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30年待たされた異世界転移  作者: 明之 想
第2章  エンノア編
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第69話  結界 3



 物理結界を炎の魔法で破壊できるということか。


 しかし、この炎、先日の公園で見た炎とは規模が違う。

 まるで火炎放射のようだ。

 古野白さん、大した火炎使いなんだな。


 そのまま約10秒間、炎を放ち続け。


「これで、どうかしら」


 直前まで炎を放射していた透明な壁に直接手を押し当て確かめている。


 それ、熱くはないんだろうか?

 炎を扱う異能者だから熱を感じないとか、そういうことなのか。


 何度か確認した後。

 溜息をもらす古野白さん。


「駄目みたいね。もう一度やるわ」


 炎の規模を変え、また放射時間を伸ばし、数度火炎放射を試す。


「駄目……」


 どうやら、古野白さんの炎では結界を破ることはできないみたいだ。


「私の炎では無理みたいね」


 そう言う彼女は肩で息をしている。

 額に汗も浮いている。


「異能を使いすぎですか?」


 こちらの異能にも魔法量のような制限があるのか?


「そうね、本調子でもないのに、少しやり過ぎたわ」


 やり過ぎで使えないということは、やはり制限ありか。


「ちなみに、あとどれくらい使えそうです?」


「さっきの規模だと、すぐには無理だけど。少し休めばあと1回は使えるわ」


「そうですか……」


 さて、どうしたものか。


「あなた、この状況でも余裕なのね」


「そんなことはないですよ」


 確かに、この状況の中で平静でいるのはおかしいか。

 普通人らしくないな。


「嘘ね。まったく焦っていないじゃない。余裕のある顔をしているわ」


 まあ、実際に余裕はある。


 さっき透明の障壁みたいなものを手で触れた時に少しだけ試してみたのだけれど、おそらく俺なら破壊できると思えるような障壁だったからな。


 いや、おそらくじゃないか。

 確実に破壊できるだろう。


 だから、結界を確認した当初から全く不安は感じていない。


「余裕と言うか、顔に出ないだけです。それに、私みたいな普通人には何もできないですから」


「とてもそうは思えないけど。でも、あなたが普通人ねぇ……。そういえば、前回私と会った時、普通に公園に入ってきたわよね。あれ、簡易結界をかけていたのよ」


「そうなんですか」


「異能によらない精神結界で、今回の結界の強度とは比べ物にならない最低レベルの結界だけど、それでも普通は入れないものなのよ。普通人ならね」


 ふーん、そうだったのか。

 普通に入ってしまったよ。


「良く分かりませんが、そういうものなんですね」


「そう、あなたが普通人なら簡単には入れないはずなの。おかしな話でしょ」


 また、話が戻って来た。

 でも、もうその話に付き合う気はないぞ。


「結界が上手く作動していなかったんじゃないですか」


「作動してたわよ」


「そうは言っても、実際に入れたんですから、何か不具合があったんですよ」


「……」


「それより、異能によらない結界ってどういうものなんですか、それに精神結界って?」


「さっきから質問ばかりね」


「普通人は普通そういうこと知らないですからね」


「……」


「教えてもらえませんか?」


「……詳しくは言えないけど、結界を作る道具みたいなものがあるのよ」


 やっぱり、こっちにも魔道具みたいなものがあるのか。


「精神結界というのは、物理的に進行を阻害する物理結界とは違って、進む気をなくさせるとか、何か気持ち悪いような気分にさせるとか、精神的に進行を阻害するものよ」


 なるほど。


「公園に入ろうとしても、そんな気がなくなってしまうということですね」


「そういうこと」


「色々あるんですねぇ。しかし、そんなに教えてもいいんですか。普通人に」


「あなたが聞いたんでしょ。まあ、あなたは当事者だし。それに、2度も巻き込んでしまったから……」


 当事者?

 まあ、そうなるか。


「それより、普通、普通って。あなた、それ嫌味なの?」


「ああ、すみません。そんなつもりはないので」


「……まあ、いいわ。でも、私が話したことは絶対秘密よ。口外厳禁よ。もし喋ったら、上が動くからね」


 上が動くって、恐ろしいことを言う。

 それは勘弁してほしい。


「絶対喋りません」


「なら……いい、わ」


「ところで、どうします? えっ? どうしました?」


 急にふらついたかと思うと、そのまま地面に膝をついている。


「ちょっ……」


 どうしたんだ?


「め、目眩が」


「大丈夫ですか?」


 肩で息をしている。

 やはり、魔法の使い過ぎか。


「だいじょ、うぶ」


 全く大丈夫じゃない。


「魔力切れですか?」


「まりょく?」


「ですから、異能の使い過ぎですか」


「ちが、う……こんな、症状……じゃない」


 喋るのも辛いのか。

 息も苦しそうだ。


「分かりました。もう喋らないでいいので、そこ座っていてください」


 これは、何なんだ?

 魔力切れじゃないとしたら、急病?

 このタイミングで。

 いや、そんなことはない、こともないか。


 この半球状の密閉空間で、息が苦しくなって目眩がする?

 まさか、酸欠!


「頭痛はしませんか」


「すこし」


 やはり、そうかもしれない。

 そう思ってみると、俺も若干息苦しいような気がする。


 幾ら密閉されているとはいえ、結界内の半球の半径は2~3メートルはある。

 その容積の空間に人がふたり入っていたとして、これくらいの時間を過ごしたくらいで酸素が不足するなんていうのは普通考えられないのだが。


 ……。


 魔法で派手に炎を使ったからか。


 あの火炎放射がどのくらいの酸素を消費したのかは分からないが、酸素不足なのだとしたら、それ以外の原因は考え難い。いや、まてよ、炎による酸素消費以外に魔法的な何らかの要因があるという可能性もあるな……。


「はあ、はあ」


 古野白さんの息は荒いまま。


 酸素不足が原因なら、早急にこの場から脱出しないといけないぞ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 結界に対する古野白さんの噛ませ犬感と、負の連鎖がとても面白かったです。それを言わないコウキの優しさが感じられて、とても良かったです。結界で密閉されているところに炎、酸素大丈夫かと思っていま…
[良い点] 反射結界でなくて、よかったとほっと一安心です。 反射されていたら、今頃、丸焼き二名追加になっていたらと思うと怖いですね。 物理的に通れなくする結界ではなく、行きたくないなと思わせる精神結界…
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