気がついた
頭がガンガンして痛い…
ゆっくりと目を開けると、そこは病室だった。
「綾音!気が付いた??」
和子の顔が視界に入る。
なんか前にもこんな光景があったな…
「お母さん…」
「ああよかった」
和子が安どの表情を浮かべている。
横には愛梨と梨華もいた。
梨華を見てぼんやりと記憶が戻ってくる。
なんか車とぶつかったような…
「わたし…はねられたの?」
「そうよ、でもたいしたことないって。しばらく頭痛が残るみたいだけど一週間くらいで退院できるみたいだから」
それを聞いて綾音自身もホッとした。
すると勇とのやり取りも蘇ってくる。
悔しくて悲しくて涙が出てきた。
「綾音ちゃん…ごめんね…」
梨華が謝ってきたので、横に首を振った。
「頼んだのはわたしだから…梨華ちゃんは全然悪くないよ」
そこへ義弘がやってきた。
意識が戻った綾音を見て、笑顔になった。
「綾音、大丈夫か?」
「お父さん…うん、頭は痛いけど」
「まあ、すぐに治まるさ。それより綾音、まだ痛くて辛いかもしれないけど、綾音に会わせたい子がいるんだ」
そういって、奥からゆっくりと勇が入ってくる。
瞬時に綾音は拒絶反応をしめした。
「嫌!会いたくない!!出て行ってよ」
再び涙がこみ上げてくる。
「いいから彼と話すんだ」
義弘は無理やり和子たちを連れ出す。
「お父さん!今そんなことしなくても」
「いいんだ、みんな出なさい」
納得しない和子たちをそれでも義弘は追い出して勇だけを残した。
綾音は布団をかぶって泣いていた。
それでも近くに勇が立っている気配は感じる。
「顔を見たくないのも当然だよな。そのままでいいから話を聞いてくれ。俺は岡崎がずっと女だったというのを信じたくなかった。ずっと岡崎を男の友達として見ていたから。でもそれは…間違っていた。自分の認めたくない感情を岡崎に押し付けてしまった。あのあと考えたんだ…もし絡まれていたのが男の岡崎だったらどうしたかって…迷わず助けた。これは本当だ。それがわかったとき、岡崎が男だろうと女だろうと関係ないって…岡崎は岡崎なんだって…」
勇の言葉が胸に染みてくる。
これは自分で考えて言っている本心だ。
綾音はふとんをずらし、少しだけ顔を出した。
「星野くん…」
「俺が悪かった!ごめん!!」
勇は頭を下げていた。
綾音がふと勇の右手を見てみると、綾音が作ったクッキーを持っていた。
「クッキー…」
その言葉を聞いて、勇は慌ててクッキーを見た。
「食べてくれたら…許す」
「あ、ああ!」
勇はラッピングを開けてクッキーを一つ取り出した。
星の形をしているクッキーだ。
それを口に入れてゆっくりと噛んだ。
その様子を綾音はじっと見ている。
「どう…?」
「おいしい!マジでおいしいよ!」
綾音の顔が急に明るくなった。
「よかった、初めて作ったから大変だったんだよ」
「そうだったのか…それなのにあんなこと言っちゃってごめん…」
綾音は「もう」と言ってから言葉を続けた。
「食べたら許すって言ったんだから謝らないでよ」
「そ、そうだったな」
「でもおいしいって言ってもらえてよかった。才能あるのかな?」
「かもしれないな、将来はパティシエか?」
「ブー、女の子はパティシエールです」
「どっちだっていいじゃんか」
「よくない!ちゃんと男女で職業の言い方が変わるんだから一緒くたにしたらダメだよ。だいたい星野くんは…」
勇は梨華や義弘の言っていた意味がやっとわかった。
昔と同じだ、俺の知ってる岡崎じゃないか。
2人は以前のような会話をして盛り上がっていた。
「な、問題なかっただろ」
病室の外で聞き耳を立てていた4人だったが、義弘は少し勝ち誇った表情をしていた。
「でもこんな事故にまであって許していいのかしら?」
少し難しい顔をした和子に、今度は愛梨が言ってきた。
「細かいことは気にしないの。お姉ちゃんが楽しそうにしているんだから」
第三者の梨華もそれを聞いてニコッとしていた。
和子も「しょうがないわね」とため息をついて病室のほうをチラッと見た。
中からは綾音と勇の楽しそうな会話が聞こえてくる。
そんな和子の肩を義弘がたたき、無言でうなずいた。
これでよかったんだ。
綾音、お前は今まで通り自分らしく生きればいいんだ。
俺は父親としてそれを精一杯応援するからな。
と心の中で呟いたものの、中に戻るタイミングを失って困り果てていた。




