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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●学生時代編

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60/123

60.簡単だけれど難しい

 

 私はフェリスさんの髪を乾かしながら、先程使った魔法について説明していた。


「このような感じで風、と言うか空気自体を温めて温風を作りだしました」


 そよそよと先程服を乾かした時よりもかなり魔力の出力を抑えて魔法を使う。

 今まで練習していたこともあって、上手く乾かすことが出来た。

 貴族女性の髪は長いのでしっかり乾くまでにはかなり時間が掛かってしまうものだが、この魔法を使えば時間短縮になる。

 今度クリスティナ様にも使わせてもらおう。

 私がフェリスさんの髪に櫛を通しながら出来栄えに満足している最中、グリーさんたちからは「風を出しながら温めるって……そんなの出来るの?」「それ以前にこんな微量な魔力を均等かつ継続的に出し続ける方が……」「当たり前にやってるこの子怖いんだけど」などと呟く声が聞こえてくるが気にしないことにする。


「服を乾かした時は今よりも魔力を多く使って、温度を少し高めに。風ももう少し密度を上げて、とは言っても竜巻までにすると威力が強すぎるので……説明が難しいのですが、もっと柔らかい風をイメージしました」

「言っていることは分からなくもないけど、何その面倒な感じ」

「俺たちの魔力量でそのような微調整は無理だろう」

「そうよ。マルカはきっと魔力が私たちより低いんだわ。そうでしょう?魔術師長」

「マルカ君の魔力は白に近い薄紅色だ」

「……私たちと一緒じゃない」


 私の魔力量を聞いてフェリスさんの声が小さくなった。

 同じ薄紅色なのに何故こんなことが出来るんだとブツブツ言う三人に、魔術師長様がすかさず「普段からの努力の賜物だろう。――それと、マルカ君の愛読書は『役立つ魔法・応用編』だ」と言った。


「……僕ちょっと図書室」

「待ちなさいよ。抜け駆けは許さないわよ。私も行くわ」

「……」

「「あっ!」」


 リードさんが無言ですっと立ち上がって歩き出すと、グリーさんとフェリスさんも慌てて後を追って行った。

 残された私は魔術師長様をちらっと見る。


「嵐のような三人だろう?」

「もしかして狙い通りですか?」


 笑顔の魔術師長様に私も笑顔で聞き返す。

 狙ったというのは少し違うかもしれない。私が魔法を使ったことが始まりだったわけだし。


「いやー、予想以上に良い反応で危うく笑ってしまうところだった」



 私に出来ることがグリーさんたちには理解出来ないだろうなんて意地悪な言い方だ。

 年下の、しかもまだ学生の平民に出来ることが貴族である自分たちに出来ないなんて悔しいだろう。

 たとえ彼らがそこまで身分を気にしない人たちであったとしても、生まれた時から人の上に立つ者として育ってきている彼らは心のどこかでは平民に負けるわけにはいかないと思っているはずだ。

 その気持ちを魔術師長様は上手く利用したというわけだ。


「それでうっかりあの人たちに生意気だと目を付けられたらどうしてくれるんですか」

「そんな奴らではないことは私が一番知っているからね」


「これで『役立つ魔法・応用編』をあの三人も真面目に読んでくれるな」と魔術師長様は上機嫌である。


「彼らは元々派手で見栄えの良い強力な魔法が好きでね」


 魔術師様曰く、彼らが好きで得意とする魔法は、やれ巨大な水柱を生み出すだの、辺り一帯を明るく照らすだの、氷漬けにするだの、とにかく規模が大きいらしい。


「確かに全て魔力の高い者にしか出来ない大技だ。では逆に、彼らの苦手な魔法は何だと思う?」

「苦手、ですか?想像がつきません。多少なりとも相性の悪いものはあるかと思いますが、苦手という程のものがあるとは思えないんですが」


 高度な魔法が得意だと言う人たちに苦手な魔法などあるのだろうか。

 何でもバシバシと決めそうなのだが。


「彼らはな、小さく、弱い、初級の魔法が苦手なのだ」

「え?」

「彼らは魔力が高いがために、細かい魔力のコントロール自体が苦手だ」

「え?でも学園で習いますよね?」


 その為の王立学園なのだから。

 まあ貴族の方々はそれよりも人脈作りや、正式な社交界に出るための準備期間の意味合いが強いのかもしれないけれど、それでも魔法実技の試験だってあるわけで。

 そんなはずないだろうと言う私の視線を受けて魔術師長様は説明してくれた。

 学園の授業程度のものなら問題無く出来るらしい。

 魔力暴走しないように制御したり、狙ったところに魔法を当てるというのも当たり前だが簡単に出来る。

 ただその規模が普通の人より大きいと言うのだ。

 火球一つにしても、同じように習っても人より大きな岩のようなものを生み出すし、シールドもそびえ立つ壁みたいなものが出来上がるらしい。

 学園の授業では狙ったところにそれが生み出せればそれで良かったし、どちらかと言えば大きな魔力は羨ましがられたり褒められる対象であって、わざわざ小さくしろとは言われない。

