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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●学生時代編

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48.鈍い貴女にヒントを

 

 数日前、クライヴァル様はカルガス領に向けて殿下と共に発った。

 視察と言っても、そう仰々しいものではなく、不定期で国内の色々な場所を王族が訪れることで、国はいつも気にかけていますよというアピールらしい。

 平民の私からしてみれば、王族が行くということ自体が仰々しいことだと思うのだが、それはそれ。

 目を光らせているから悪いことを企むなという意図もあるのだろうと推察する。

 以前は国からの使者が行っていたそうだが、殿下も成長され、学園を卒業されたのを機にこの役割を担っていくのだという。


 カルガス領では私がお世話になっていた孤児院にも立ち寄るという事なので、クライヴァル様には院長先生に宛てた手紙を託した。

 レイナード家に引き取られたはずの私が、平民に戻り、公爵家のお世話になっていると知ったらさぞ驚かれることだろう。

 院長先生は母様が生きていた頃からお世話になっているので、クライヴァル様は母様についても話を聞ければ良いがと言っていた。


 私には父様の記憶はあまり残っていない。どんな顔をしていたのかも曖昧だ。

 けれど私を見る優しげな鳶色の瞳と、確かに愛されていたという記憶だけはしっかりと残っている。

 どうして父様がいないのか、亡くなったことだけは聞いたがその詳細は知らない。

 母様に辛そうな顔をさせてまで聞きたいとは思わなかった。父様の話を聞かせてくれる母様はいつだって笑っていて、綺麗で、それでいて寂しそうだったから。

 母様が孤児院で働くことになった経緯は大まかではあるが院長先生から聞いたことがある。もしかしたら院長先生ならば父様のことも母様から聞いて知っているかもしれないと、そんな期待をしてしまうが期待し過ぎても収穫が無かった時に残念に思ってしまいそうなので、あまりそればかりに気を取られてはいけない。

 それにクライヴァル様はあくまでも仕事として行くのだし、母様のことはそのついでである。

 母様のことは心の端にしまって、自分のことをしっかりと考えなくては。





 ――コンコン


「はい」

「二学年第一クラス、マルカです」

「入りなさい」

「失礼します」


 私は王立学園の園長室に来ていた。


「マルカ君が提出した申請書だが、問題無く通ったよ」


 学園長の手にあるのは以前話に上がっていた『職業体験制度』の申請書だ。

 私は魔法省にこの制度を使って行くことを決めた。

 ロナウドさんのことに決着が付いた数日後、シンシア様やハルフィリア様にもそのことを伝えようと思っていたら、クリスティナ様がお茶会を開いてくれた。

 あのクリスティナ様主催のお茶会という事で、多くのご令嬢が参加を希望したが、クリスティナ様が招待したのは私たちだけだった。

 主催と言っても学園での空き時間に行うようなものだし、会と言えるほど大きなものでもなかったのだが、その招待された数少ない人の中に私という平民がいることに不満を持つ者も少なからずいたようだ。

 けれど、クリスティナ様はその人たちに向けてこう言った。


「お茶会を開くのは私。ご招待する方を決めたのも私。ご不満がある方は私に直接仰って?」


 笑顔でこんなことを言われて何か言える者はいない。

 そうして私たちは4人であのガゼボに集まった。


「急にあのロナウドという方が頭を下げにいらしたから何事かと思っていたのだけれど、そういう事でしたのね」

「何が人を歪ませるのかは分からないものねぇ」

「これでやっとマルカさんの周りも落ち着くわね」

「本当に皆様にもご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。レオナルド様にもよろしくお伝えください」

