予想外の人物2(小説的に笑)
「おいおい、4対1なんてずいぶん情けないな」
「あ?」
いつの間にか綾音の後ろに20代半ばくらいの男性が立っていた。
その横には男性と同じくらいの年齢の女性もいる。
その女性が綾音の肩を抱いてくれた。
「怖かった?もう大丈夫だからね」
その手は暖かく優しい。
恐怖が薄れていき、安堵に包まれた。
男性は4人のほうへ向かって歩いていく。
「なんだこのオヤジ」
「オヤジ?俺はまだ23なんだよ」
男性は4人もいるのに堂々としている。
柔道をやっている勇ですら多勢に無勢だった。
「助け…呼びにいかないと…」
綾音がボソッと呟くと、女性は「大丈夫」と言った。
「あいつ、昔からケンカだけは誰にも負けたことないんだってさ」
「でも…」
女性のまなざしはぶれていなかった。
信じてる、それが伝わってくる。
綾音はそれでも半信半疑だった。
「今すぐ消えるなら見逃してやる。もし俺に向かってくるなら…覚悟しろよ」
「うるせー」
「やれやれ」
前田が男性に向かっていく。
パンチを繰り出したが、難なく交わして足を引っかけた。
前田が転ぶと、今度は名前がわからない少年の腕を掴み、
足払いをして前田の上に倒した。
「うげっ」
人が倒れこんできたので前田が苦しんでいる。
小野も突っかかっていったが、簡単に転ばされて地面に這いつくばっていた。
「す、すごい…」
「だから言ったでしょ」
まるで格が違う、この男性がどれだけ強いのかわからないけど差は歴然だった。
男性は秋山に近づく。
「お前がリーダーか?ガキのくせにくだらないことしやがって」
「て、てめー…」
秋山が大振りで顔を殴りにくる。
それもあっさりと交わして腕を掴んだ。
「おいおい、ケンカの仕方知ってるのか?そんな大振りのパンチが当たるはずないだろう」
だが秋山はそこで不敵な笑みを浮かべていた。
「調子に乗んなよ、くそ野郎が…やれ!」
「ん?」
チラッと後ろを見ると小野が金属バットで殴りつけてきた。
「うおっ」
男性は間一髪で避ける。
「ちっ…次は外さねえぞ」
「おい、バットは野球で使うもんだろ」
「うるせー!」
ブンブンとバットを振り回す。
男性は避けながらタイミングを計っていた。
そしてバットが下に降りた瞬間、強烈な右フックが小野の顎を打ち抜いた。
ガン!という音とともに小野が崩れるように倒れこむ。
「ったく…人なんて殴ったの5年ぶりだぞ」
男性はゆっくりと秋山のほうへ近づいていく。
「まだやるか?」
男性の目つきが変わった。
人を威圧するような目つきに秋山は凍り付いていた。
ここでようやく、何人いてもこの男には勝てないと悟ったのだ。
それはほかの3人も同じだった。
前田ともう一人が小野を立たせて逃げ出した。
「お、おい…」
慌てて秋山も逃げようとしたが、それを男性は許さなかった。
身体を掴まれ、身動きが取れない。
「か、勘弁して…」
それを見て女性が叫んだ。
「ちょっと、もういいでしょ…春樹!」
春樹と呼ばれた男性が今度は女性に叫んだ。
「いいや仁菜、男にはやられたらやり返さないときがあるんだ。なあ、柔道少年」
いつの間にか秋山の前には勇が立ち上がっていた。
顔からは血が流れ、痣などもできている。
おそらく体中も痣だらけだろう。
それでも目だけは死んでいなかった。
その目を見て秋山が恐怖を感じる。
「やれ、少年!」
春樹が腕を放し、勇の前に突き飛ばす。
「ひ…ひぃっ」
「うおぉぉぉ」
勇は叫びながら強烈な背負い投げを食らわせた。
「ぎゃあ」
秋山は叫びながら倒れた。
「はあ…はあ…」
「満足したか?柔道少年」
勇は息を切らしながらゆっくりと頷いた。
それを見てから春樹が秋山の顔を覗き込む。
「おい、もう二度とこんなくだらないことするなよ」
秋山は顔を歪めていて答えない。
よほど痛いのだろう。
そこへ春樹が追い打ちをかける。
「わかったか、おい!」
怒鳴ると慌てて返事をした。
「は、はい!」
「よし、行け」
秋山はよろけながら立ち上がり、背中を抑えながら逃げるように歩いていった。
綾音はずっとその光景を眺めていた。
「よくわかんないね、男の世界って」
仁菜がそういうので、綾音も頷いていた。
確かにわからない。
やり返す意味もわからなければ、やり返したあとの満足もわからない。
もし向こうがまた殴ってきたらどうするんだろう?
痛い思いをするかもしれない、あのまま逃がせばいいのに。
それが綾音の考えだ。
でも、その光景はしっかりと脳裏に焼き付いていた。




