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14 「初めての依頼、初めての狩り」

生物を殺し、解体するという描写があります。苦手な方はご注意を


 喉の渇きを覚えて目を覚ました。

 起き上がって、水のペットボトルを複製し、中身を呷った。


 じっとりと掻いた汗をタオルで拭う。携帯を開いて時間を確認する。


「5時か……」


 日の出を6時に設定しているので、その一時間前というところか。

 タマモとは、6時半ごろに宿を出て7時ごろには冒険者ギルドで依頼を受けて出発するということで話をしているので丁度いい時間と言えるかもしれない。


 携帯の充電がそろそろ10%を切りそうだったので新しいのを複製して、時間を合わせる。

 時計代わりにしか使ってないので省電モードにして鞄の中に放り込んでおく。


 タマモの方を見るとまだ眠っていた。タマモが寝間着にしている無地の白い和服(和服のような服)が肩まではだけて、白い胸元が露わになっていたので、十数秒ほど凝視してからそっと視線を外した。


 喉の渇きが癒えると、今度は尿意を感じて、タオルを持って離れにあるトイレに用を足しに行った。


 この都市のトイレは、汲み取り式のぼっとんトイレなのだが、便槽にスカベンジャーと呼ばれている魔法生物が棲んでいる。


 その生物が排泄物の処理をしているので、トイレの下からの悪臭はほとんどしていない。その魔法生物を実際に目にしたことはないけど、タマモの話を聞いた感じだとスライムみたいな奴らしい。一度見てみたい。


 用を済ました後、宿の井戸で手を洗い、ついでに顔を洗う。井戸水は、キンキンに冷えていて目が覚めた。




 まだ日が昇っていない外は薄暗いが、この時間に起きている人間は多く、通りの方からは喧噪が聞こえてくる。


 宿に戻ってみると、宿の食堂ももう開いてて起きて食事を取っている宿泊客の姿もあった。



「おはよう。今から朝食を食べるのかい? 」


「あ……おはようございます。いえ、朝食はもう少し後でいただきます」


 立っていると、若い男性の従業員に朝食を食べにきた客と勘違いされて声をかけられた。


 束ねた金髪の中から尖った耳が見えた。精霊人らしい。やっぱり精霊人は、物語のエルフみたいに美形が多いな。





 部屋に戻っても、タマモはまだ寝ていた。

 まだ時間があるからタマモが寝ている内にポットで湯を沸かして体を拭いた。昨夜に酒を飲んだせいか拭ったタオルは酒臭かった。



 そうこうしていると日が昇り始めて、空が明るくなってきた。携帯で時間を確認するともうすぐ6時になりそうだったので、タマモを飴玉で起こした。


「くぁぁあ。なんじゃ、もう朝かや? 」


 はだけた衣服をかけ直しながらタマモが起き上がった。口の中では、飴玉をコロコロと転がしている。



「そろそろ下で朝食を取って、冒険者ギルドに依頼を受けに行くぞ」


 俺の言葉にタマモが気だるげに返事を返す。まだ寝起きで、ぼーっとしているがしばらくしたら起きるだろう。


 その間、そのまま冒険者ギルドに行けるように革鎧と剣鉈を装備しとくか。









 ……慣れない防具の装備は、思いの外、手間取った。


 目が覚めてきたタマモに手伝ってもらってなんとか着ることができたが、「くふふ、実にひよっこらしいのぅ」と笑われた。次からは絶対に一人で着られるようになっておこうと思う。


 朝食は、昨日と同じメニューのルソーツベッツ(キャベツの漬物)オーク(豚鬼)の肉詰めと血詰めのソーセージを食べた。



「さて、では冒険者ギルドにいくかの」


 朝食を食べ終えたタマモがそう言って席を立った。なのでタマモの恰好を見た。


 村を出てくる時からの旅装束のまんまである。砂塵除けっぽいフードのついた丈の長いローブを着ているだけである。お洒落で何やら文様っぽい装飾がされているが、それだけである。剣も佩いてなければ、防具も身に着けていない。


 どうやら、この恰好で行く気らしい。

 その装備で大丈夫かと聞いたところ、自信に満ちた顔で問題ないと答えられた。武器も魔法を主体に戦うつもりのようで、魔力の消耗を抑えて威力を上げる魔法の指輪で十分らしい。


 タマモが魔法を使うところは初級呪文を覚えようとしていた時に手本として見せてくれた時くらいしか見たことがないので、タマモの魔法使いとしての実力は未知数だ。



 今日の依頼の途中でタマモに魔法の腕前を見せてもらう。と心のメモを取っておいた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 冒険者ギルドは、昨日の昼間の人気のなさが嘘のように何十人もの冒険者が押しかけていた。特に掲示板に人が集中していた。恐らく依頼を受けに来た冒険者たちなのだろう。荒くれ者という冒険者のイメージに反して、随分と勤勉な姿だった。


