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第679話 剣筋



<ギリオン視点>




「ガガガガッ!」


 震える体に、揺れる闇。

 不快なのに悪くねえこの奇妙な感覚。

 はっきり覚えてるぞ。


 あれは、とんでもない激戦後の夜。

 酒場でのことだ。



『ヴィーツ酒をもう一杯頼む』


『こっちはエールをくれ。ん、どした? コーキはもう飲まねえのか?』


『今日はこれくらいにしとく。疲れてるんでな』


『そりゃまあ、ダブルヘッドをやって、テポレン山に上って、大貴族の姫さんを助け出しての大活躍なんだからよぉ、疲れてんのは当然だわな。けど、ここは祝いの酒宴なんだぜ。溺れるまで飲むのが冒険者ってもんだろ』


『その通り。とりあえず、もう一杯いっとけ』


『おら、コーキ!』


『……あと一杯だけだぞ』


『いいから、飲め、飲め』


『おまえら……』


 九死に一生を得た興奮。

 大獲物を狩りとった達成感。

 他にもあるが、まあ色んなもんが混ざって高揚してたんだと思う。

 とにかくあの夜は最高の夜だった。


『ところでコーキ、あの魔法はどんだけ効くんだ?』


『あの魔法?』


『あれだ、あれ、おめえが魔物を止める時に使うバリバリビリビリのあれ』


『雷撃のことか?』


『そう、そのバリビリだ』


『コーキ、俺も知りたい。どんな感じなのか簡単でいいから教えてくれ』


『と言われても、口では説明しづらいぞ』


『なら、ここで試そうぜ』


『この酒場で?』


『おう』


『皆が飲んでる場所で撃てるわけないだろ』


『外ならいいのか?』


『……』


『よーし、外にいくっぞ』


 浴びるほど飲んで出来あがってたからだろうな。

 酒の場とは思えねえ流れになり。

 んで、結局オレが受けることになって。


『がっ、ががが……やめ、ががが』


 とんでもない魔法だった。

 えらい目に遭っちまった。

 だからこそ、はっきり覚えてる。


「ガガガ」


 あの痺れるような震えを。

 今と同じこの感覚を。


『どうだ、効果を実感できたか?』


『堪能したって顔してんだ、問題ねえよなぁ」


『はあ、はあ……このやろう!』


『そんな顔すんなって。自分で望んだことなんだからよぉ』


『おめえもだろうが!』


『んん?』


『とぼけんじゃねえぞ!』


『怒んな、怒んな。一杯奢ってやるから、なっ』


『……五杯だ』


『二杯』


『三杯。これ以下は認めねえ』


『了解。じゃ、ギリオン、中に戻って飲み直そうや』


 ……ギリオン?


『その前に治癒魔法使っとくか?』


『こいつはギリオンなんだぜ。大丈夫だろ』


 ギリオン??


 そうだ!

 オレはギリオンだ!!


 なら、バリビリを撃つこいつは?

 今オレの前にいるこいつは……コーキ?

 コーキとオレが剣をやり合ってる?


 違う。

 単にやり合ってるだけじゃねえ。

 さっきオレは切断しようとしていた。

 本気で殺そうとしていたんだ。


 コーキを!?


「……」


 オレがコーキを斬り殺そうとしていた?

 恩人のコーキを?

 コーキを!?


「ガガッ?」


 コーキ……。


 あいつはいつもオレを救ってくれた。

 オルドウでも、常夜の森でも、白都でも。

 どんな最悪の状況でも、オレを見捨てることなんてしなかった。


 そんなコーキを。

 恩人で親友のコーキをオレがこの手で!?


「ガガガッ!」


 制御できねえことは分かってた。

 何をしでかすか分かんねえとも思ってた。

 だから皆から離れたんだし、ヴァーンに始末を頼んだんだ。


 なのに、オレは!


「ガガガガッ!!」


 許せねえ。

 許さねえぞ!


 けど、今のオレに何ができる?


 手足は上手く動かせねえ。

 剣も抑えきれねえ。

 すぐにでも衝動に飲まれそうな、この体で?


 くそっ!

 このままじゃ、またやっちまう!

 

 だったら!

 少しでも動けるうちに、意識があるうちに……。





**************************





「雷撃!」


 連続で撃つこと7発。

 ようやくギリオンが止まってくれた。

 ただし、倒れてはいない。

 両膝を震わせながらも坂道に立っている。


 本当に驚くべき頑丈さだ。

 暴走したオルセー以上なのは当然、エビルズマリス本体に近いとすら感じてしまう。


「ァァァ……」


 とはいえ、既に7発も雷撃を喰らっているギリオンの体がまともに動くとは思えない。しばらくはその剛力を発揮できないはず。このまま眠らせずとも拘束は可能。


 そうは思うものの、この局面での楽観は避けた方がいいだろう。

 慎重を期すには駄目押しの雷撃で眠らせ……。

 駄目だな、さすがに8発目は危険だ。

 

 なら、掌底と手刀。

 今の弱ってるギリオンならこれで。


「ァァァ……」


 剣を左手に持ち替え、距離を詰める。

 ギリオンは動かない。


 間合いに入った。

 それでも、動かない。

 まるで誘ってるかのように隙だらけ。


「ギリオン?」


「ァ……」


 そうだよな。

 膝を震わせて誘うなんて小芝居、おまえにはできないよな。

 だったら、今度こそ。


 ドゴンッ!


 鱗に覆われた胸に掌底一発。

 これもまた完璧に決まった。

 が、倒れない。


「ァァァ……」


 なら、次は手刀だ。

 半歩間を詰め。


 シュッ!


 避けた!?

 あの棒立ち状態から身を捻って!?


「ァァァア!」


 しかも、空気まで変わってる。


「アアア!!」


 っ!

 横薙ぎだ!


 ガギィィン!


 その剛剣をとっさの反応で弾き流す。


 ガンッ!


 ギィン!


 続く二手、三手も横にさばき。


 ガンッ!


 ガゴンッ!


 ガギィン!


 さらなる剛剣も受けきってやる。

 そこで、ようやく連撃が止んだ。


「ァァァ」


 三歩下がって体勢を整えたギリオン。

 若干震えは残るものの、その眼には強い光が宿っている。

 全身からは剣気が溢れ出ている。


「……」


 掌底直後、膝を笑わせながらの手刀回避に六連剣。

 十全ではないはずなのに手が痺れるほどの強烈さ。

 その身体能力と剛力には驚きしかない、が……。

 一連の流れるような剣筋は、そんな驚きを越えている。


 力任せの荒々しい剛剣じゃない。

 これまでとはまったく違う。





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