表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/28

11 「宿で就寝」


 ギルドで登録を済ませたタマモと俺は空きっ腹を抱えながら、ギルドの受け付けのおっさんが紹介してくれた宿屋『木漏れ日亭』へと訪れた。幸いなことに相部屋が一つ空いていたのでそこにした。



 料金は一泊、朝夕の食事つきで銅貨40枚。

 取り合えず3日分取ることにして、3泊4日で2人分で銅貨15枚おまけしてくれて大銅貨9枚(銅貨225枚)を支払った。大銅貨がなかったので銀貨を1枚渡して、おつりで大銅貨を1枚もらった。



 食事をとる前に二階の部屋の様子をタマモと2人で見に行った。宿の従業員に部屋を開けてもらって中の様子を見る。部屋には光源が一切ないのか真っ暗だった。何も見えない。


 従業員から火のついた取っ手つきの油皿を渡されたのでそれを持って中を照らすと見えるようになった。


 部屋の広さは八畳くらいで2人で寝るにはちょっと手狭だろうか。正面に両開きの窓が一つあり、今は閉じている。左右には木製のベッドがあり、鍵のついた木箱が2つ置いてあった。あと、左右の壁に1か所ずつ、ランプが設置してあった。


 少し黴臭いが掃除はされているようだし、換気もされているようだった。


「ランプの油の補充は一回石貨50枚です。お湯が必要の際は銅貨1枚で用意します。鍵を破損や紛失した際には修理代として銀貨1枚を支払ってもらうことになるので注意してください」


 従業員は宿の諸々の注意点を述べてから俺に鍵を渡して退出していった。


 俺とタマモは部屋に入って、荷物を降ろした。

 俺は早速ベッドを確認した。

 ベッドにはシーツが張ってあった。その上に毛皮の掛け布団が被さっている。触ってみたところシーツの下には藁が敷いてある。どうやら木枠に藁を詰めて、その上にシーツを張ってあるようだ。シーツは使い古されているようだが、洗っているので変な臭いとかはしなかった。藁も入れ替えているのかカビた臭いはしない。


 悪くない。

 理想を言えばキリがないが、旅の間はどうしても安眠できなかったので今はこの程度の藁のベッドでもぐっすり眠れそうだ。


 

「ふむ。思うていたよりも悪くないのぅ」


 タマモのお眼鏡にも適ったようだ。



「さて、食事に行くかえ」


「そうだな。荷物はどうする? 」


「そこの箱に放り込んでおけばよかろう」


 それもそうか。俺は食事に不要なものを箱やベッドの傍に立てかける。一応、ナイフくらいは腰に差しとこう。



 部屋を出て鍵を閉めた俺たちは食事を取るために一階へと降りる。木漏れ日亭は二階建てで一階が酒場で二階が宿となっている。



 盛況なようで男たちの怒声や陽気な笑い声が聞こえてくる。


「ここも賑やかなようじゃな」


 ここもかよ。と思ったのは内緒だ。


 酔っぱらった呑兵衛たちに絡まれないように呑兵衛たちを無視して空いてる席についた。座ってすぐにエプロンのような前掛けをした女性従業員に声をかけられた。彼女の金髪から尖った耳先が出ている。


 精霊人か。

 まるで物語に出てくるエルフのような金髪色白でスレンダーな容姿をしている。そう言えば、この宿の主人も精霊人の森の民という種族だったな。娘さんか?


「ご注文は何にしますか? 」


「何から選べれるんだ? 」


「宿泊している方ですよね? 今日はウォンラットの香草焼きかシーズーの塩焼きですね。豆のスープとパンがどちらにもついてきます。あと、飲み物は山羊のミルク、エール、ワインから選べます。追加で大銅貨1枚を払えれば蒸留酒にすることもできます」


「シーズーってのはなんだ? 」


「シーズーはこの辺の川で取れる魔魚です。今日仕入れたのはどれも大きくてきっと食いでがありますよ」


 魚か。そう言えば、こっちに来てから魚を食べたことがなかったな。そうだな……


「儂はウォンラットの香草焼きにするかの。飲み物は山羊のミルクにしておくかの」


「なら俺はシーズーの塩焼きにする。飲み物はワインで頼む」


「わかりました。狐人のお姉さんがウォンラットの香草焼きで、祖人のお兄さんがシーズーの塩焼きですね。飲み物はミルクとワインですね。あ、鍵を出してください。お預かります」


 俺は彼女の確認に頷いて部屋の鍵を渡した。この宿では食事を取る際に部屋の鍵を預かることで食事を出す方式を取っていた。彼女は鍵を受け取った彼女は番号を確認した後に鍵をエプロンのポケットに入れて、代わりに鍵と同じ番号の木札を手渡された。


「部屋に戻る際にこれを見せてもらえれば鍵を返却します。食事は出来次第もってきます。では、ごゆっくりどうぞー」


 彼女はこちらに対して接客スマイルを見せながら足早に厨房へ注文を届けに去って行った。その後ろ姿を見送るが、飲兵衛たちのセクハラを回避する手際は見事だった。


「どうしたのじゃ? あの娘に惚れたのかえ? 」


「まさか、ただ彼女の魔力の扱いがうまいなと思っただけだ」


 飲兵衛が彼女の臀部や胸に触ろうとするのを巧みに魔力で相手の体勢を崩させたり、自分を動かすことで回避していた。あれは魔力を風に変えているのか?


