扉を閉めた私は手応えを感じグッと拳を握り締めた。
これで卒業試験は全て終了した。あとは数日後に発表される結果を待つのみだ。
その日の夕食時、公爵家全員が揃ったテーブルではやはり卒業試験が話題となった。
「二人とも試験はどうだった?」
「問題なく。いつも通りできたと思います」
「マルカは?」
「私も大丈夫だと思います。特に魔法実技試験ではかなり手応えを感じました」
「そうか。君たちがそう言うのなら問題は無いだろうな」
ヒューバートお義父様のその言葉からは私とクリスティナ様への信頼が窺えて嬉しい気持ちになる。
クリスティナ様も自信があるようだし、私も最低でも5番以内に入れというヒューバートお義父様からの命も達成できている自信がある。
あとはクリスティナ様に勝てるかどうかが私の気になるところだ。
本当なら王太子妃になるクリスティナ様には私は勝たないほうがいいのだろう。
というか、勝てるわけがないと多くの人は思っていると思う。
けれど私は負けず嫌いなのだ。そしてクリスティナ様もわざと勝ちを譲られるのは好きではない。
だからこそいつも通り全力で臨んだ。
クリスティナ様とはどちらが勝っても恨みっこなしだと話している。
今から結果が楽しみだ。
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久々の魔法使用回でした。
たまには使わんと、設定がもったいない(-_-;)
あ、派手パターンの後もマルカはしっかり自分で消火しています。
火は後始末が大事ですからね。




