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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●学生時代編

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40/123

40.告白をもう一度

場面は変わって公爵邸。

 

「近頃ずいぶんと帰りが早いと聞いたが図書室に行っていないのか?」


 いつものように夜のサロンでテーブルを挟んで向かい合って座り、クライヴァル様とお話をしていた時の事。

 急に聞かれた内容に思わずティーカップを持つ手に力が入った。


「そうですね、最近は」

「……何かあったのか?いや、何があった?」


 表情を変えずに答えたつもりだったが、クライヴァル様は何か感づいたらしい。

 最近のクライヴァル様には隠し事が出来なくなってきた。

 まあ何かあったと言えばあったが、クライヴァル様に話すようなことでもないだろうと思っていたけれど、誤魔化してもしつこそうなので素直に話すことにした。


「少し面倒な人がいて、その人に捕まらないように図書室に行くのを控えているだけです」

「面倒?……誰だ?」

「クライヴァル様は知らないと思いますよ?今年入った平民の男子生徒ですし」

「男……何かされたのか?」

「んー、まあ待ち伏せとか。付きまとわれたりとか、そんな感じです」


 ロナウドさんはしょっちゅう姿を見せはするけれど何か危害を加えられたという事も無いわけで。

 そんな風に話す私にクライヴァル様は眉を寄せた。


「それは面倒とかそういう話ではないだろう。今後手を出してこないとは限らないじゃないか。何故もっと早く相談しない。何かあってからでは遅いんだぞ?私はそんなに頼りないか?」


 そんなつもりじゃなかったのだが。

 クリスティナ様は知っているし、そこまで大事にすることでもないと思っていただけなのだ。

 クライヴァル様に話したら、今みたいに心配し過ぎると思っていたのもある。


「そんなことありません。それにクライヴァル様、お忘れですか?」


 こちらに視線を寄越したクライヴァル様に、私は笑顔で答えた。


「私、植木鉢を落とされても無傷な女ですよ?」


 バージェス殿下も卒業されて、昨年のような過激な行動に出る者はいなくなっていたので、最近はシールドの魔法を使うことは無くなっていたが、こんなに心配されるなら常に発動しておくべきか。

 でもあれって結構疲れるのよね、とそんなことを考えていると、クライヴァル様の口から大きな溜息が零れた。


「……そういうことを言っているんじゃないんだが。マルカ嬢はよく分からないところで楽観的過ぎる」

「そんなことないと思いますけど」


 それに平民同士の問題だと学園側も特に何かしてくれるものではないと思っていたけれど、ハルフィリア様の話によると、他の女生徒関連でレオナルド様というお目付け役も出来たようだし今までよりは大人しくなるのではないかと思っている。


「大体クリスティナもクリスティナだ。あいつも知っているんだろう?」

「あ、怒らないであげてくださいね。私が言わないでほしいとお願いしているんですから。クリスティナ様は私のことを信用してくれているんです」


 それにどうしようもなくなったら手を出すとも言われている。

 クリスティナ様は私なら自分で対処出来ると信用してくれていて、私の大事にしたくないという気持ちを尊重してくれているだけなのだ。


「私は君のことを信用していない訳じゃない」


 ふいに漏れたクライヴァル様の拗ねたような言葉に思わずフフッと笑ってしまった。


「それはもちろん分かっていますよ」


 クライヴァル様から信用されていないと思ったことなどもちろん無い。

 彼を始め公爵家のみんなが私のことを認めてくれているという事に関しては、もう何度も疑問に思い、その度に丁寧に説かれ、これ以上疑うことの方が失礼だと思うようになった。

 最近では、こんなにすごい人たちが認めてくれるなら、それに恥じない自分でいようと思えるようになってきた。


 私はティーカップをテーブルに戻し、中央の皿に用意されていたクッキーを取ろうと手を伸ばした。

 けれど、私の手がクッキーを取る前に、クライヴァル様に掴まってしまった。

「えっ?」と思ってクライヴァル様を見れば、真剣な瞳の中に私を映していた。


「本当に分かっているのか?」

「……え?」

「……確かに、君がこの華奢な手からは想像出来ないくらい心が強くて、自分の身を守れるくらい魔法に長けていることも知っている。これくらいのことは君自身の力で対処出来るだろうとも。だが、だからと言って心配にならない訳じゃない」


 私の手を包むクライヴァル様の手にぎゅっと力が入る。


「君のことが好きで、大切に思っているから心配なんだ。辛い時は傍にいたいし、何かあった時に私が一番に力になりたい。何も知らなかったと言い訳はしたくない。そういう意味だと、本当に分かっている?」


 見つめられたままそう聞かれて私は固まってしまった。

 何か、何か答えなければと思った私の口から出たのはとても素直な言葉だった。


「わか、ってなかったです」

「そうだろうなぁ」


 クライヴァル様は苦笑いを浮かべた。

 そして「許しも無く触れてしまってすまない」と言って私の手を離した。


「気長に行くと言ったはずなのに、マルカ嬢を目の前にするとどうにも気が急いてしまっていけないな。君に我儘を言ってもらえるような男になりたいのに、私の方が我儘を言ってばかりだ。情けない」