 まぁ、隣接している酒場の方は、酔い潰れた冒険者たちで死屍累々だった。あっちの方が実に冒険者らしい。



 受ける依頼はもう決まっているので、遠目で目星をつけてから人混みをかき分けて掲示板の方に進んだ。



 すれ違う冒険者たちから猛烈な獣臭がした。冒険者の多くは水浴びすらしていないみたいだ。



 悪臭に耐えながら、掲示板から目的の依頼書を2枚引き千切って人混みから抜け出した。


 人混みに揉まれたせいか、服に悪臭が染みついていた。自分の複製できるものに消臭剤がないことが本当に悔やまれる。



「おっ、うまく取ってきたようじゃな」


 俺から距離を取っているのは、気のせいだろうか。

 俺の方から一歩近づいてみると、タマモは一歩後ろに下がった。



「早う受けてこなくてよいのかや? 」

 

 そう言われて受付の方を見ると、依頼書を取ってきた冒険者でごった返していた。



 半眼でタマモを睨むが、流された。

 


 俺は再び人混みの中に身を投じる羽目になった。


 順番に並ぶくらいしろよな!








 我先にと受付で依頼を受理してもらうために殺到する冒険者たちに混じって、なんとか依頼書の受理をしてもらうことができた。



「疲れた……」 


 なんで仕事に向かう前からバテてなきゃいけないんだ。鞄の代わりに買った腰のポーチから飴玉を一つとって舐める。



「よし、行くぞ」


 飴玉で元気をチャージし、俺とタマモは門へと向かった。


 冒険者ギルドの前から門までバスのように馬車が出ていたが、獣臭い同業者と同乗するのは勘弁だったので乗らなかった。タマモも同意見だったようで、徒歩で行くことに不満は漏らさなかった。


 まだ日が昇ったばかりの肌寒い早朝だというのに、通りは人が歩き、馬車が走っていた。市場ももう開いているようで、賑やかな喧噪がそっちの方から聞こえてきた。


 門に近づくと、開門している門から荷物を満載した馬車が続々と入ってきていた。



 相変わらず、門も壁もでかかった。

 徒歩で目の前にすると、改めてその巨大さに圧倒される。天然の断崖にトンネルを掘ったと言われた方がしっくりくるくらいの巨大建造物だった。


 こんな物を個人の力で作り出した当時の大賢者もすごいが、それが可能な魔法もすごいな。


「冒険者か。ギルド証を見せろ」


 門の前には、入ってきた時のように複数の門番が待機していた。言われた通りに首に提げた金属プレートのギルド証を見せた。タマモも胸の谷間からギルド証を出した。


 あ、今、兜の奥の門番の視線がタマモの谷間に吸われたのがわかった。


「んっ、んん゛。問題ない。通ってよし!! 」


 門番は、誤魔化すように咳ばらいをして大きな声を出した。


 タマモが谷間にギルド証を戻す時にまたチラリと視線を向け、顔を赤くしていた。どうやら、この門番は初心のようだ。


 背後のタマモが新しい玩具を見つけて意地の悪い笑みを浮かべているのが、見なくてもわかった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺たちが来た城塞都市の東門周辺の地形は、草原になっている。もう少し西に進むと、丘になっていて、そこは巨石がゴロゴロ転がる岩石地帯になっている。さらに進むと、丈の低い草原が広がっている。そして、北西と南西に進んだ先には森が広がっているのが見える。


 外に出た俺たちは、まず街道から外れて草原の探索を始めた。最初のうちは都市に近い草原周辺で活動する方針だ。森の方にはオークやゴブリンが出るという話であり、奥の丈の低い草原では少々危険な魔獣が生息しているそうなので、力を持たないうちは近づかない方がいい。


 ちなみに、ここまでの話は行商人で元冒険者のダガスのおっさんの話だ。



 草原を探索していると、葉が赤みを帯びた草を見つけた。目に見える範囲だと5株ほど点在して生えていた。どこにでも生えているがレドリフはあまり一か所にまとまっては生えないので、5株は当たりだ。


 早速、採取用のナイフで根本を刈り取って5株を一束にまとめる。まとめる為の紐は、そこら辺に生えている草を使った。採取した後は、メモ帳に記録を残す。巨大な壁がいい目印となるので、この草原の地図は簡単に作れそうだった。


 さらに続けていると、小さな黄色い花が群生しているのが目に入った。


 おっ、リエロリの花だ。確か何かの丸薬の素材になったはず。


 何だったかな。メモしてなかったか?

 えっと……あった。虫下しの丸薬か。あーでも代用素材か。村のじーさんたちなら買い取ってくれたろうけど、冒険者ギルドで買ってくれるかは微妙なラインだな。町の薬師に伝手があるわけでもないし、今回は見送るか。年中咲いてる奴だから、別の機会でも問題はないな。



 そんなことを思っていると、ガサガサと音がして視界の端を茶色い生き物が通り過ぎた。


 なんだ? と思って中腰になっていた腰を上げて、剣鉈を腰からそっと抜いた。


 茶色い生き物の正体は、ウサギだった。


 いや、ウサギと言っていいのか?

