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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●婚約者編

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30.私の名はマルカ


いよいよ最終話です!

 

 クライヴァル様は私の手を握ると、緊張した自分を落ち着かせるようにふうっと息を吐いた。


「式の前に、神に誓う前に、マルカにもう一度きちんと伝えておきたくて」


 何をと首を傾けた私にクライヴァル様は優しい笑顔を向けた。


「マルカ、私を選んでくれてありがとう」

「え?」

「君にとって、私の最初の印象は決して良いものとは言えなかっただろう。あの頃はまだ身分の差もあって、常識的なマルカには私の気持ちや行動は迷惑なものだっただろうに、それでも私と向き合ってくれてありがとう。マルカは頭も良いし、魔法の腕も良い。貴族になっていなかったとしても、きっといくらでも自分の手で道を開いて行けたはずだ。公爵家の嫁となることは、重荷になる部分が多いと思う」


 クライヴァル様は一呼吸置くと、「それなのに」と話しを続ける。


「だが、それでもマルカは私と向き合い、真剣に悩み、そして私を選んでくれた。これがどれほど幸運なことか、私はきちんと理解しているつもりだ。マルカ、私を好きになってくれてありがとう。君が贔屓やズルなどではなく、自らの力でここまで上がって来てくれたからこそ、多くの人たちに祝福されてマルカという素晴らしい伴侶を迎えられたのだということを私は決して忘れない。ありがとう、マルカ」


 何度この言葉を口にしても足りる気がしないとクライヴァル様は眉を下げる。


「これからも、何度だってマルカに伝える。そして私を選んでくれたことを絶対に後悔させない。一生君を愛し、君を守ると誓う。愛しているマルカ。今までも、今日も、これからも、ずっとマルカを愛することを、今この瞬間の君と、亡きご両親に誓おう」


 私の目をしっかりと見て言葉を紡ぐクライヴァル様の顔は、とても優しいはずだ。

 そのはずなのだけれど。

 おかしい。

 なぜだろう、視界が歪んでよく見えない。

 ああ、そうか。

 私は今、泣きそうなのだ。

 クライヴァル様の言葉が嬉しくて、本当に嬉しくて、感情が涙となって溢れ出しそうなのだ。

 なんてこった。

 式のためのお化粧も何もかも済んでしまっているのに、泣くわけにはいかないのに、もう無理だ。

 こんなの堪えられるわけがない。

 頬を涙が落ちていく。


「ああ、ごめん。泣かせたかったわけじゃないんだ」


 頬を伝う涙をクライヴァル様の指がそっと拭う。


「こんなの、こんなの泣くに決まってるじゃないですか……! もう、クライヴァル様の馬鹿! 泣かせにくるなら昨日とか、式の後でも良かったのに……本当に、馬鹿ですよ。でも、そういうところも好きなんです。大好きなんです」


 たしかに最初の頃の印象はあまり良くなかった。

 こういう意味で貴族と関わることなんてないと思っていたし、クライヴァル様のことだってただの貴族の気まぐれだと思っていた。

 ただ私みたいな人が珍しいだけで、いつか飽きられて、それで終わり。そうだと思っていた。

 でも違った。


「ひねくれ者で、疑い深くて、クライヴァル様の気持ちを信じようとしなかった私を、信じさせてくれたのはあなたです。私がクライヴァル様を邪険に扱っていた時でさえ、私のことを常に気にかけてくれた……そんなあなただから、好きになりました。クライヴァル様の隣に相応しい自分になりたくて、だから頑張れたんです」


 私の手を包んでいた手を握り返し、クライヴァル様に向かって微笑む。

 貴族としての笑みではなく、私の心からの笑顔でクライヴァル様を見れば、彼もまた同じように見つめ返してくれる。


「クライヴァル様が素晴らしいと言い表してくれる私になれたのは、クライヴァル様と共に生きると決めたからです。クライヴァル様なしには今の私はいません。あなたが私を守ってくれるというのなら、私があなたを守ります。一生後悔させません。絶対幸せにしますから大船に乗ったつもりでいてください!」