 だから彼らもそれで良いと思っていたらしい。

 ちなみに私は火球なら小指ほどの小ささから生み出せるし、シールドだって硬度や形も自由自在に変えられる。


「でも君は細かいコントロールは得意だろう?」

「まあ、そうですね」


 けれど、私じゃなくても火球の大きさを変えられる人はたくさんいるだろうと言うと、魔術師長様は首を振って否定した。


「魔力が低くてコントロールに長けた者はいるが、君のような魔力の高さで、しかも精密にコントロール出来る者はそういない。それこそ魔法省に入って長年研鑚を積んでいる魔術師くらいなものだ」


 そうは言うが、今まで必要ないから彼らは覚えなかったのではないか。

 そう疑問を呈せば魔術師長様はまた首を横に振った。

 他国との争いが絶えない時代なら、相手を殲滅するような魔法が使えれば良かったが、最近は穏やかな日々が続いており、他国との関係も良好で魔法省に勤める者に求められる魔法の質も変わってきているということだった。


「今は多くの敵を薙ぎ倒すよりも、普段から使用するような魔法の質を上げていきたいわけだ。例えば、以前君が見せてくれた防音魔法のように、効果のある範囲を自由自在に変えられたりとかね。その為には緻密なコントロールが必要となるわけだが」

「『役立つ魔法・応用編』を始めからしっかり覚えて行けば自然と身に付きますもんね」

「そう!そうなんだよ!」


 けれど、別段今のままでも困ることは無かったし、あの三人は競うように強力な魔法ばかり覚えようとするので手を焼いていたらしい。

 そこに私だ。

 折を見て私の魔法を見せてあの三人の闘争心を煽るつもりだったらしい。


「年下の、一見か弱そうな女の子に出来ることが自分たちに出来ないなんて、あの負けず嫌いたちが黙っているわけないからね。まあ予想に反して初日に上手くいったわけだが」

「一見か弱そうって……」

「ああ、気に障ったのなら謝るよ。でもあの一件で少しはマルカ君の性格も分かっているつもりだし、君は守られているだけの女の子ではないだろう?」


 魔術師様の問い掛けに「まあ、はい」と短く答える。

 ただ守られるだけの存在にはなりたくない。そんな私の思いを見透かされているようだった。


「魔術師長様」

「何だい?」

「私、みなさんに認められる人間になりたいんです。だから出来る限り自分の可能性を広げてみようと思ってこの職業体験制度を利用することにしました」


 私の言葉に魔術師長様は少し驚いたようだった。


「私、驚かれるようなこと言いましたか?」

「いや、向上心があるのは良いことなんだが……君はどちらかと言うと、貴族連中にどう思われようが気にしないが、面倒事を避けるために必要以上に目立たず大人しくしていようというスタンスなのかと思っていたのでね」


 確かに以前は悪目立ちせず無事に学園を卒業したいと思っていた。

 特に初めて魔術師長様と会った時は、レイナード家の問題などでゴタゴタしていて周りの目も厳しいものになっていたのでその思いが余計に強かった。

 けれど今は違う。

 身分だとか関係無く私を認めてくれる人がいて、想ってくれる人がいる。

 そんな人たちに恥ずかしくない自分でいたい。

 それに私が侮られるせいで、その人たちが見る目が無いだとか馬鹿だとか思われたら嫌なのだ。


「そうですね……少し、心境の変化がありまして」


 私が微笑んでそう言えば、魔術師長様も「なるほど、なるほど」と笑顔で返された。


「ふむ。みんなに認められる、か」


 魔術師長様は顎に手を当てて少し考えた後、私を見て言った。


「それは難しいようでいて、意外と簡単なことかもしれないね」

「簡単、ですか?」

「ああ。何か大きなことを成し遂げれば、それが一番手っ取り早く認めさせられるのかもしれないが、そんなことはそうそう起こる事ではない。だけれどね、大きな何かをしなくても普段の生活から認められるということもある。むしろそちらの方が現実的だ」

「普段の生活」

「そうだ。例えばアルカランデ公爵家や王太子殿下に認められたようにね」


 今までの私が努力をし、出来ることを考え、成すべきことを成して来たからこそ周りは私を信用するに足る者だと認めたのだと魔術師長様は言った。

 そういった努力を認めてくれる存在とは一生付き合っていけるし、逆にそれを認められない人たちは何をやっても駄目で、そんな存在に認めてもらおうと頭を悩ませること自体無駄な時間だとはっきり言われた。


「まあ、実際はどちらが難しいかは分からないね。言うは易し、行うは難しってね。でもマルカ君は今のままで良いんじゃないかな。君らしくやっていけば自ずと結果は付いてくる、私はそう思うよ」


 魔術師長様の言葉にじんわりと胸が熱くなる。

 そして、思っていた以上に肩に力が入っていたことに気付かされた。

 クライヴァル様への気持ちを自覚したことで、みんなに認められる彼に相応しい人になりたいと気負ってしまっていたようだ。

 確かに認められることは大事だ。けれど、クライヴァル様は今の私を好きだと言ってくれた。

 私は私らしく。それで良いのだ。

 魔術師様の言葉で大事なことに気づかされ、実習一日目は終わった。



何だかんだ魔法が好きな三人組。

そして魔術師長様はまるっと色々お見通し(たぶん)



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