 長い耳と思ったものは、どうやら薄毛に覆われた双角のようだった。


 ヒクヒクと鼻を動かして草の匂いを嗅いでいるようだった。


 と思ったら、不意に顔を上げてこちらを見た。赤く縁どられた黒い瞳と目が合った。

 こちらを見たまま動きを止める。



 しばし見つめ合い、戦う気のなかった俺は、ゆっくりと後ろに下がって距離を取ろうとした。


 左足を後ろに下げた瞬間、ウサギが弾かれたようにこちらに向かって走ってきた。


「ッ!? 」


 マジかよ!? 


 ウサギに対して臆病者という先入観をものの見事に裏切られた! 瞬く間に懐に潜り込んできたウサギは、目の前で跳ねて腹に突進してきた。


「危なっ! 」


 咄嗟に剣鉈を前に出した。ビリビリと重い衝撃が手に走り、ウサギの勢いが逸れて横に流れる。


 ぱっとウサギの毛が舞った。


 横に逸れたウサギに向き直るが、剣鉈を警戒してるのかすぐには飛び込んではこなかった。

 刃なんて立てる余裕はなかったので、ウサギに外傷は見られない。



 なんでこのウサギ、好戦的なんだよ……



 もしかして、この辺りはこのウサギの縄張りとかなのだろうか?


 どの道、戦う他ないようだった。


 再びウサギが突っ込んできた。回避しながらタイミングを合わせて剣鉈を振ったが、武器に力が乗らずにウサギの脇腹を浅く斬っただけだった。


「ギュワ!? 」


 ウサギが痛みで鳴き声を上げた。

 それを好機と捉えて、痛みで動きが固まっていたウサギを振り向き様に蹴り上げた。


 ドムッという砂の入ったボールを蹴り上げたような重い感触とともにウサギが仰向けに地面に転がる。むき出しになったウサギの腹を素早く足で抑え込んで、ウサギの頭と胴体を繋ぐ毛に埋もれている首元に剣鉈を突き立てた。


 肉を貫き、背骨を砕いた感触が剣鉈越しに伝わり、足元のウサギが「クキュ」という短い断末魔を上げて息絶えた。


 剣鉈を引き抜くと、剣先にはベッタリと赤黒い血が付着し、足元のウサギの首周りの毛が溢れだした血で赤く染まり始めていた。


「ふぅー……」


 おっさんの狩りには何度も同行していたとは言え、初めて自分の手で仕留めた感触を思い出し感傷に浸る。



 あまり気持ちのいいものではないな。


 だけど、自分が生きるためと考えれば、割り切れた。ウサギに黙祷を捧げ、せめて糧にしようと思い、解体用の革手袋を着け、首の切れ口に刃を差し込んで血抜きを始めた。







「ほほぅ、主もついに獲物を仕留めれたか」


 複製したビニール袋を裂いて広げて三重にした上でウサギの解体を行っていると、ウォンラットの狩り出ていたタマモがやってきた。


 その手には、狩りの成果である丸々としたウォンラットが3頭ぶら下がっていた。


「ついでに血抜きと臓物を抜いとくか? 」


「頼んでもよいのか? 」


「狩りのついでにレドリフを集めてくれたら助かる」


「それくらいならよかろう。待っておれ、すぐに残りの2頭も狩ってくる」


 ウォンラットの狩りでタマモの狩猟本能でも刺激されているのか瞳がキツネの目のように細くなっていた。ついでに機嫌がいい。



「さてと、さっさとウサギを終わらせてウォンラットの処理をやりますか」





・ウサギ

正式名称は、ブラウントッタ。

おおよそ外見は、ウサギと似ている。が、長い耳のように薄い体毛に覆われた双角が生えている。角の根本付近に短く生えている。

魔獣の一種であり、草食性。だが、とても好戦的であり、縄張り意識も強い。

走り方は、ウサギのような外見に反して、ネコのような走り方をする。そのため、ジャンプもできるが、短距離走に強い。それを活かした突進は強烈。

双角は、攻撃用の武器というよりは虫の触覚のようなセンサーに近い。魔法の触媒の他に、生薬として需要がある。

ブラウントッタは、魔法らしい魔法は使えないが、その亜種には魔法を扱う種がいる。


人間がブラウントッタに襲われ死傷するということは滅多にないが、打撲や骨折、噛みつきによる指欠損などの怪我がよくあるので危険な魔獣と言える。討伐依頼が出された際の難度は黒2というところ。



・ウォンラット

草食性の魔獣の一種。大きなげっ歯類の見た目で、でっぷりと肥えていて肉、毛皮共に需要がある。

臆病な性格で、人前にはなかなか姿を見せない。草原などに巣穴を掘り、生活している。

農作物に被害を出すことで有名な魔獣で、駆除目的の討伐依頼はよく出る。また、肉、毛皮目的の討伐依頼が常時出されていたりする。

食べてよし、毛皮にしてよし、という有用な魔獣なのだが、見つけるのが一苦労。その捕獲の難しさから討伐依頼は、黒1で出されている。



なので、あっさりとウォンラットを見つけてくるタマモは何気にすごい。


採取だけをする気まんまんで出たために、突然の戦闘にうろたえる主人公。

最初の一週間のモンスターに出会っても敵対しなければ、襲ってこないという先入観があったせいでもある。




10月31日までに10万文字超えるよう頑張ります。

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