 私の最後の言葉にクライヴァル様は一層笑みを深めて笑い声を出した。


「はははっ、任せた。と言ってももう今でも十分幸せだがな」


 そうして二人で声を出して笑い合う。

 こんなに心を見せ合える人と結婚できるなんて私たちは本当に運がいい。

 まあ運と言っても、貰ったチャンスを逃さず自ら手繰り寄せた感は強いけれど、それでいい。

 それでこそアルカランデ公爵家なのだから。



 この後戻ってきたナンシーやお母様たちに泣いたことがバレ、クライヴァル様が思い切り怒られてしまったのだけれど、それも少したったら笑い話になるのだろう。

 ナンシーが泣いて少し腫れてしまった私の目を冷やし、温め、マッサージをし、何とか式の時間までに元通りに戻してくれた。

 その間、というかその後はリディアナお義母様によって式本番までクライヴァル様と会うことは禁じられてしまった。

 そして臨んだ婚姻式。

 魔術師長であるフェリクスお父様と腕を組み、祭壇の前で待つクライヴァル様のもとまで一緒に歩んでいく。

 厳かな雰囲気の中、ゆっくりと歩みを進め、フェリクスお父様は私をクライヴァル様のもとへ送り届けるだけの役割のはずだった。

 しかし、私たちが祭壇までの道を歩き始めると、ふわりとどこからともなく花が舞い、それと同時にキラキラと輝く光が降り注ぎだした。

 なんとフェリクスお父様は、人の頭にかからない絶妙な高さで花と光を舞わせ続けるという魔力の無駄遣いを始めたのだ。

 しかも無詠唱、無動作で。

 私の横でにこやかな顔で歩きながらそんなことを行うなんて、さすが魔術師長というかなんというか。

 こんな勝手なことをして良いのかと一瞬慌てたけれど、フェリクスお父様ともあろう方が根回しなしにそんなことをしないだろうとすぐに冷静になった。

 その証拠に、神父様はまったく動揺されていないし、一番前の席に座るヒューバートお義父様と目が合うと、バチンと完璧なウィンクが返ってきた。

 隣りのリディアナお義母様も笑顔で頷いているところを見ると、知らないのは私だけだったようだ。

 言ってくれれば良いのにとも思ったが、参列者の方々もみんな喜んでいたし、知っていたはずのローザお母様も拍手の手がずっと止まらなかったりと、とても素敵で楽しい式になったので良しとしよう。

 その後のパーティーでも友人たちから祝福の言葉をかけてもらい、なんて幸せなことだろうと改めて感じた。

 ヒューバートお義父様もいつになく上機嫌でお酒を飲まれていたり、リディアナお義母様とともに楽しそうに過ごされていた。

 なかなか婚約者すら決まらなかったクライヴァル様が結婚して、きっと少しほっとしたという気持ちもあったのだろう。

 招待客らと歓談されているなかで、「アルカランデ公爵家にとっても、息子にとっても素晴らしい嫁がきてくれた」と言っていたのが聞こえた。

 これ以上の褒め言葉があるだろうか。

 危うくまた泣きそうになってしまったのは私とクライヴァル様との秘密だ。


(父様、母様、見てくれていますか? こんなに多くの人が私たちを祝福してくれているんですよ。笑顔が溢れて、こんなに幸せなことってないわ)


『笑顔の周りには笑顔が、優しさの周りには優しさが集まる』


 今も大事にしている母様の言葉。

 傍にいなくても、ずっとずっと胸に残り続ける大切な言葉。

 クライヴァル様や、みんなとの関係はまさにこの言葉の通りになっている。

 大切な人が笑えば自分も嬉しくなる。

 今も自分が幸せで、みんなも笑っていて、クライヴァル様も嬉しそうで、その顔を見て私もまた嬉しくて……。


「マルカ、どうかしたか?」


 私の視線に気づいたクライヴァル様が不思議そうに聞いてきた。


「素敵な空間だなって。みんな笑っていて、優しい空気で溢れていて」

「ああ……マルカの母君の言葉を思い出すな」

「え?」

「ほら、あれだ。笑顔の周りには笑顔がっていう……何かおかしなことを言ったか?」


 クライヴァル様の言葉に思わず笑ってしまい、それを不思議に思った彼に顔を覗き込まれ、また笑ってしまった。


「いえ、まさに今私も同じことを考えていたから。ふふ」


 クライヴァル様にも母様のあの言葉を教えたことがあったのだけれど、まさか同じタイミングで思い出すなんて。


「クライヴァル様」

「ん?」


 名前を呼んで、すぐに目が合う。

 それだけで、こんなに嬉しいなんて。愛おしいなんて。

 クライヴァル様に会うまでこんな感情知らなかった。


「私、とっても幸せです……あなたと出会えて本当に良かった!」


 私の心からの本当の気持ち。

 あなたと出会い、こんなにも好きになれたことは、私の人生の中で最大の幸運だったに違いない。

 クライヴァル様を見上げて笑顔でそう伝えれば、クライヴァル様は満面の笑みを浮かべ、「私もだ!」と言って急に私を抱き上げた。


「え? きゃあ!」


 急に浮き上がったことに驚いた私は思わずクライヴァル様の首に腕を回し、しがみついた。

 するとクライヴァル様は私を横抱きにしたままその場でくるくると回り、ドレスの裾がひらりと舞った。

 その光景に会場からは、わっと歓声が上がったのだった。







 私の名前はマルカ・アルカランデ。


 ここに来るまでに、いろいろなことがあった。

 与えられたもの、自分で手にしたもの、その全てが今の私を形作っている。

 それら全てを誇れるような生き方をしていきたい。


 難しいこともあるだろう。

 苦しいこともあるだろう。


 それでも最後は笑っていられるはずだ。

 大丈夫だと思えるはずだ。

 父様と母様が力を合わせて困難を乗り越えたように、私もきっと乗り越えられる。


 だって私の隣にも、互いに支え合える、愛するクライヴァル様がいるのだから。






 ――― 完 ―――


ふひー( ̄▽ ̄;)

ついに最終話を迎えてしまいました。

みなさま最後まで読んでくださりありがとうございます。

途中書籍化が叶ったり、けれど力及ばず続刊が出せなかったりと色々ありましたが、みなさまの感想やいいねを楽しみに最後まで書くことができました。

本当にありがとうございます!


『私の名はマルカ』はこれで一応完結となりますが、今後も番外編などでお会い出来たら嬉しく思います。

こういう話読みたいな、あの人の話読んでみたいな、などなどありましたら是非教えてください!

もしかしたら番外編になるかもしれません(・∀・)


それではみなさん、本当にありがとうございました!

もし良ければ感想や評価などいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします!

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こちらもよろしくお願いします!

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先の方に同じく マルカちゃんの物語で久々に涙腺が緩みました。 とうとう完結ですか。 ちゃんと最終回にはお馴染みのフレーズが。物語の本筋としては本当に終わりなんだなぁと。 長期に渡る連載お疲れ様でした。…
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