「ほぅ、よう見とるの。精霊人は魔力の扱いが得意じゃが、特に森の民は草原の民の次に風の扱いに長けておる。あれくらい造作もなかろう」


 そうなのか。あんな宿屋の看板娘みたいな子が魔力をあそこまで使いこなせているなんて本当に精霊人は魔力の扱いが得意なんだな。おっさんのような祖人は火種くらいの火を日に数回出せれば上等で、それなりの魔法を扱えるレベルの魔法使いになるには弟子入りをするなり、相応の時と努力がいると言っていた。


 旅の間に多少は使えるようになったが、彼女くらいとなると一体どれくらいかかることやら……


「あれくらい扱うようになりたいな俺も」


「くふっ、それは随分と気の長い話よのぅ。あれは一朝一夕で身に着くような代物ではないぞ」


 タマモはおかしなことを言うやつじゃとコロコロと笑う。その言い様には少し腹が立つが、魔法を使えるようになったばかりの俺があの域に達するには簡単ではないというのは理解できるので、言い返すことはできなかった。精々、睨むことくらいしかできなかった。


「そう儂を見るでない。誘っておるのかえ? 」


 タマモは悪戯っぽい笑みを浮かべてテーブルに肘をついてゆっくりと前かがみになる。タマモの豊満な胸がテーブルに押し付けられて形が崩れる。タマモはわざとらしい艶めかしい吐息と声音を出して俺に流し目を送ってくる。


「はっ」


 俺はそれを一瞥して鼻で笑ってやった。散々、療養中や旅の間にからかわれてきたのだ。この程度の誘惑はどうってことはなかった。


「くふっ、儂を見て鼻で笑うとはお主も随分と師匠(オスカー)に似てきたの」


「そりゃどうも」





  からかってくるタマモをあしらいながらそれとなく周りの飲兵衛の冒険者たちを観察していると、テーブルにどんっと大きな音を立てて料理が置かれた。


「ご注文の品のウォンラットの香草焼きとシーズーの塩焼きだよ」


 持ってきたのは、さっきの華奢な少女ではなく見事な体躯にいくつもの傷を持つこの宿の女将だった。宿屋の女将より歴戦の女戦士の肩書きの方がよっぽど似合ってそうだ。というか、目つきがやばい。



 去って行った女将を目で追っていくと、さっきの従業員に最初に手を出そうとした飲兵衛の一人をすれ違い様に木のお盆で引っ叩いた。引っ叩かれた飲兵衛はテーブルと濃厚なキスをしたきり起き上がる気配はない。夢の世界に飛び立ったようだった。


 女将が他の飲兵衛たちに睨みを効かせると彼らは揃って顔を逸らした。


「ふんっ」


 女将は鼻息を一つ鳴らして奥へと引っ込んでいった。



「あの女将のいる宿なら安心して休めるというものじゃな」


「そうだな……」


 受け付けのおっさんによると元青2の冒険者という話だし、問題を起こそうものならとんでもない目に合いそうだ。



「さて、乾杯といこうかの。久しぶりのまともな食事じゃ、早う食べたい」


「ああ、そうだな」


 タマモがミルクの入った陶器を手に取って掲げてきたので、俺もワインの入った陶器を持って掲げてカチンと打ち鳴らした。


 そのまま俺はコップに口をつけて中身を煽った。


「……渋い」


「くふふっ、ケンは冒険者に出すワインに何を期待しておったのじゃ。水の代わりなのじゃからおいしいわけがなかろう。ケンの出す水の方がましじゃよ」



 それは早めに言って欲しかった。


 俺はおかしそうに笑うタマモをじろりと睨んみがらシーズーの塩焼きにフォークを突き刺した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 シーズーの塩焼きはおいしかった。豆のスープは塩気が足りなかったが、塩焼きの口直しにはちょうどよかった。パンはスープにつけなければ食べれないくらい堅かったが、旅の最中に食べたパンに比べればうまかった。というか、あれはパンとは呼べないと思う。


 塩焼きの半分をタマモに食べられながらも俺とタマモは食事を終えて鍵を返してもらって部屋へと戻った。



「くはー、食ったのぅ。よい心地じゃ」


 タマモは部屋に戻るなり俺のベッドに身を投げ出してくつろぎ始めた。お尻の尻尾も一本から九本へと増えているのは完全に気を抜いている証拠だ。


「そこは俺のベッドなんだが」


「まぁよいではないか。主と儂の仲じゃろう」


 この狐は親しき仲にも礼儀ありという言葉を知らないのか? ……知らないだろうな。異世界だし。



 俺はタマモの相手をするのにも疲れて俺はため息ひとつ吐いてタマモの使ってないベッドに倒れこんだ。何だかんだで旅の最中はあまり眠れず寝不足だし、今日だってギルドの登録とかで忙しかった。



 俺は早くぐっすり寝たいのだ。


「これ、そこは儂の寝床じゃ」


「交換だ。お前はそっちで寝ていろ」



 それだけ言って俺は毛皮の掛け布団を被って目を閉じた。



 タマモが何かを言っていたような気もするが、目を閉じた俺はすぐに深い眠りについたのだった。

 









 




精霊人は小さなくくりとして森の民、山の民、水の民、草原の民などと呼ばれる民族がいる。

森の民は、いわゆるエルフのような容姿をしている者たちで、植物を操れる他に風や土の魔法に長けている。



貨幣

この地域では、石貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨、虹貨の8つの貨幣が扱われている。


石貨100枚=銅貨 石貨2500枚=大銅貨

銅貨25枚=大銅貨 銅貨250枚=銀貨

大銅貨10枚=銀貨 

銀貨25枚=大銀貨 銀貨250枚=金貨

大銀貨10枚=金貨

金貨25枚=白金貨 金貨2500枚=虹貨

白金貨100枚=虹貨



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