80.好きだから嬉しい
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少し宣伝をば。
別作品にはなりますが『王立騎士団の花形職』のコミカライズが決定いたしました!
ヤッター(≧▽≦)
それと6/12(月)に書籍の2巻も発売されます!
良ければそちらもよろしくお願いいたします。
では前書きが長くなりましたがマルカをどうぞ↓
卒業パーティーが近づいてきたある日のこと。
アルカランデ公爵邸に大きな箱を持った服飾店の店員たちがやってきていた。
彼らの運んでいる箱の中にはドレスやそれに合った装飾品が入っている。
そう、今日は私が卒業パーティーで着るドレスの最終確認の日だ。
今回のドレスはクライヴァル様が贈ってくれることになっており、デザインなども全てお任せした。
だからどんなドレスなのか私はまったく知らない。
「すごく楽しみにしてたんです」
「そう言ってもらえると贈り甲斐があるな。期待に応えられるといいのだけど」
「クライヴァル様が私のために選んでくれたものなら何だって――……クライヴァル様?」
「どうした?」
「あの、運ばれてくる荷物の数、なぜあんなに多いのでしょう?」
ドレスで1箱、装飾品は好みに合わせて選ぶとしても、3~4箱もあれば十分だと思うのだが。
「……10箱以上ありませんか?」
「ああ、私の服もあるからね」
「ああ、なるほど」
そうか。エスコート役のクライヴァル様の衣装も私の着るドレスに合わせて用意するのだ。
こちらも最終確認が必要だろう。
そうかと一人納得していると、クライヴァル様が「それに……」と言葉を続けた。
「結局選びきれなくて3着用意しているんだ。マルカの意見も聞きながら最終決定しようと思ってね」
「……さん、ちゃく?」
「そう、3着」
クライヴァル様はにっこりと笑ってドレスを3着用意したと言った。
(嘘でしょう!? 1着だってかなり高価なものなのに!?)
それを一気に3着も? 信じられない。
唖然とした表情でクライヴァル様を見ると、彼は苦笑を浮かべて「マルカの考えていることはわかるよ」と言う。
「そんなに高価なものを3着も、とか、残りの2着はどうするんだ、なんて考えているんだろう?」
私はこくこくと頷く。
さすがクライヴァル様。私のことをよくわかっている。
いくらこの2年ほどを貴族として生きてきたとしても、公爵家に嫁ぐための勉強をしているとしても、やはり私の根っこの部分は平民時代に培ってきたものが大きい。
特に金銭感覚が。
ついついもったいないと思ってしまうのだ。
けれど私のその感情もクライヴァル様はお見通しだった。
「もったいないなどと思ってはいけないよ?」
「うっ……」
「ははっ、やはりそう思ったか。だが経済を回していくことも大切なことだからな。それに今回選ばなかったものも今後の夜会などで着てほしいから無駄にはならない。絶対にどれも似合うと思うんだ。それこそ想像の中の私が選んだドレスを着たマルカが可愛すぎて、選びきれなかったくらいにね」
そう言ってクライヴァル様は私に向かってウィンクをした。
うわ、眩しい。
こんなにウィンクが似合う人は他にいないだろうと若干現実逃避しながら馬鹿なことを考えている間にも、店員と侍女たちがドレスを広げ終えていた。
「クライヴァル様、準備が整いましたのでこちらに」
「ああ、ありがとう。さあマルカ、卒業パーティーで着るものを選ぼう」
「はい」
クライヴァル様に促され、トルソーに飾られたドレスを見る。
「……素敵」
思わず漏れた感嘆の声に、クライヴァル様が嬉しそうに笑った。
「そう言ってもらえて良かった。どんなドレスを作ったとしても、君に喜んでもらえなければ意味がないからね」
「本当に、どれもこれも素敵です」
嘘じゃない。
本当にどれもこれも素敵でうっとりしてしまう。
けれどその中でも一番目を引いたのが3つ目のドレスだった。
そのドレスは、ピンク色のスカートの上からグレーのチュールが重ねられているため、可愛らしい印象ながらも幼く見え過ぎない。
