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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第3章  救出編
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第88話  酔っ払い 2



「ゾルダー、お前。何してんだ!」


「うるせぇ。ケリーは黙ってろ」


 頬を平手打ちされた衝撃で、シアは固まっている。


「シア、大丈夫か」


 左の頬が赤い。


「あっ……。はい」


「もういいから、こっちに」


「……はい」


「ああ、何だお前ら。女の顔をはたかれたのが何だってんだ?」


 こいつら。


 酒が入っているからといって、見逃せるもんじゃないぞ。


「コーキ!」


 ヴァーンも同じ気持ちだろう。


「ああ、仕方ない」


「申し訳ない。本当に申し訳ない」


 ケリーさんがゾルダーとヤランの傍らで謝っている。

 が、これは許すことはできないな。


「ケリーさんは少し下がっていてください」


「……」


「おっ、やる気になったか?」


「やっとかよ」


「ああ、そうだ。先輩方に指導してもらおうか」


 口角を歪めた表情のヴァーンが前に出る。

 これは相当頭にきているようだな。


「ヴァーン、一応言っておくが程々にな」


 そう言う俺も頭に血が上っているけどな。


「分かってらぁ」


「……負けんなよ」


「負けるわけねえだろ」


 この三流冒険者たちがどれくらいの強さかは分からない。

 分からないが、強者の雰囲気はまったく感じない。


 まあ……。


 こんな酔っ払いなんかにヴァーンが負けることはないだろう。


「こいつら、エラそうに」


「ヤラン、やってやれ」


「おう」


 ヤランがヴァーンに、ゾルダーが俺に向かってくる。


 とはいっても、さすがに剣は抜いていない。

 こいつらも最低限の理性は持ち合わせているようだ。


 なら。

 素手で勝負といこうか。


「そっちは任せた」


「了解」


 俺に対するのはゾルダー。

 シアに手を出したやつだ。


 そのゾルダーが直線的に殴りかかってくる。

 フェイントでも仕掛けてくるのかと警戒してみるが、全くそんな素振りもない。

 ただ、真っ直ぐに突き出された右の拳。


 結構な力は籠っているが、それだけのこと。

 避けるのが容易過ぎて、逆に戸惑うくらいだ。


「避けやがったな」


 そりゃ、避けるだろ。


「くらえ!」


 また同じように拳を出してくる。


「……」


 本当に冒険者なのか。

 いくらなんでも、これはないぞ。


 ただ力に任せて拳を振り回しているだけじゃないか。

 酔っているとはいえ、これじゃあ、まったく相手にもならない。


 様子を見る必要もないな。


「こいつ、ちょこまかと動きやがって。大人しく食らいやがれ」


 食らうわけないだろ。


「ダアッ!」


 何の工夫もなく突き出された右の拳。

 それを躱して懐に入り込む。

 空を切ったままの右腕を掴み、そのまま背負ってやる。


「なっ!?」


 初めて見る技だろ。

 この世界には柔道なんてないからな。


「えっ?」


 宙を舞うゾルダー。


 地面は砂地だが、かなり痛いと思うぞ。

 我慢しろよ。


 ドーンッ!


「ウグッ」


 綺麗に背負い投げが決まった。


「ウゥ……」


 酔っ払いが頭を打つと危ないからな。

 そこだけは配慮してやったぞ。


 でも、背中は相当痛いだろ。

 ついでに肘も入れておいたから、そっちも効いたか。


「ウッ、ウッ」


 ああ、そうか。

 息がしづらいか。

 でも、大丈夫だ。

 それはすぐに回復する。


 ほら、楽になってきただろ。


 それで。


「まだ、やるか?」


「……」


 返事がない。

 と思ったら、気を失っている。


 ……。


 これが冒険者かよ。

 色々な意味でガッカリだ。



 と、そこに。


「コーキ先生、凄いです。今のは何なんですか?」


 駆け寄ってきたシアの顔が輝いている。


「ちょっとした投げ技だよ。で、ヴァーンの方は?」


 ああ……。


 馬乗りになって殴ってるな。


「ヴァーン、それくらいにしとけよ」


「ん? そうだな。これくらいで許してやるか」


 いや、いや、そいつも気を失っているぞ。

 やり過ぎじゃないか。


「ヴァーンさんも凄いです」


 シアは喜んでいるけど。


「だろ。俺も強いんだぜ」


「はい。おふたりとも、本当に強いんですね」


「俺に惚れちまったか」


「なっ、何言ってるんですか」


「顔が赤いぞ」


「ヴァーンさんが、変なこと言うからです」


「そうかぁ」


「そうです。でも、ありがとうございました」


「ああ、いいってことよ」


 こいつら楽しそうだな。

 まあ、いいけどさ。


「ケリーさん、このふたりは気を失っているだけですから、後のことはお願いしてもいいですかね」


「あっ、ああ。任せてくれ。酔いがさめたら、こいつらにはしっかりと言い聞かせておく」


「頼みます。それと、余計なお世話でしょうが、パーティーメンバーはよく考えた方がいいですよ」


「……そう、だな」


 こんな2人と組んだら苦労するだけだろ。

 ケリーさんはまともな冒険者のようだから、組む相手は考えた方がいい。


「俺も、こいつらとはもう組まないつもりだ。酒を飲んだことも驚きだったが、まさか酒でここまで変わるとは思わなかったからな」


 酒で豹変する輩か。

 まっ、こんなところで飲むのがそもそもの間違いだと思うけどな。


「それがいいですね」


「その、今回は本当にすまなかった」


「ケリーさんが、何度も謝る必要はないですよ」


「いや、今はまだ俺もパーティーの一員だからな」


「そうですか。でも、もういいですので」


「……分かった」


「では、これで失礼します。ヴァーン、シア、帰ろうか」





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― 新着の感想 ―
[良い点] コーキもヴァーンも優しいですね。ボコで済ませてあげるなんて(笑)酔っ払いは本当に救いがないので、しかも女の子に暴力振るうなんて、この2人は更にひどい目に遭えばいいかなと思います。 [一言]…
[良い点] 犬も歩けば系の酔った冒険者、異世界は意外と大変ですね(笑) アルコールが入ると豹変する二人だったようですが、飲んだらいけないタイプ。 仕事先で飲んじゃう人は何のお仕事だろうが、駄目ですしね…
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