第81話 魔物討伐実習 3 ※
「おう、良くやったな」
アルの頭をポンポンと叩きながら、ギリオンがねぎらいの言葉を口にする。
「……ああ」
「コーキもそう思うだろ」
「そうだな」
一撃必殺の剣撃をやめ、当初の戦い方に戻っての戦闘。
パピルの突進を避けながら斬撃を繰り返した結果の勝利だ。
かなり時間はかかったものの、とにかく1人で倒しきることができた。
大したものだよ。
「無茶しなきゃ、勝てるってこった」
確かに、あの大振りの剣撃がなければ、傷を負うことなく勝てたのかもしれない。
けど、それをお前が言うか。
誰の指示であれをやったと思ってるんだ。
ほら、アルも睨んでいるだろ。
「んだよ?」
「いやな、自分の言葉を覚えているのかと思ってな」
「あぁ?」
「ギリオンの言葉で、アルが無茶したんだろ」
「はん! 自分の力を分かってなかっただけだろうが。そうだよな、坊主」
「……そうだ」
まあ、その通りではあるが。
アルも潔いな。
「アル、よくやったわ」
「そうですよ、たいしたものだ」
アルのもとに、シアとフォルディさんが歩み寄る。
「姉さん! あ、ありがとう。フォルディさんも」
照れたように横を向きながら答える様子には、年相応のかわいらしさが見える。
普段のそれとは大違いだな。
で、負傷はどんな感じだ。
「背中は大丈夫かな?」
パピルとの戦闘で受けた傷は、数か所の切り傷と地面に衝突した背中。
切り傷は大したことがないのは明らか、背中も平気だとは思うが、見た目では分からないからな。
「ああ、問題ない」
「それは良かった」
「ホントに無事で良かった。アル。心配したんだから」
「ごめん、姉さん。おれは大丈夫だから」
シアがアルの手を取って喜んでいる。
「でもまあ、課題は明らかだぜ」
「そうだな」
俺に話しかけるんじゃなくて、アルに直節言ってやれよ。
「速さはそれなりなんだけどな、力が足りねぇ。決定的に力不足だぞ」
「……分かってる」
ギリオンに向き直り、その目を見て頷くアル。
午前中とは雰囲気が違っている。
「でも、根性はある。それは認めてやらぁ」
「っ! でも、それじゃ駄目なんだ。もっと強くならないと。だから……」
今日は終始その言葉を違えることはない。
本気だというのが十分に伝わってくる。
「んだよ、そんな顔して。コーキ、どういうこった?」
ギリオンには、詳しく話していないからな。
状況が理解できないのも仕方ない。
「アルは剣の師匠を探しているんだ」
「ん? そんなことか。ジルクール流道場なら街に幾らでもあるぞ」
「いや、そういうのじゃない。何というか、冒険者としての剣術というか戦い方というか、そういうのを総合的に指導してほしいみたいだ」
「おう、そうか。なら、オレが鍛えてやろうか」
おい、即答かよ。
軽いなぁ。
色々考えていた俺が馬鹿みたいだ。
でも、ギリオンに指導なんてできるのか?
それはまあ、剣の腕は確かだけど……。
冒険者としても、かなりのものらしいけれど……。
剣の腕が立つ敏腕冒険者か。
……。
指導できそうだな。
「ギリオン、いいのか?」
「やる気はあるみたいだからな、いいぜ」
まあ、あの根性を見せられると、手助けしてやりたくもなるか。
特に、ギリオンみたいなタイプにとってはな。
そういう俺も、少し心が動いたからさ。
「そうか」
「坊主、どうだ?」
「……」
アルの視線が俺とギリオンの間を行ったり来たり。
俺に弟子入り志願した手前、返答しづらいのだろう。
「こっちのことは気にせず、好きにすればいいから」
「けど」
俺のことを気にしているのは一目瞭然だな。
「ん、やめとくか?」
「いや……」
悩むのは分かるが。
「冒険者としては、ギリオンの方が経験も豊富だし、アルにも合っているかな」
「そう、なのか?」
その質問に頷きで返してやる。
「んで、どうすんだ?」
「……頼む」
「なら、まず態度を改めねぇとな」
「っ!。 分かっ……分かりました。弟子にしてください。お願いします」
「おう、いいぜ!」
「アル、よかった」
シアが手を叩いて喜んでいる。
フォルディさんも笑顔。
アルも納得しているようだし、ギリオンも満更でもなさそうだ。
なら、これで好し。
解決だな。
「放逸にして峻烈なる絶炎を統べる主よ、契りにより求めるは灼熱の炎、ここに集い放たん、ファイヤーボール!」
「ギィィィ」
シアの詠唱によって放たれた拳大の炎の塊が角の生えたウサギ型の魔物に直撃する。
炎は魔物の身体にまとわりつくように数秒間燃え盛った後、消失。
残されたのは瀕死のウサギ型魔物だけ。
立ち上がることもできず倒れたまま痙攣し、そのまま動かなくなった。
「おいおい、嬢ちゃん、やるじゃねえか」
「さすが、姉さん」
アルの実戦が終わった後。
姉であるシアの魔法の腕も見たいというギリオンの言葉で、急遽シアの実戦が決定。
ウサギ型魔物に対したわけだが。
「ギリオンさん、これ凄いですよね?」
「おう。見習い冒険者としては、早さも威力も文句ねえぞ」
「ボクもそう思います」
こちらの世界の魔法には詳しくないから、良く分からないけれど。
詠唱は素早いし魔法の威力もなかなか、なのかな?
標準が分からないと、評価が難しいな。
とはいえ、悪くないのは確かだろう。
「おい、コーキ。何か言ってやれよ」
「ああ……良いと思うよ」
「あ、ありがとうございます。あんな凄い魔法を使うコーキさんに、そう言ってもらえると嬉しいです」
俺の言葉に満面の笑顔を返してくる。
……。
なんだろう、この気持ち。
ちょっと申し訳ないというか、胸が痛いというか。
複雑な気持ちになってしまう……。





