第79話 魔物討伐実習 1
フォルディさんの提案により、シアさん、アルさんを含め4人で常夜の森に魔物討伐に行くことが決定してしまったわけだが……。
まあ、何と言うか。
俺が承諾したからではあるけれど、今回はフォルディさんに上手く話を進められてしまったかな。
それも、4人全員が納得するような形で。
意外といっては失礼だが、フォルディさんもなかなかやるもんだ。
……。
まっ、そうと決まれば、さっそく出発と行きたいところだが、今はちょうど昼前。
ということで、出発前に昼食をとることになった。
シアさんとアルさんは、オルドウで借りている家に一度戻り準備をしたいとのことだったので、ふたりとは昼食後に合流することにして、俺とフォルディさんは夕連亭で昼食をとることに。
フォルディさんが俺の行きつけの店に行きたいというので、それなら夕連亭となった訳だ。
「いやぁ、ここの料理は美味しいですね。さすが、コーキさんだ」
「喜んでもらえて良かったです。といっても、ここの料理人の腕が優れているだけで、私は何もしていませんけどね」
「いやいや、コーキさんの見る目があればこそですよ」
「はぁ」
「しかし、このガンドという骨付きの肉は本当に美味しい。じっくりと煮込まれて柔らかいので幾らでも食べることができそうです」
「ガンドは私も好きなんですよ。ここでも良く注文しますし」
「そうなのですね。これがコーキさんの好物かぁ」
「どうしました?」
「いえね、ここの料理と比べると、エンノアでお出しした料理が恥ずかしくなってきまして」
「とんでもない。エンノアの料理も私はとても気に入っています。素朴でありながら素材を活かした料理でしたから。ベオも好きですしね」
確かに、手間を考えると夕連亭の料理には敵わないだろうが、その味わいにはまた異なる趣がある。それに、ベオの薄焼きはオルドウで口にするパンより俺の好みに合っている。美味しいナンを食べているようなんだよな。
「そう言ってもらえると安心しますけど……」
「本当のことですよ。でもまあ、今はこの料理を食べてしまいましょうか」
「そうですね。美味しくいただくことが大事ですね」
そんな話をしながら料理を食べ終わった頃に、ウィルさんが俺たちのテーブルにやって来た。
「コーキさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、ウィルさん。少し忙しかったもので。お元気でしたか?」
「はい、コーキさんも」
「ええ、私は元気です」
「よかった。冒険者の仕事は危険と隣り合わせですから」
「ご心配おかけします」
「いえ、勝手に心配しているだけですので。それで、お連れの方は?」
「友人のフォルディさんです」
「フォルディさん、夕連亭の食事はお口に合いましたか?」
「はい、とても。また食べに来たいと思っていますよ」
「ありがとうございます。お待ちしていますので、ぜひお越しください」
「はい」
「では、厨房の仕事が残っていますので」
厨房に戻って行くウィルさんを見送りながら、フォルディさんがこちらに顔を向ける。
「ここの店員さんと親しいのですか」
「ちょっとした知り合いという感じです」
「そうでしたか」
「フォルディさん、ちょっと待っていてもらえますか?」
席を立ち料金を支払うための受付に向かう。
「コーキさん、もう食事は済まれたのですか?」
受付の前で並んでいると、後ろから声を掛けられた。
夕連亭の主人のベリルさんだ。
「はい、美味しくいただきました」
「それは良かった。お連れの方も?」
「ええ、とても喜んでいましたよ」
「それを聞けて安心しました。お連れの方はオルドウの方ではないようでしたので、お口に合うか心配していたのですよ」
フォルディさんがオルドウの住民ではないと分かるのか。
エンノアの民は地下に暮らしているが、外見上は少し肌が白いくらいでオルドウの人々と変わらないように俺の目には映るのだけど……。
職業柄、そういうことも見抜けるのかもしれないな。
「フォルディさんも、喜んで食べておりましたから心配無用です」
「フォルディ、さん……。お連れの方はフォルディさんというのですね」
「ええ、そうですが。それが?」
何かあるのか?
「……いえ、何でも。それより料理を喜んでいただき嬉しいですよ、本当に」
今まで以上にしみじみとした口調には、実感がこもっている。
「私もオルドウの出身ではないですが、いつも美味しくいただいております。夕連亭の料理は、どこの出身の者でも満足させてくれるものですね」
「ははは、これはありがたい」
「本当にそう思いますよ」
「ありがとうございます。では、フォルディさんにもよろしくお伝えください」
「はい」
このベリルさんと話していると、なぜか落ち着くんだよなぁ。
それもあるから、夕連亭につい足を運んでしまう。
もちろん、ウィルさんのことを心配する気持ちが、夕連亭に来る一番の理由ではあるけれど……。
「お待たせしました。では、行きましょうか」
「おっ、ついに冒険ですね」
フォルディさん、軽やかに立ち上がったかと思うと、すでに楽しそうに歩き出している。
「楽しいとは限りませんよ」
「コーキさんと一緒なら絶対楽しいですって」
いやいや、そんな保証はないから。
「間違いないです」
どうして、そこまで言い切れるんだ。
「でも、危険ですよ」
「どうしてです?」
「常夜の森は、浅域でもそれなりの魔物が出ますから」
「でも、コーキさんと一緒でしょ」
「まあ……」
「それなら、安全だ」
「……」
「まったく心配してませんよ」
それはそれで、どうかと思うが。
まっ、信頼には応えないとな。
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「さっさとこの坊主の腕を見せてもらおうぜ」
「……」
ギリオンの言葉にアルさんが無言で反応している。
「その予定はないけど」
「かぁ! んなこと言うなよ」
「……」
「ホント、固ぇよな」
常夜の森の浅域。
シアさんとアルさん、それにフォルディさんと俺の4人で出掛けるつもりだった今回の魔物討伐。
そこに、なぜだかギリオンが加わっている。
しかも、誰よりも元気に溢れている。
……そうなんだよ。
シアさんとアルさんとの待ち合わせ場所である冒険者ギルドに偶然居合わせたギリオンが、俺たちについて来てしまったんだよ。
まあ、悪いことじゃない、か。
浅域の魔物は俺にとってはくみし易い相手。
とはいえ、残りの3人にとってはそうではない。
先日のシアさんとアルさんの戦闘を見ていても想像はつく。
フォルディさんも、ブラッドウルフへの対応を見ている限り、戦闘面ではそうは期待できない。仮に念動力を解禁したとしても、小石を動かす程度の念動力では今回の魔物相手では大きな戦力にはならないはずだ。
そんなパーティーにとって、ギリオンの戦闘力は非常に有効だ。
参加してもらうことに問題はない。
うるさいことを除けば……。
「坊主も戦いてぇよな」
「……」
そして今。
数頭の魔物を俺とギリオンが倒した後、アルさんの腕も見たいとギリオンが言い出し、アルさんも乗り気になっているという状況。
確かに、アルさんの戦いぶりをじっくりと見たい気持ちもあるが。
「コーキのことは気にすんなよ。あいつ、頭が固ぇからな。んで、坊主の気持ちはどうなんだ?」
「……戦いたい。それと、坊主じゃない、アルだ」
「だそうだぜ。いいだろ、コーキ」





