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第681話 ちげえんだよ



 鱗化したギリオンと兇神エビルズマリスとの間にどんな関係があるのかは分からない。分からないが、少なくとも何らかのかかわりはあるのだろう。だったら、この死地から戻る可能性もきっと!



「う、ぐっ」


 治癒魔法の光の中、ギリオンの声が大きくなっていく。

 四肢も動き始めている。


「うぅぅ……」


 表面の傷は完全に塞がり、鱗の状況も悪くない。

 特に上半身、中でも顔の鱗はほとんどが消えてしまった。

 ただし、顔色だけはまだ。

 色を失ったまま、戻っていない。


 それでも、全体的には順調と言っていいはずだ。



「ギリオン」


「ギリオンさん」


「ぅぅ……」


「もういいだろ。目を覚ましてくれよ」


「元気な声を聞かせてください」


 傍らのヴァーンには一層の熱がこもりだしている。

 ギリオンの腕をさするシアの動きも早い。

 皆の思いが強まる中、治療は続き。


 そして……。


「……ヴァーン、シア?」


 目を開いた!


「コーキ?」


 意識が戻った!


「そうだ、俺だぞ!」


「わたしが分かるんですね。よかったぁぁ」


「……戻ったのか? オレは?」


「ああ、おめえは生き返ったんだ!」


「うぅ……そう、か」


「おう! こっからは大神殿に行って完璧に治してやるからな、何の心配も要らねえぞ」


「……必要ねえ」


 ギリオンの言葉によどみはない。

 間違いなく、意識ははっきりしている。

 けれど、ギリオンらしさは……。


「必要ねえって、おめえ、一応キッチリ診てもらわねえとよ」


「それより、コーキ」


「……どうした?」


「ぐっ……イケてただろ?」


「何がだ?」


「さっきの仕合だよ」


 最後の連撃のことか?


「オレが力押しだけじゃねえって分かったか?」


 やっぱり、認識できてたんだな。

 なら、剣を引いたのも。


「コーキ!」


「……ああ、見事なものだった」


「だよな。だからよぁ、もう少し時間がありゃ、おめえにも勝て……ぐっ、ごほっ、げほっ、ごほっ!」


「「ギリオン?」」

「ギリオンさん?」


「はあ、はあ……もう次はねえが、あったら勝てる、ってことで許してやらぁ」


 次はない?

 次がないだと!


「ギリオン、まさか?」


「ちょっと待て、次はないってどういう意味だ?」


「ぅぅ……最後ってこった」


「なっ!」

「えっ!」


 ギリオンの言葉に空気が凍りつく。


「最後、最期だ」


「馬鹿言うんじゃねえ! おめえは回復してんだぞ」


「ちげえんだよ」


「何が違う! 意識もあるし、口も回ってんだろうが!」


「ごほっ、ごふっ……わりい、時間がねえ」





**************************


<ギリオン視点>




 まさか、もう一度戻れるとは思ってなかった。

 おまえらの顔を見れるとは思ってなかった。

 ほんっと、あり得ねえ。

 だからよぉ……。


 オレはもうこれで充分だ。



「何が違う! 意識もあるし、口も回ってんだろうが!」


「ごほっ、ごふっ……わりい、時間がねえ」


 今は鱗化が解けて喋れてるだけ。

 最後の馬鹿力が出てるだけ。


 ただし、時間はあんまり残ってねえ。

 なぜかよく分かんねえが、分かる。はっきり分かんだ。


「ふざけんな、さっきも同じこと言って戻ってきたじゃねえか!」


 そうだったな。

 けど、こいつはオレも想定外だからよ。


「……わりいな」


「てめえ! あやまんなよ、あやまんじゃねえ!」


「……」


「この、やろうぅぅ」


 ヴァーン。

 おめえとオレの夢、一緒に叶えられそうにねえわ。


「すまねえ」


 ほんとにすまねえが、先にいかせてもらうぜ。

 けど、その前に、最後に……。

 おめえと話せてよかった。



「ギリオン……話しておきたいことがあったら言ってくれ」


「おい、コーキ!」


「治療は続ける、死なせるつもりもない。けどな、ギリオンにも話したいことがあるはずだ」


 その言葉通り、コーキの手からは治癒の光が溢れ続けてる。

 こいつのおかげで、ちっとだけ長く話せるかもしんねえな。


「あんがとよ、コーキ」


「気にするな。で?」


「ぐっ、ごほっ……シア、目を治してもらえよ。ぜってえ幸せになんだぞ」


「ギリオンさん……」


「コーキ、おめえは……おめえには感謝しかねえ」


「……」


「おめえの剣は最高だ。その剣には何度も助けられたし、おかげでオレの腕も上がった。もう少しで勝てるってとこまでな」


「……ああ」


「オレの代わりに世界一の剣士になれよ。それと、ごっ、ごふっ、うぅ……アルの剣を、修行を頼む」


「……分かった」


「あとは……姫さんに伝えてほしい」


「エリシティア様にか?」


「そうだ、一言だけ頼む。約束を守れねえで悪かったと」


「伝えよう、間違いなく」


「助かる、ごほっ、げほっ、ぐっ……」


 駄目だ。

 力が消えてく。

 もう少ししかもたねえ。

 けど、最後に。


「……ヴァーン」


「何だ?」


「もたもたしてんなよ」


「はあ?」


「結婚だ、結婚。早く一緒になりやがれ」


「なっ!」


 シアと結婚して。

 そんで。


「夢、叶えろよ」


「……」


「げほっ、げふっ……おめえとの時間、悪くなかった」


「ちっ! それもさっき聞いたわ。何度も言うんじゃねえ」


「ああ……楽しかったぜ」


「……うるせえ」


 最後まで悪態かよ。

 けどまあ、悪かねえ。

 悪くねえなぁ……。


「……」


「ギリオンさん?」


「……」


「おい?」

「ギリオン?」


「……」


「「ギリオン!!?」」




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