第682話 同じことを
<ヴァーンベック視点>
「ああ……楽しかったぜ」
「……うるせえ」
それもさっき聞いた。
何度も何度も聞かせんじゃねえ。
同じこと聞いても、何も思わねえんだよ。
何とも、まったく、これっぽっちもだ!
けど、戻ってくんのだけは許してやる。
何度だって許してやる。
だから、今回も……ギリオン?
「……」
「ギリオンさん?」
「……」
「おい?」
返事しろ。
「ギリオン?」
返事しろよ!
「……」
「「ギリオン!!?」」
「……」
何で返事しねえ!!
戻ってくんじゃねえのかよ?
おい、ギリオン!!
「ギリオン!! ギリオン!!!」
「……」
「ギリオン?」
「……」
嘘だ。
嘘だよな?
「ギリオンさん……」
信じねえ。
俺は信じねえぞ。
けど……。
どんだけ待っても……。
ギリオンが口を開くことはなかった。
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眠い。
重い。
この3日間、かなりの睡眠をとっているのに眠さもだるさも消えてくれない。
それどころか、ますます酷くなっている感すらある。
「ふぅ……」
立ち上がるにも、こんな声が出る始末。
困ったものだ。
そうは思うものの、現状はどうしようもない。
身体は言うことを聞かないし、気力も湧いてこないのだから。
食欲も……。
とはいえ、絶食は避けたいとは思ってる。
なので冷蔵庫にあるものでも軽く食べて、それで今夜は休むとしよう。
ピンポーン。
冷蔵庫の扉を開いた俺の耳に入ってきたのは、耳慣れない電子音。
ピンポーン、ピンポーン。
玄関の呼び鈴、チャイム音だ。
「功己、いるんでしょ?」
「……」
「分かってるんだから……寝てるのかな?」
玄関の外に幸奈がいる。
手に鍋を抱えて。
「うーん……寝てるなら仕方ないか」
いや、そうじゃない。
今は体がだるいだけ。
少しひとりでいたいだけなんだ。
けど……。
ガチャッ。
「えっ? 起きてたの?」
俺のためにわざわざ食事を作って持ってきてくれた幸奈を帰すなんてできない。
「今起きたんだ」
「大丈夫? 相当疲れてるんでしょ、あっちで?」
「問題ない。それに、今……」
「なるほど、そういうことね」
俺の目線に気づいた幸奈が納得顔で頷きを返してくる。
「なら、一緒に食べよ。たくさん作ってきたから」
「……ああ」
「それじゃあ、お邪魔しまーす」
相変わらず眠いし体も重い。
なのに、不思議だ。
こうして幸奈と話すだけで、軽くなっていく気がするのだから。
第12章 完





