表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
689/701

第684話 外出



<和見幸奈視点>




「功己、ベッドの上で座って何してんの?」


「……眠りすぎたんだろうな、寝ぼけて頭が回ってなかったみたいだ」


「はあ~」


 今の様子も、言い訳も、まったくらしくない。

 遮光カーテンを開いた今、その疲れきった顔色にわたしが気づかないわけないのに。

 もちろん、功己がまいっているのは十分理解してるけど……。


 まあ、いいわ。


「功己、今日はまだ何も食べてないんでしょ」


「……ああ」


「だったら、外に出かけない? 中途半端な時間だから夕食には早いけど、軽く何かつまんでもいいし」


 本当は今夜もわたしが料理を作るつもりだった。

 でも、こんな功己を見ていると考えが変わってしまう。


 今は家に籠るより外に出た方がいい。

 気分を変えた方がいいに決まってる。






「それで、どこ行くんだ?」


 通りに出て歩くこと数分。

 功己が問いかけてきた。


「うーん……」


 わたしを見る功己の目に力が戻ってる。

 顔色もさっきよりまし。

 やっぱり、外に出て正解だ。


「功己は行きたいところある?」


「……珈紅茶館とか?」


「そこ好きだよね功己。でも、食べなくていいの?」


「幸奈も言ってただろ、夕食には早いって。だから、珈紅茶館で少し休んでから夕食に行けばいい」


「えっ? お茶と食事で2軒?」


「悪くないだろ?」


「わ、悪くはないけど」


 引っ越したばかりのわたしの財布の中身が……。


「ああ、今夜は俺がご馳走するぞ」


 嘘?


「嫌か?」


「そんな、嫌なわけないよ!」


 むしろ、嬉しい。

 とっても嬉しい。

 飛びつきたいくらい。


 ただ、今日の目的は功己の気分転換、功己を元気づけることなのに、ご馳走してもらうのはちょっと違うような気がする。


「嫌じゃないなら?」


「……悪いかなぁ、なんて」


「何言ってんだ。幸奈には散々迷惑かけてるし世話にもなってるだろ」


 功己、そういう風に思ってくれてたの。


「だから、こんな時くらい奢らせてくれ。それに……」


 うん?


「それに?」


「……」


「功己?」


「その、あれだ。たまには幸奈の喜ぶ顔も見たいし……」


「っ!」


 わたしは一緒に外食できるだけで大満足。

 なのに、そんなこと言われたらもう!


 嬉しすぎる!

 幸せすぎる!

 顔がにやけてしまう!


 でも、ちょっと待って。

 このままだと、今日の趣旨を忘れちゃう。

 それは駄目。

 

 だから、ここはいったん落ち着いて、冷静に冷静に……。


「……」


 冷静に、平静に。

 にやけた顔を元に戻して。

 ゆっくりと落ち着いた口調で。


「功己、ありがと」


「あ、ああ」


「功己の気持ち、とっても嬉しい。でもね、迷惑かけてるのもお世話になってるのもこっちの方なんだよ。いつもいつも功己には助けてもらってばかりなんだから」


「いいや、それは違う。幸奈のトラブルのほとんどは俺に責任があるんだ」


 何言ってるの、功己?


「そんなわけない。全部わたしに問題があったからよ」


「だから、違うんだ」


「違わない」


「違う」


「功己!」


「……」


「功己君、幸奈ちゃん?」


 えっ?


「痴話喧嘩はそれくらいにして、そろそろ店に入らないかい?」


「マスタ……」


 ここって、珈紅茶館?

 もう着いてたんだ!


「どうかな?」


「「……はい」」





 ううぅぅ。

 恥ずかしい。

 穴があったら入りたい。

 でも、穴なんてあるわけないし、マスターは目の前にいるし。


「ご注文は?」


「いつものをお願いします」


 なのに、功己はどうして平然としてるの?

 何事も無かったような顔で注文できるの?

 そもそも、落ち込んでたんじゃないの?

 まさか、もう立ち直ってる?


 って、それはそれで嬉しいんだけど……。


「幸奈ちゃん?」


「……」


「幸奈ちゃん?」


「あっ、わたしはブレンドのホットで」


「承知しました」


 普段以上に恭しい仕草でカウンターの中に戻っていくマスター。

 後ろ姿を眺めるわたしの頬は熱い。

 功己は……。


「さっきは、その、悪かった」


 謝ってくれた。


「言い争うようなことじゃないよな、ごめん」


 その言葉にわたしも。


「こっちこそ……ごめんなさい」


「幸奈は悪くない」


「違う、わたしが悪いの」


「いいや……って、これじゃ同じことの繰り返しだな」


「……」


 まったく、その通りだ。


「この話はやめにしよう」


 と言って微笑む功己。

 まだ陰りは残ってるものの、普段の調子にかなり近い。


 さっきも思ったけど、外出は大正解。

 本当にそう思う。


「幸奈?」


「あっ、うん、この話はやめよっか」


 となると、ここは……。


 やっぱり、色々と聞いておきたい。

 わたし、ギリオンさんの件以外ほとんど何も知らないから。

 それに、今の功己なら聞いても平気……平気だよね?


「功己、あっちの話聞いても?」


 大丈夫?


「ああ」


 頷きが深く力強い。


「問題ないぞ」


 よかった、これなら。


「それで、何から話せばいい?」


「うーん……」


 たくさん教えてほしいけど、まずは。


「功己が白都に行ったところから、かな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