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第680話 可能?



 ギリオンの剣筋が変わった。

 信じられないほどの変化だ。


「ァァァ……」


 力任せじゃない合理的な連撃。 

 これまで見たことのない先を読んだ剣筋。

 それでいて剛力も消えていない。

 剛と柔の混合。

 本当にギリオンの剣なのか?


 っと、次だ。


「アアァァ!」


 ガンッ!


 キィィン!


 上段を弾かれてからの右薙ぎ一文字斬り。

 それを流されると逆一文字の三撃目。


 ブンッ!


 一歩身を退いて避けた俺に剣先を向けて突進。

 刺突を入れてくる。


 ガンッ!


 真上から叩き落とされても止まらない。

 剣身を返しての斬り上げ、それも垂直にだ。


「くっ!」


 五撃目の垂直斬り上げなのに威力が増した!?


 ブゥンッ!


 その剛剣を後方に飛んで回避。

 一歩じゃない、数歩の跳躍回避で距離を取ってやる。


 追撃はなし。

 今回は五撃で終了か。


「ァァァ」


 とはいえ、尋常じゃない連撃だった。

 速度、威力、キレすべてが申し分ない上に、構成まで考えられている。

 まったく、あり得ないぞ。

 通常時でも信じがたいのに、鱗化して正気を失っているギリオンがこんな剣を放てるなんてな。


 ……ん、まてよ。


 まさか、正気に戻ってる?

 俺を認識してる?


「ギリオン、この声が聞こえるか?」


「ァァ……」


「俺だ、コーキだ」


「……」


 反応は微妙。

 だが、正気とまでは思えない。


 そうだよな。

 蒼鱗は消えてないし、筋肥大も変わらないんだからな。


 つまり、ここまでの剣筋は状態異常がもたらした例外だと。

 そう考えるべきなんだろう。


 ならば、その前提で対処するだけ。

 魔力による完全強化を終えたこの剣で。


「アアァァ!!」


 ギリオンが地を蹴った。

 猛攻再開だ。


 ガンッ!

 ガギンッ!

 ガギィン!


 まずは三連剣撃を捌く。


 ギンッ!


 四撃目。


 ガンッ!


 五撃目。

 そろそろか。


 ガギィィン!


 よし、隙が見えた。


「いくぞ、ギリオン!」


 左下段から振り上げの一閃。

 体勢の崩れたギリオンは上手く対処できないはず。


「アアァァ!」


 剣を戻すも不十分。

 その剣ごと吹っ飛ばしてやる。


 ザッシュッ!!


 えっ!?


「ァァァ……」


 えっ??


「ァァ……」


 剣が??

 通った???


「っ!」


 ギリオンは?

 ギリオンの剣は?


「ァ……」


 下ろしてる。

 剣を引いてる!


「……ギリオン?」


「……」


「ギリオンっ!!」


「……」


 言葉が出てこない。

 出るのは……大量の血、だけ。


「嘘、だろ?」


 嘘だよな!

 嘘だと言ってくれ!!


「コーキ、どうなって……!?」


 ドサッ!


 倒れた。

 崩れ落ちた。


 ギリオンが血の中に……。


「……」


 ギリオンが動かない。

 血の中に沈んだまま、ぴくりとも動かない。


 ギリオン……。


 斬った?

 俺がこの剣で?


 斬ってしまった!


「……」


 重い。

 体が、頭が重い。

 痛い。

 視界がぼんやりと霞み出す……。


 その中に。


「ギリオン!?」


 ヴァーンが駆け寄って来る。


「ギリオンさん!?」


 シアも近づいて来る。


「おい、ギリオン! おい!!」


 俺は……止まったまま。

 重く痛い頭に浮かぶのはひとつ。


 なぜ?

 なぜ剣を引いた?

 剣を合わせなかった?

 どうして?


「……」


 死ぬ気だったから?

 だから、俺の剣を誘導し致命傷を受けた?

 理詰めの連撃も剛剣もすべてそのため?

 それだけのために?


 ギリオン……。



「コーキ!」


「……」


「何してる、コーキ! まだ息があんだぞ!」


 呼吸してる?

 生きてる?


「治療するぞ! 早くしろ!」


 けど、無理だ。

 この状態から治療なんて不可能だ。


「早く、こっち来やがれ!」


 あれは致命的な一撃だった。

 完璧に入ってしまった。

 今さら手の打ちようなんてないんだよ。

 なのに……。


 シアが真っ青な顔で治療を始めてる。

 皆無に近い魔力を振り絞って治癒魔法を。


「……」


 勝手に足が動き出す。

 血の中に足を踏み入れてしまう。


「先生?」


「……シアは休んだ方がいい」


「でも」


「無理しても倒れるだけだ」


「……」


 シアを下がらせ、ギリオンの傍らに膝を寄せる。


「ヴァーン、この薬を」


「おう」


 無駄だと思いながら、魔法薬を手渡してしまう。

 治癒魔法を発動してしまう。

 万万が一の可能性にすがって。


「ギリオン、絶対死なせねえ!」


 魔法薬を傷口にかけながらの治癒魔法。

 集中的な治療を受け、ギリオンの傷が塞がっていく。

 けれど、それは表面だけのこと。流した血は戻らない。大きく傷ついた内臓も。


 ヴァーンもよく分かっているはず。


「おい! 鱗が!」


「……」


「傷だけじゃねえ、鱗も消えてる!」


 ヴァーンの言う通り。

 蒼鱗が薄くなりつつある。


「いける、治せるぞ、コーキ!」


「……」


「今のギリオンは普通じゃねえ。体力も生命力も凄えはずだ」


 それは……。


「なら、このまま!」


 あり得るのか?


「うぅ……」


「ギリオン!」


「ぅぅ……」


 うめき声。

 声を出せてる。


「大丈夫だぞ、すべて上手くいってるからな。もう少し頑張ってくれよ」


「……」


 確かに、鱗化による能力向上には目を見張るものがあった。

 筋力も体力も回復力もとんでもなかった。

 今もこうして声を出せるまでになってる。


 そうだ。

 エビルズマリスだ。

 あいつは死んでも蘇ったんだ。

 

 なら、蒼鱗のギリオンも!

 死に至る致命傷から生き残ることも!




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