第98話 ダブルヘッド 7
<ヴァーン視点>
「んで、いつまでそこにいんだ」
「そうだ。シアもアルも早く離れろ」
「でも、師匠たちを置いては」
その気持ちはありがたい。
が、今はそんな状況じゃない。
「おい、勘違いすんじゃねえぞ。ここは、師匠の見せ場ってもんだろうがよ。さっさと離れて師匠の活躍でも期待してろや」
「……」
「……」
「シア、アル、とにかく少しでも離れていてくれ」
逃げることに納得していないようだが、それでもだ。
今は少しでも離れていてほしい。
「……わかりました。行くわよ、アル」
「姉さん」
さすがシア。
こちらの意を汲んで、渋るアルを連れて行ってくれた。
それでいい。
あとは、俺たちがやるだけだ。
しかし、あの化け物。
さっきは攻撃を仕掛けてきたのに、今は俺たちのやりとりを眺めてやがる。
どこまでも余裕だな。
だが、見てろよ。
「いくぞ!」
「おうよ」
***********
救出した冒険者たちから離れ、ダブルヘッドを追走すること数分。
このまま逃げ切られるかと危惧したところで、痕跡を発見。
さらに、やつの気配もかなり正確に感知できるようになってきた。
今なら多少距離があろうとも、見つけることができるはずだ。
「近いな」
もはや違えることなどありえないダブルヘッドの気配を辿りながら距離をつめていく。
目の前にはテポレン山。
あいつテポレン山に逃げるつもりなのかもしれないな。
歩を進めるにつれ、テポレン山が近づいてくる。
もう、すぐそこがテポレン山への入り口だ。
と、そこで、ついに。
ダブルヘッドを視認した。
俺の前方を走るあいつ、テポレン山と常夜の森の境にある少し開けた空間に入るつもりだろう。
ちょうどいい。
そこで追いついてやる。
*********
<ヴァーン視点>
「会心の一撃だぜぇ」
俺の魔法による牽制とギリオンの剣による攻撃。
6度目の挑戦でついに結果を出した。
ギリオンの剣がダブルヘッドの双頭のひとつ、左の頭の片目を突き刺すことに成功したんだ。
「グギャァァァ」
「おお、効いてるぞ」
苦しそうに頭を振りながら悲鳴を上げている。
「ったりめえだ。オレ様の攻撃だぜ」
「俺の魔法での援護があってこそだがな」
「ぬかせ。ところでよぉ、こいつを倒しゃあ、オレも1級冒険者か」
「ギルドの査定次第だが、ありえるな」
「はん、悪くねぇな」
「そうだな。だから、このまま倒すぞ」
「おうよ。ヴァーン、魔法だ」
「了解。合わせろよ」
「おめえが合わせろ」
これまで随分魔法を使ってきた。
とうぜん魔力の残量は心許無いが、今攻めずにいつ攻めるって言うんだ。
頼むから最後までもってくれよ、俺の魔力。
「いくぜ!」
さっきと同様、威力の弱い魔法を連発する。
これでダブルヘッドの動きを制限できるはず。
「ギリオン!」
「おらぁぁぁ!!」
ギリオンの剣を避けようとするが、魔法に気を取られすぎだ。
よし!
ギリオンの剣が再びダブルヘッドの目に突き刺さった。
「やったぞ!」
「グギャァアァ、グギャァァ」
悲鳴を上げながら後退するダブルヘッド。
これで、左の頭の目は両方共につぶれた。
同様に右の頭の目もやれば勝ちが見えてくる。
「どうだ、オレ様の攻撃」
「ああ、見事だ」
「けっ、おめぇに褒められると調子が狂うぜ」
「まあ、知能の低い魔物だから同じ攻撃がはまったんだろ。ギリオンにはおあつらえ向きの相手だな」
「おい、馬鹿にしてんのか」
「攻撃は見事だったからな。褒めてるぞ」
「ん? そうか?」
「やっぱり、お前は魔物相手が向いてるわ。ジルクール流の剣士を相手にするより力が発揮できるだろ」
パワーとスピードに優れているギリオンだが、細かい駆け引きは苦手だ。
技術と駆け引きも重要な要素であるジルクール流剣術より、魔物相手の実戦の方が合っている。
「んなこたぁねぇ。ジルクール流もオレ向きだ。いつかトップになってやらぁ」
こいつホントに分かってんのか。
まあ、そこがギリオンの良いところでもあるか。
と、そんなことより。
「今はあいつを倒そうぜ」
無駄話はあとでいいな。
今度は右の頭だ。
「おうよ」
「もう一度やるぞ」
さっきと同様の攻撃を仕掛けるため、まずは俺の魔法と思ったのだが。
「なっ?」
「なんだ、ありゃ?」
突然、ダブルヘッドの左の頭が光を帯び始める。
そして、その光が弾けたあとには……。
「……」
「おい、そりゃねえだろ」
両目共に無傷のダブルヘッドの左の頭があった。
「回復魔法、いや……再生なのか?」
「こいつぁ、やべぇな」
苦労して積み上げてきたものが水泡に帰してしまった。
残っているのは俺たちの疲労。
そして残量僅かとなった俺の魔力、という過酷な現実。
最悪だ。





