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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●婚約者編

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29.婚姻式まであと少し

長らくお待たせいたしました……<(_ _)>


 

 黙って立っているだけで着々と準備が整っていく。


「とてもお美しいですわ」

「本当に! こんな素敵な花嫁様だなんて、クライヴァル様もお喜びになるでしょう」


 侍女のナンシーや、準備を手伝ってくれていたメイドたちが笑顔でそう言ってくれた。

 その声にはやり切ったというような満足そうな気配が感じられた。


「ありがとう。まるで自分じゃないみたい。ふふ、こんな物語の中でしか聞いたことがないようなセリフを自分が言うとは思わなかったけどね」


 普段なら絶対にこんなことは言わない。

 けれど今日だけは本当にそう思ったのだ。

 私の言葉にナンシーやローザお母様、リディアナお義母様がくすくすと笑う。


「あらまあ、いいじゃない! 今日は人生の中でも特別な日なんだもの」

「そうよ。自分で自分に見惚れるくらいがちょうど良いわ。ねえ、ローザ様?」

「ええ、ええ! マルカさんは普段はローブ姿でいることが多いですからね。こんなに可愛らしい子なのだと皆様に再度認識していただく良い機会ですわ!」


 ローザお母様は胸の前で手を組んで興奮したように声を弾ませた。


「それにしても……王太子妃殿下の流行をおさえたドレスも素敵でしたけれど、マルカさんのドレスもクラシカルなデザインで素敵ね」

「本当に。どちらも良いけれどマルカさんにはこちらのほうが雰囲気が合っているわ」

「ありがとうございます」


 クリスティナ様の婚礼衣装はプリンセスラインのドレスで、大胆にデコルテを出したオフショルダーの上半身にはアネモネの立体刺繍が施され、とても華やかなものだった。

 それをクリスティナ様が纏えば、クリスティナ様自身の華やかさと相まって派手なはずなのに品格をともなったこれぞ王族の一員! という姿だった。

 あれと同じようなドレスを私が着たら、恐らくドレスに着られているような感じになってしまっただろう。

 クリスティナ様は意志の強さや存在感を感じさせる迫力美人だからドレスにも負けなかったが、私は見た目は儚げで庇護欲をそそる容姿らしいのでたぶん似合わない。

 まあ何度聞いても儚げって何なの? 私、そこら辺の令嬢よりもよほど丈夫だと思いますけど? と思わずにはいられないが。

 とにかく、クリスティナ様には自分とお揃いのドレスはどうだと言われたけれど、そんなわけで丁重にお断りしておいた。

 王太子妃殿下とお揃いのドレスを許されるなんて大変名誉なことではあるけれど、わざわざ似合わない物を着る趣味はない。

 クリスティナ様も冗談交じりに言っていたので、私に同じドレスが合わないことはわかっていたのだろう。

 おそらく、じゃあそうしますと言っていたら止められていたのではないかと思う。

 それにクライヴァル様からもやめてほしいと言われた。

 まあその理由は似合う、似合わないとは違ったものだったのだけれど。

 ではどんな理由かというと、クライヴァル様はクリスティナ様の着たドレスは肌の露出が多いから嫌だと言ったのだ。


『私以外の者に必要以上に君の肌を見せたくない』


 真面目な顔をして、いえ、少しムスッとしていたかもしれないけれど、そんなことを言ったクライヴァル様にニヨニヨしながら「絶対着ません!」と誓った。

 私の旦那様になる方、可愛すぎやしませんかね。

 狭量ですまないと言われたけれど、私はそれを嬉しく思うし、そんな可愛い我儘なんて絶対叶えたいと思うでしょう?

 それに私自身ももう少し布面積の広いドレスのほうが良かったから、クライヴァル様の希望を念頭に入れながらドレス選びをした。

 そんな私が今日着ているドレスは白の綺麗なAラインドレス。

 タイトな上半身部分はハイネックで袖も手首まであり、ウエストから下はふんわりと優雅に広がり、上から下までその全てが繊細なレースで仕上げられている。

 手抜きなどどこにも感じられず、「公爵家の婚礼衣装をお任せいただけるなんて! お任せください! マルカお嬢様のお美しさをより際立たせるドレスを作り上げてみせます!」と言ったお針子さんたちの熱意がそのまま反映されたような素晴らしいドレスだ。