上半身はシルバーグレーの糸で刺繍が施され、ウエストには光沢のあるグレーのリボン。
ちらりと隣にいるクライヴァル様を見上げると、私の視線に気づいたクライヴァル様と目が合う。
「ん? これが気に入った?」
優しく私を映すその瞳は深みのあるグレー。
「クライヴァル様の色、ですね」
「あはは、バレたか」
一番分かりやすいのはこのピンクのドレスだけれど、他の二つのドレスもよく見ればクライヴァル様の瞳の色のグレーや、髪色のダークブロンドに近い色の刺繍や素材が使われていた。
「これだけは譲れなくてね。独占欲が強すぎると笑うかい?」
「ではそれを嬉しく思う私を笑いますか?」
私がそう聞き返せば、クライヴァル様は一瞬目を見開いた後、嬉しそうに笑って「まさか」と言った。
独占欲が嬉しいとか言ってしまう自分もどうかと思うけれど、その相手がクライヴァル様だと本当にそうなのだ。
クライヴァル様を好きだと自覚してから、どんどん彼のことを好きだという気持ちが増していく。
以前、口付けを手の甲に受けた後ゴシゴシと拭き取ってしまったのが嘘のようだ。
もし今クライヴァル様の手を握って振り払われて、ハンカチで拭かれでもしたら私はどうするだろう。
(……凹む。床にめり込むぐらい凹むわね。立ち直るのに時間がかかりそう)
今思うと本当にひどいことをしたと思う。
まあ、あの時はほぼ初めましての状況だったし、クライヴァル様のことをまったく想ってもいなかったから仕方ないといえば仕方ないのだけれど。
(本当に、よくあれで私のことを嫌いにならないでいてくれたわ)
クライヴァル様が忍耐強い人で良かったと心底思う。
あんなひどい態度を取った、自分を好きになってくれるかもわからない存在に、ずっと誠実に想いを伝えてくれた。
だからこそ今がある。
「私、このピンクのドレスがいいです。クライヴァル様の色が一番入っているから」
学園の行事ではあるけれど、クライヴァル様に初めて婚約者としてきちんとエスコートされるパーティー。
初めてクライヴァル様から贈られるドレス。
それならばクライヴァル様を一番感じられるこのドレスがいい。
「卒業パーティーがますます楽しみになりました。クライヴァル様、ありがとうございます」
「マルカ……その前に最終試験だな」
「……クライヴァル様、今それ言います?」
私の中の勝手に高まっていた気持ちが一気に落ち着いた。
たしかに卒業パーティーの前に卒業試験がある。
間違ったことは言っていない。けれどこのタイミングでそれ?
私がじとっとクライヴァル様を見ると、彼は口を手で覆い深い溜息を吐いた。
「すまない。今言うことではないとわかってはいるんだが、その、あまりに君が可愛らしいことを言うものだから……」
「つまり?」
クライヴァル様は少し身をかがめて、私の耳元に手を寄せとても小さい声で呟いた。
「……マルカに手を出しそうになったので自分を落ち着かせるために言った」
そしてそのまま私の耳に口付けた。
「……っ!」
思わずバッと耳を押さえてクライヴァル様を見ると甘い微笑みをその極上な顔にたたえて私を見ていた。
眩しい。クライヴァル様の背後に大輪の花が見える。
結局手を出しているではないか、とか、みんなの見ている前でなんてことをとか、言いたいことはあったけれど、その笑顔を前にしたら何も言えなくなってしまった。
「マルカ?」
「……試着、試着をしてみます!」
「そうだな、それがいい」
すっかりいつもの姿に戻ったクライヴァル様に、ずるい! と思いながら、私は着替えのために用意された衝立の奥に向かった。
この時、侍女と服飾店の店員がやたらとにこにこしていたのでとても恥ずかしい気持ちになったのだった。
遅くなってすみません(-_-;)
今回も甘い回でした~。
数日前に両手を負傷しまして、指がまともに動かせない状況になりました……。
それ故、遅筆がさらに加速しております。
更新が遅くなりそうですが、ご理解いただければと思います。
すみません(;´Д`)




