言わずにはいられなかった
落ち着いたところで、仁菜が綾音に聞いてきた。
「そういえば名前は?」
「あ、綾音です…」
「綾音ちゃんか、とりあえずあっち行こうか」
仁菜に誘導されて勇と春樹のところへ行く。
近くまで行くと勇がよろけたので、春樹がとっさに支えた。
「大丈夫か?」
「は、はい…」
間近で見る勇の顔はボロボロだった。
自分のせいでこんな目に合わせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ごめんね星野くん…わたしのせいで」
勇は綾音の顔をジッと見ている。
「俺のこと…知ってるの?」
どうやら勇は綾音が誰だかわかっていない様子だった。
最初から知らないふりはできた。
でもそんなこと出来なかった。
こんなボロボロになってまで自分を助けてくれた勇に
他人のふりをすることなんて無理だった。
「わたし…岡崎…」
「岡崎…?岡崎って」
綾音はゆっくりと頷いた。
そこで仁菜が話を中断させる。
「なんか久々に会った感じだね。いろいろ話もあると思うけど今日は帰ろう。もう10時近いしご両親も心配しているんじゃない?」
10時と言われて慌ててケータイを見る。
マナーモードにしてバッグに入れていたので気づかなかったが、
何度も和子から着信が入っていた。
「ああ…怒られる…」
そうつぶやき。一気に現実に引き戻された。
そんな綾音に仁菜が家の場所を聞いてきた。
「もうすぐそこなんです」
「そっか、じゃあ家まで行って事情を説明してあげる」
「そんな…助けてもらったのにそこまで…あっわたしお礼も言ってなかった…あの、本当にありがとうございました!」
深々とお辞儀してから勇にもお礼を言った。
「星野くん、ありがとう。星野くんが助けてくれなかったら、わたし…」
綾音は思わず泣き出してしまった。
仁菜がそれを見て優しく頭を撫でてれた。
「そうだよね、女の子だもん。怖かったよね。でも無事でよかった!ね、春樹」
「ああ!さあ帰ろう。少年、お前はどうする?」
「一人で帰れます。あの、俺もありがとうございました」
「少年…男だったぜ、気を付けて帰れよ」
「はい…」
そういって勇はチラッと綾音を見てから公園を離れていった。
いつか星野くんにちゃんとお礼を言わないと…
家に着くと和子がすっ飛んでくる。
「綾音!こんな時間まで電話にも出ないで何してたの!」
「そうだぞ、どれだけ心配したと思っているんだ!」
義弘も出てくる。
こんな時間に中学2年生の娘が帰宅すれば、親としては当然だ。
そこに仁菜と春樹が顔を出す。
「あの…すいません」
仁菜が若い少年たちに絡まれていたことを説明してくれた。
おそらく綾音だったらうまく説明できなかっただろう。
やはり送ってもらって正解だった。
「本当にありがとうございました」
義弘と和子が頭を下げてお礼を言う。
「いえ、それでは失礼します」
春樹と仁菜は岡崎家を後にして歩き出した。
「それにしても…夏休みで仁菜に会いに来たらこんなことになると思わなかったよ」
「何言ってるの、綾音ちゃんが無事でよかったじゃない」
「まあ、それもそうだな」
「ねぇ、人を殴ったの5年ぶりなんだ」
「当たり前だろ。いくつだと思ってるんだよ」
「それもそうか。5年前って隼人くん?」
「ああ…」
春樹が少しムスッとした顔になった。
「いい加減許してあげれば?あの子と離婚したみたいだし、愛花だって祥吾くんとうまくいってるんだから」
「それはわかってるけどよ、今更っていうか…」
「もう!プライド高い男ってホント面倒くさい!」
「余計なお世話だ」
春樹は少し隼人のことを考えてから気持ちを切り替えた。
なんで隼人のことを考えなきゃいけないんだ。
「俺は仁菜に会いに来たんだ。隼人の話はおしまい!」
「逃げたな」
「うるせー」
そういって仁菜の腕を組んで歩いだした。
仁菜も「まったく」と言いながら寄り添うように歩いていた。
仁菜たちが説明してくれたとはいえ、このあとこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
門限が決められ、学校以外に日は6時まで、学校があっても8時までには必ず帰ることを
約束させられた。
ベッドに入ると、勇の顔が浮かんでくる。
「わたし…岡崎…」
言ってしまった。
勇は今どう思っているんだろう。
ちゃんと説明する機会はあるのだろうか。
誰かに言ったりしないだろうか。
頭の中は勇のことでいっぱいだった。
でも…かっこよかったな。。。