「こんな素敵なドレスを着て結婚式を迎えられるなんて、昔の私が聞いたら驚くでしょうね」


 姿見に映る自分の姿にかつて孤児院で暮らしていた幼き日の自分を思い出し、懐かしさとともに自然と背筋が伸びた。


「驚くのはまだまだ早いわよ。ここからがまたスタート。あなたはこれからもっと輝くの」


 リディアナお義母様が私の肩にそっと手を置き、鏡越しに私を笑顔で見つめて力強くそう言うと、ローザお母様も「そうよぉ!」と手を叩いた。


「10年後、20年後、今よりももっと輝いて私たちを驚かせてちょうだいね」

「ふふふ、はい。お母様方を驚かせられるようにこれからも努めてまいります」

「それでこそアルカランデ公爵家の一員よ。でも忘れないでね。マルカさんが今ここにこうしているのは、奇跡でも何でもないのだから」


 そう言ってリディアナお義母様私の手を取り優しく笑った。


「ここはあなたが自分の力で手に入れた場所よ。誰が何と言おうとね。まあ何か言ってくるような人たちはいないと思うけれど」


 笑みを深めて「もしいたら……腕が鳴るわね」と言うリディアナお義母様と、「もしそんなことがあったら私も黙っていられないわ」と、うふふと笑うローザお母様のなんと頼もしいことか。

 大変ありがたい。ありがたいけれど、「まずは私からでしょう?」と言えば、あらやだそうだったとくすくすと笑い合う。

 なんだかんだ私たちは似た者同士のようだ。

 女主人として家を守っていく貴族の女性は、やはりこれくらいの胆力は持ち合わせていないといけない。

 自分で何とかできない場合は助力を仰ごうと思う。


 そうしてお母様たちとお話ししていると、部屋の扉がノックされた。


「あら、もう一人の今日の主役の登場かしら」


 リディアナお義母様の予想どおり、ナンシーが扉を開けると、そこには正装姿のクライヴァル様が立っていた。

 そして私と目が合うとふわっと、それはそれは美しく輝く笑みをその完璧すぎる顔に浮かべた。


(か、かっこいい……)


 あまりのカッコ良さに私が呆けている横で、リディアナお義母様は「あら、まあ」と呆れた顔でなぜかクライヴァル様を見た。

 さらにその横でローザお母様は、「あらぁ! 物語の王子様も驚きの王子様感だわぁ!」とはしゃいだ声を上げた。


「マルカ?」

「へ? あ、はい!」


 いつの間にか目の前まで来ていたクライヴァル様に声をかけられて、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


「どうした? 大丈夫か?」

「は、はい。あの、クライヴァル様……」


 今日のクライヴァル様は、普段は下ろしている前髪を後ろに撫でつけている。

 この髪型は夜会やパーティーの時くらいでしか見ることがないから特別感があるけれど、今日は特に特別だ。

 衣装は私の髪色のようなミルクを入れた紅茶のような色がメインとなっていて、タイがそれよりも濃い私の瞳の色で、全身で私のことが好きだと言ってくれているようだ。

 事前にどんな衣装なのかは知っていたけれど、実際に着ているところは初めて見た。


「すごく……すごく素敵です」


 目の前に立つクライヴァル様を見上げて、心からの感嘆の声が漏れた。


「ありがとう。マルカもとても綺麗だ……気持ち的には君を抱きしめてしまいたいんだが」

「え?」

「クライヴ」

「大丈夫です、母上。わかっていますから」


 リディアナお義母様の厳しい声にクライヴァル様は苦笑いで答える。


「せっかく私のためにこんなにも美しく着飾ってくれたのに、それを無駄にはしませんよ。その代わり少しマルカと二人きりにしてもらっても?」

「……いいでしょう。けれど、わかっているわね?」


 念を押すように鋭い視線を送るリディアナお義母様に、少し不服そうな声で「自分の息子をどれだけ信用していないんですか……」とクライヴァル様は言った。


「あら、これだけ可愛い嫁がここにいるのですもの。どれだけ注意してもし過ぎということはないわ」

「あああら、リディアナ様ったら。クライヴァル様、私は信じていますからね」

「フィリップス侯爵夫人、あなたの信頼を裏切るようなことはしません」

「ええ、わかっていましてよ。さあ、リディアナ様、式の前には愛の語らいが必要ですわ。マルカさん、また後でね」


 私が頷くと、ローザお母様はリディアナお母様の背を押しながら部屋から出て行った。


「まったく、母上の中での私はどうなっているのだか」

「ふふ、自慢の息子に決まっていますよ」

「どうだか」


 クライヴァル様が肩をすくめて苦笑を漏らすものだからまた笑ってしまった。


「ずっと立っているのも辛いだろう? 座ろうか」


 クライヴァル様にエスコートされ、ドレスが皺にならないように気をつけながらイスに腰かけた。

 そしてクライヴァル様は隣にあったイスをずらして私の前まで持ってくるとそこに腰を下ろし、腕を伸ばして私の膝に置かれた手を取った。



更新遅くなり申し訳ありません。

ようやく涼しくなってきて、やっと自室にパソコン戻せたので次はもっと早く更新できそうです。

というか、次が最終話となります。

もう書き始めていますので、あと少しだけお待ちください。

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