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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第2章  エンノア編
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第75話  古野白楓季 5




 古野白さんのマンションまで一緒に歩いて帰る道すがら。

 何度か話をすることはできたけれど、やはり沈黙の時間が長い。

 最初は俺を警戒しているからだろうと思っていたが、どうやら、古野白はこういう人なのかもしれないな。


 横を歩く古野白さんを覗いてみる。


 何か考え事をしているのだろうか。

 難しい顔をしたり、頷いたり、さらには笑みを浮かべたりしている。


 前回会った時は終始クールな表情を保っていたけれど、今夜の彼女は違うようだ。

 おかげで色々な表情を見ることができた。


 これはこれで、悪いことじゃない。

 少しは気を許してくれたということなのかもしれないな。


 まっ、こっちにもそれに近いものが芽生え始めているんだけどさ。


 ホント……。


 ついさっきまでは、接触を避けたい相手だったのに。

 不思議なものだ。


 もう彼女のことを無視するなんて、できそうにないな。

 いろいろと難しそうだけど……。


 などと考えながら歩いていると。


 不穏な気配!


 あれは?


 通りの前方に3人の男が立っている。

 その内の2人にはまったく見覚えがないが、パーカーを着たあの男は?


 あいつか!


 隣を見ると。

 古野白さんはまだ自分の世界に浸っている。


「古野白さん」


 そっと呼びかけるも返事はない。

 前方の男は……。


 まずい!


「古野白さん!!」


 少し大きくなった俺の声に驚いたような顔をしている。


「はやく、私の後ろに」


「どうしたの?」


 古野白さんの疑問を答える前に。


「アイスアロー」


 氷の矢が飛来した!


 やはり、あいつ。

 公園で古野白さんと戦っていたやつだ。


 前回見たそれ以上の速さでこちらに迫ってくる氷の矢。

 が、オルセーのアイスアローには及ばない程度。


 それに、十分に距離もある。

 なら、対処は難しくない。


 素早く拳に魔力を纏わせ。


 氷の側面に叩きつける。


 パリーーン!


 氷の矢はそれ以上進むことなく、粉々に砕け散ってしまった。


 速度はなかなかのものだったが、硬度は大したことがなかったな。


「なっ!?」


 古野白さんが隣で固まっている。

 なら。


 古野白さんを庇うように彼女の前に立つ。

 まだ、終わっていないからな。


「くそっ! もう一発だ。アイスアロー!」


 パーカー男から再びアイスアローが放たれた。


 さらに、空中に浮かんだ拳大の石が2つ。

 アイスアローと共に、三方向から迫ってくる。


 氷の異能者に石系の異能者、もしくは念動力者か。


 が、さっきのアイスアローに比べると格段に遅い。

 2つの石もアイスアローと変わらない速さ。


 三方向からの攻撃といっても、これなら問題はない。


 まずは。

 俺の右方向から飛んできた石を右拳で砕き。


 ガコン!


 正面のアイスアローを左拳で叩き潰す。


 パリーーン!


 左拳を振り抜いた態勢から腰を捻転。

 後ろまわし蹴りで、左の石も撃破。


 一瞬で三方向からの攻撃を防ぐことに成功した。



「なっ、えっ!?」


 前方の3組以外に敵の気配はない。

 なら、陽動ではないだろう。


「古野白さん、ここで待っていてください」


 呆然と立ち尽くしている古野白さんを残し、3人の男のもとに駆ける。


「くっ! これでも駄目なのか」


「橘さん!」


「ああ、撤退するぞ」


 逃走する3人組。

 すぐ先の交差点を右に曲がり、俺の視界から消える。


 問題ない。

 あれくらいの速度なら、追いつけるはずだ。


 こちらも交差点を右に曲がる。


 と、……。


 いない。


 ……。


 3人の男の姿が消えてしまった。


 どういうことだ?

 道路上に身を隠す場所など存在しないのに。


 どこかの建物に入ったのか?


 だとしたら……。


 住居やマンションが密集しているここでは、どこに逃げ込んだか見当もつかない。


 ……。


 仕方ない。

 一度戻るか。



「有馬くん、どうなったの? 大丈夫だった?」


「すみません。逃がしてしまいました」


「そう……なの」


「交差点を右折したところで、全員が消えてしまったんです。どこかの建物に潜んでいるとは思いますが、見当がつかなくて」


「……有馬くん、そうじゃないかもしれないわ」


「どういうことです?」


「異能を使ったのかもしれない」


「消える異能ですか?」


「どんな異能を使ったのかは分からないけれど、逃走用の異能があるのは確かだから」


「そうなんですね」


 それが事実なら、もう見つけることはできないな。


「もちろん、確定ではないわ」


「分かってます。では、少しの間だけ通りで様子を見て、それで姿を見せないなら諦めます」


 ということで、30分ほど通りに潜んで見張ることになってしまった。





 結局、男たちが現れることもなく追跡を断念。


 その後、自宅まで古野白さんを送った俺は、万一の襲撃に備えて古野白さんのマンションで朝まで過ごすことになった。


 最初は俺の申し出を固辞していた古野白さんも、いまだ完全に回復していない体調と襲撃の可能性を考慮し、俺を部屋に入れることに同意してくれたからだ。


 古野白さんの住むマンションはかなり立派なもので、オートロックはもちろんのこと、1階のエントランスには警備員の姿も見える。これなら、安全だというのも理解できる。


 とはいえ、相手は異能者。


 何が起こるか分からないからな。




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― 新着の感想 ―
[良い点] コウキの活躍が素晴らしかったです。やはり強いですね。異能者も形無しです。格好良かったです。異能者の人達も普通なら自分らのほうが驚かれる存在でしょうから、逆にひどくびっくりしたでしょうね。ち…
[良い点] はっきり唐の時代かまでの記憶はないのですが、大人になってから高名な文人か、学者となった中国の人物だったのだけは確かなのですが……さて、何の本を読んだ時に目にしたのかが思い出せずです。 脳…
[良い点] 更新お疲れ様です。 主人公、ある意味朝帰りになるのか…… >何が起こるか分からないからな。 幼馴染かその弟に朝帰りがばれたら、ある意味で何が起こるか分からないですねw
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