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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第3章  救出編
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第87話  酔っ払い 1



 言うまでもないことだが、俺の異世界好きは今に始まったことじゃない。

 30年前のあの日から、ずっと異世界に心を奪われ続けている。


 いつかまた再び足を踏み入れるであろう異世界のために、身体を鍛え、様々な武術を身につけ、魔法の練習をし、知識を蓄える。そんな生活をずっと続けてきたんだ。


 そんなわけだから、異世界関連の小説、漫画なんかにもそれなりに手を出してきた。実在する異世界に降り立った経験がある俺から見ると、あり得ないと思うようなものも多かったが、それでも楽しめてしまうのは異世界好きの性なのだろう。


 そんな所謂異世界ものの中には、こうしてオルドウで活動するようになった今でも参考になる事柄がいくつも存在している。


 そして、今。

 まさに俺の目の前で、異世界ものでよく見かける展開が始まろうとしていた。



「おいおい、新人と若造がこんなところで何してんだ」


「本当だぜ。こんな何もないところで何してんだ。馬鹿じゃねえのか」


 シアの魔法訓練が終わり、オルドウの街に戻ろうと帰り支度をしていた時。

 常夜の森の方から3人の冒険者らしき者たちが歩いてきた。


 この場所で人を見かけるのは珍しいことだが、常夜の森からの帰りにここを通る冒険者がいないわけでもない。


「何してんだって聞いてんだよ!」


 そんな場所にやって来た冒険者風の男たち。

 その中のふたりが酒臭い息を吐きながら、俺たちに突っかかってくる。


「おい、聞こえねえのか」


 酒臭い上に、顔も赤い。

 明らかに酒を飲んでいる。

 常夜の森の方向から来たのだから、冒険者活動の帰りじゃないのか。


「ゾルダー、ヤラン、やめとけ」


「うるせえぇ。俺はこいつらに話してんだ」


「そうだ。ケリーは黙っとけ」


「お前らこそ、こんな所で騒ぐな。もう帰るぞ」


 この人の息は酒臭くない。

 ひとりだけまともな人がいるようだ。


「ケリーは、ホントうるせぇ奴だぜ」


「分かってねぇよな」


「分かってなくていい。ほら行くぞ」


「お前ひとりで帰れ」


「そうだ、ケリーは帰れ」


「はぁ……」


 大きな溜息をついている。

 その気持ちはよく分かるぞ。


「で、お前らは何してんだ」


「口がきけねえのかよ」


「あんたら、申し訳ないが、こいつらのことは無視してくれないか」


 素面のひとりが話しかけてくる。


「分かっていますよ」


 こういう輩は無視するに限る。

 ヴァーンも良く分かっているようで、黙ったまま。

 普段の姿からは想像しづらいが、こいつは空気が読めるし頭もいいんだよな。


「ケリーに答えんなら、俺にも答えろや」


「おい、何か喋れ」


「それとも、俺たちが怖いのか」


「そうか、怖いのか」


「……」


 俺とヴァーンとシアは話しかけてくるこいつらの相手などせず、帰る準備を進めていると。


「無視すんな!」


「いい加減、何か言えや」


 酔っ払いのふたりが俺に近づき、至近距離で叫んできた。

 うるさいなぁ。


「喋れ!!」


 ああ、うるさい。


「何か言えと言われても、酔っ払いに話す言葉はないのでね」


 あ~、つい答えてしまった。


「何だと!」


「どういう意味だ!」


「……」


「ちょっとこっち来い」


「礼儀を教えてやる」


「……」


「黙ってんな」


 もう一度無視するが、効果がない。

 まいったな。


「コーキ、どうする?」


 ヴァーンが耳打ちしてくる。


「無視するのが一番だが……。ヴァーン、こいつらのこと知ってるのか?」


「いいや。でも、まあ、そこいらの三流冒険者だろ」


 そうか。

 三流冒険者か。

 確かに、三流っぽいな。


「おい、お前、誰が三流だと!」


「こいつ、生意気だな!」


 聞こえてしまったか。


「ゾルダーもヤランも、ホントにもうやめた方がいい。こんなところで揉めたら問題になるぞ」


「うるせぇ。これは教育的指導だ」


「いろいろ教えてやるんだよ」


「フン、あんたらに教わることは何もないと思うがな。コーキもそう思うだろ」


 ヴァーンも反応してしまった。

 もう無視はできないか。


「そうだな。酔っ払いに教わることはないな」


「なにっ!」


「すまんが、煽るようなことは言わないでくれないか。こいつら狩りが上手くいかなくて、酒を大量に飲んじまったんだ」


 ひとりだけまともなケリーさんとやらが、ふたりの前に出て話しかけてくる。


「仕事中に飲酒ですか」


「……ああ。俺も今日初めてこいつらと組んだんだが、まさか酒を飲むとは思わなかった」


「そうですか、分かりました。それじゃあ、早く連れて帰ってください」


「そうさせてもらおう。ゾルダー、ヤラン帰るぞ」


「何ごちゃごちゃ言ってんだ。こいつらを置いて帰るわけねえだろうが」


「そうだぜ。指導してやらねぇとな」


「お前ら……」


 頭を抱えるケリーさん。


「コーキ、こいつら帰る気ないぜ」


「そうだな」


 このふたりがこのまま引き下がるとは思えない、か。


「コーキ先生?」


「シアは心配しなくていいから」


「おっ、女の前でカッコつけるのか」


 俺の知る限りオルドウの冒険者ギルドはしっかりとした立派な組織だ。

 素晴らしく統制の取れた組織だとも思っている。

 実際、ギルドの建物の中ではこういった輩は今まで全く見かけたことがない。


 でも、いるんだよなぁ。

 こんな奴らが、どの組織にも。


 まあ、冒険者ギルドもそうそう完璧に運営できるもんじゃないか。


「新人が女の前でいい所見せたいんだろ」


「残念だったな、みっともない所を見せることになって」


「新人らしく大人しくしてればいいものを」


「ほんとだぜ、弱えくせにな」


 さて、どうしてやろうかと考えていると。

 シアが俺とヴァーンの前に足を踏み出し……。


「コーキ先生はみっともなくありません、弱くありません」


 あいつらをを睨んで捲し立てた。

 ありがたいけど、危ないぞ。


「シア、下がった方がいい」


「そうだぜ、ここは俺たちに任せとけって」


「でも、この人たちが」


「こいつら、またカッコつけてんぜ」


「バカだな、こいつらバカだわ」


「違います。黙ってください! その汚い口を閉じてください」


「何だと、この女!」


「黙るのはお前だ!」


「黙りません!」


「このアマ、調子に乗りやがって」


 バシン!


「あっ!」


 こいつ!?


 シアに手を出したな。

 しかも、その顔に!




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― 新着の感想 ―
[良い点] どんな世の中でも酔っ払いは煩わしいですねぇ。本当に。酒飲みはこの世で一番キライな人種の1つかもしれません。本当に埒が明かないししつこいし。素面なら良い人なのに、なんて言い訳も正直煩わしいし…
[気になる点] 「シアに手を出したな。しかも、その顔に!」 目の前に居て、どうして防いでやらないの。酔っ払いの攻撃を防げない方が不自然に思えます。
[良い点] ある日、森の中で酔っ払いと出会った♪の図ですね。 会いたくないですね、街中でも(笑) 森から来ているのに素面ではないということは職務中に飲酒ですが、酔拳がある可能性も0ではないですし、異世…
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