 クライヴァル様はソファに深く腰を沈めて自嘲気味に天を仰いで溜息を吐いた。


「そんなこと……」


 そんなことないのに。

 クライヴァル様がロナウドさんのことを知らなかったのだって、元はと言えば私が原因だ。

 その気になれば学園での私の行動なんてすぐに把握することだって出来るだろうに、私が勝手に探られるのを嫌がるからそれをしないでくれている。

 こうして話をしている時に私に直接聞いて、私の口から伝えられるのを律儀に待ってくれているのだ。


 クライヴァル様は本当に誠実な人だ。

 最初こそ多少強引なところもあったが、まださほど長くはない期間ではあるが一緒に過ごしてきて心からそう思えるようになった。

 私に対して回りくどい言い方をせず、飾り気のない真っすぐな言葉と態度で気持ちを伝えて来てくれる。

 だからこそ、その一つ一つが私の心に響くのだろう。

 同じ言葉をロナウドさんに言われたって何も響かないと断言できる。

 あんな人と比べること自体間違っているが、ここ最近あれの相手をすることにうんざりしているせいか余計にクライヴァル様の良さを身に沁みて感じるのかもしれない。


「クライヴァル様」


 私が呼びかけるとクライヴァル様は顔を戻し、私を再びその目に移した。


「なんだ?」

「私、クライヴァル様とちゃんと向き合います」

「うん?」

「真剣にクライヴァル様とのこと考えますから」

「……え?!」


 クライヴァル様はソファに沈めていた腰を勢いよく浮かせると、驚いたような目で私を見た。


「何っ……え?いや、驚くのも失礼だが、その、いきなりどうした?」

「いきなりというか、最近やっとそう考えられるようになったというか……そこまで驚きます?」

「いや……そうなるまでに、もう少し時間が、掛かるかと」


 クライヴァル様はよろよろと再びソファに座り込み、片手で顔を覆い深く息を吐いた。


「クライヴァル様?」

「どうしよう。近い内に答えが出るのだと思うと急に緊張が、だな。平静を装えない。参ったな」


 普段のクライヴァル様とは違う自信の無さそうな姿に思わず笑ってしまう。

 なんだか可愛らしく思えて、くすくすと声に出して笑ってしまった。


「笑わなくても良いだろう」

「だって、そんなお姿初めて見ます。そこまで緊張しなくても」

「何だ、良い返事をもらえるのか?」

「それは分かりません。分からないから考えるんです」

「……君には翻弄されてばかりだ」


 私の答えにクライヴァル様は少し不満げな表情を浮かべた後「よし」と言って、すくっと立ち上がり私の傍までやって来ると、「手に触れても良いだろうか?」と聞いてきた。

 許可すると、私の手を取ってその場に跪き、真剣な眼差しで私を見据えた。


「マルカ嬢、私は君のことが好きだ。気持ちを自覚した時よりも、もっと君のことを恋しく思う。私がこれから背負うものを考えれば、この想いが重く、迷惑になるかもしれないという事は分かっていても、それでも私は君を諦められない」


 私の手を握る指先にきゅっと力が入る。


「……君のおかげで、好いた相手が笑いかけてくれるだけでこんなにも幸せになれるものだと、心が温かくなるものだと知った。この気持ちに、愛しいという以外の言葉が見つからない。君が好きだ。……どうか、私の気持ちを受け入れてほしい」


 それは、懇願にも似た真摯な愛の告白だった。

 普段よりも忙しくなった私の胸の鼓動が、喜びからなのか動揺からなのかはまだはっきりとは分からない。けれど、この真剣な思いに私は答えを出さなければならない。

 その答えによっては私たちの関係が大きく変わることになるとしても。


 クライヴァル様は私の手を離し、立ち上がると「さてと」と言って幾分か雰囲気が柔らかくなった。


「私の気持ちは伝えさせてもらったし、後は大人しく君の答えが出るのを待つよ。念のため言っておくが、もし受け入れられないと思った時は遠慮なく断ってくれ。それによって私やクリスティナ、家の者が君への態度を変えることは絶対に無い。……まあその場合は少しの間、私に気持ちの整理をする時間だけくれたら嬉しいが」


 そう言ってクライヴァル様は苦笑を浮かべた。

 私がどちらの答えを選んでも良いように、気持ちを楽にしようとしてくれているのが見て取れた。

 やっぱり彼は優しい人だ。


「分かりました。気持ちに答えが出たら、真っ先にクライヴァル様に言います。断る時は遠慮なくバッサリいきます。約束です」


 だから私も笑顔で返す。

 クライヴァル様は私の返しに一瞬目を瞠ると、わざとらしく肩をすくめて「怖いな」と笑ったのだった。


久々のクライヴァル登場でした。

進んでいるようで進んでいないような、でもやっぱり進んでいるような二人の関係。

久し振りに恋愛っぽいものになりましたな。


ブクマ&感想&評価、誤字報告などありがとうございます。

やる気に繋がっています。

本当にありがとうございます。

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[良い点] 「わか、ってなかったです」 「そうだろうなぁ」 ここのやりとり凄い好き(〃ω〃)その前のセリフから凄いマルカが大切なのは伝わってきますね。家族がいないマルカも嬉しかったのでは? 告白も真…
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