「まあ、レオのことは気にしなくて良いのよ?あの子ったら『マルカ嬢の平穏は俺が守る!』なんて訳の分からないことを言っていたのだから」

「あら……ハルフィリア。レオナルド様にきちんと教えてあげたのよね?」

「ふふ、ええもちろん。望みは薄いから止めておきなさいと忠告してあげたわ」

「?どういうことですか?」

「マルカったら本当に分かっていないの?」

「はあ?」


 レオナルド様のおかげでロナウドさんの突撃頻度は確かに減ったし感謝しかない。

 そんな決意をもって任務を遂行してくれていたのかと、申し訳なくも思う。


「そういうことではなくて……はあ、本当にマルカはこの手の話に疎いんだから」


 首を傾げる私にみんなが説明してくれる。


「レオったらマルカさんを見て、可愛いって思ってしまったらしいの。守るべき存在だと認識したのだと思うわ」

「はあ」

「だからね、その想いが恋情に変わる前に止めておきなさいって言ったのよ」

「マルカさんにはクライヴァル様という貴方が敵うはずも無い方がいるから傷が深くなる前に諦めなさいって」

「え?!」


 それは、私がレオナルド様からそのように見られていたという事なのか。

 何故だ。

 いや、今はそれよりも。


「あの、前にも言いましたが私クライヴァル様とまだそういった関係ではないのですが……」


 私の言葉に他の三人は目を見合わせてニヤッと笑う。


「そう、()()そういう関係ではないわね」

()()クライヴァル様をお待たせしているのよね」

()()、ね」

「……何ですか、皆さん揃ってその言い方……っ!」


 みんなが言った言葉を反芻してようやく自分の失言に気が付いた。


「いえ、あのっ!言葉の綾と言いますか……」


 私は自分の顔に熱が集まるのを感じた。

 まだという事はいずれそうなると言っているようではないか。


「自然とそういう言葉が出るのは良い変化ではないかしら?」

「そうね。以前とマルカさんの反応も違ってきているようだし」

「この短期間に何があったのか教えてくださらない?とても興味があるわ」


 そうして笑顔の三人に詰め寄られる形で私は再び想いを告げられたことや、その後のクライヴァル様の変化まで洗いざらい話してしまった。


(ごめんなさい、クライヴァル様。言いふらすつもりはなかったんです……!)


 誰だって自分の行動をペラペラ話されたらいい気はしないと思う。

 クライヴァル様に対しての申し訳ない気持ちと、この際相談に乗ってもらいたいという思いで複雑だ。


「クライヴァル様は情熱的な方なのねぇ」

「違うわ、ハルフィリア。きっとマルカさんにだけよ。クライヴァル様と言えば対応は優しいけれどどこか壁を感じると言われているもの」

「妹の私から見ても、今までとは様子が違うもの」


 なんだろう。恥ずかしさで居たたまれない。


「良いわね~」

「それで?マルカさんのお気持ちは傾きつつあるのよね?」

「いえ、あの、よく分からないので真剣に考えている途中でして……」

「え?」

「それなのに、大人しく待つと仰ったのに、甘い雰囲気を醸し出してくるものだから」

「は?」

「心臓はうるさいし、頭は働かないしで困ってるんです」

「「……はあ?」」


 シンシア様とハルフィリア様は普段聞いたことの無いような声を出した後、扇でさっと顔を覆って二人でこそこそ会話をしだした。


「ちょっとどういうことなの?この子本当に気づいていないのかしら」

「信じられないけれどそのようだわ。鈍いにも程があるわ」

「私たちを揶揄っているとか?」

「マルカさんに限ってそれは無いでしょう」

「ではやはり本当に気づいていないの?」

「嘘でしょう……」


 二人は私をちらっと見て溜息を吐いた。


「な、何ですか?」

「マルカ。私も二人ほどではないけれど驚いているわ。いいえ、むしろ呆れているわ」


 クリスティナ様にまで溜息を吐かれた。

 何故だ。


「ちなみに、お兄様にそれは言ったの?」

「言いましたよ」

「お兄様の反応はどうだったかしら?」

「笑って『そうか』と一言だけ」


 私は不満を言ったつもりだったのにと付け加えれば、三人は「クライヴァル様の方が貴女の気持ちに気付いているじゃないの」と言ったので、ますます分からなくなった。


「マルカ、貴女本当に気づいていないの?」

「何がですか?」

「……もう。本当に鈍いのね」


 クリスティナ様は溜息を吐いた後「良いわ、ヒントをあげる」と言って笑った。



おや?おやおや(´∀`〃)?


長くなりそうなので分けます。



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[一言] 更新ありがとうございます、今回も楽しく読ませていただきました。 マルカちゃん、いったい何個ニブニブの実を食べたのでしょーか? おニブさんなのは可愛い、可愛いんですが… 兄ちゃんがんばって!…
[一言] お茶会ならぬ、女子会? しかもマルカはお茶会の肴として 参加させられている ……貴族の高度なイジメ?(≧∇≦) これに対抗するためには 甘々攻撃しかないぞ! 強敵(ライバル?)をやっつけろ…
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