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第669話 暗闇の中


<ヴァーンベック視点>




「ギリオンは剣は抜いてねえんだ。俺たちを認識してる可能性も充分じゃねえか」


「……そうね」


「だったら、やりようもあんだろ」


「ええ、自我が残ってるなら隙も出てくるでしょうし」


「だな」


 サージもブリギッテも考えていることは同じか。


「つってもまあ、さっきの動きはねえけどよ」


「そんなに?」


「おう、想定を超え過ぎだぜ」


「早さも威力も段違いってここと?」


「ありゃ、段違いどころじゃねえ。本気になったら瞬殺されてもおかしくねえレベルだわ」


 俺もそう思う。

 相手がギリオンと知る前に戦った前回とは何もかもが違い過ぎる。


「瞬殺って、嘘でしょ?」


「残念ながら嘘でも冗談でもねえ」


「……」


「だからよ、今のあいつは殺る気なしってことだろ」


「殺る気がない。剣も抜かない、追撃もしない」


「で、今もああして止まってる」


「ゥゥゥ……」


「もう、間違いないわね」


 2人の考え通り。

 ギリオンとしての自我が残っているはず。


「ってことで、体の調子はどうだ? そろそろ動けっか、ヴァーン?」


「問題ない。が、その前にブリギッテはシアのもとまで下がってくれ」


 今の俺はギリオンから数歩距離を取った状態。

 サージは俺のすぐ傍、ブリギッテは右後方5歩の位置。さらに10歩離れてシアが待機している。


「あそこまで下がると精度が下がるわ」


 確かに、魔法射撃は難しいだろうな。


「かといって、シアさんを前に連れ出したくないし。だったら、シアさんから少し離れたここがちょうどいい位置だと思う」


「……」


 戦闘という点では、3人の現状の間合いは最適に近い。

 シアから離れているブリギッテも、まあ、護衛に戻れないほどじゃない。


「あのギリオンなら、離れてるシアさんを襲うことはねえだろ」


「仮に気配を見せたとしても、すぐ戻れるわ。だから、今はギリオンの制圧に重点を置きましょ」


「……分かった。ただし、注視警戒は切るんじゃないぞ」


「ええ」


「で、次の作戦はどうするよ? また捕縛狙いか?」


「前回と同じじゃ無理だな。なので、今回はある程度負傷させてから縄を使う」


「ってことは、まずは剣と魔法?」


「ああ。サージ、ブリギッテ、臨機応変に頼むぞ」


「「了解」」





**************************


<シア視点>




 前方から響くのは剣の音。

 ブリギッテさんの魔法の音も聞こえてくる。


 これは戦闘?

 拘束が目的なのに、ギリオンさんを傷つけてるの?


 ギリオンさん……。


 豪放、豪快という言葉を絵に描いたような人。

 性格のまったく違うヴァーンが誰よりも頼りにし、公私ともに親しく付き合っている冒険者。


 オルドウで過ごした時間が長くないわたしはその人となりすべてを理解しているわけではないけれど、セレス様の傍で、ヴァーンの隣でギリオンさんを見てきたから知っている。


 いつも陽気で周りを元気にしてくれることを。

 とっても義理人情に厚く信頼できる人だということを。


 そのギリオンさんから今まで感じたことのない空気が漂ってくる。

 多分、絶望と諦めの気配。


 対するヴァーン、サージさん、ブリギッテさんの様子もいつもと違う。

 だから、ここはわたしが頑張るんだ。

 そう思って、治癒を続けてきたけど……。


 失敗してしまった。

 また力になれなかった。

 でも、さっきまで上手くいっていたはずなのに?

 どうして?


 あっ!

 ブリギッテさんの悲鳴?

 サージさんの苦痛の声?


 ギリオンさんが咆えてる!

 ヴァーンが叫んでる!?


「ヴァーン?」


 今はどういう状況なの?


「ブリギッテさん?」


 どこ?

 戦ってるの?


「サージさん?」


 誰も答えてくれない。

 返ってくるのは、何かが激しくぶつかり合う音、荒い息遣い、痛みに耐える声だけ。


「……」


 今のわたしが前方の様子を探るのは簡単じゃない。

 視力を失ってから鋭くなった他の感覚に頼っても、詳細は掴めないのだから当然だ。

 そんなわたしでも今は理解できる。

 状況が悪化しているとはっきり伝わってくる。


 けど、だからといって、わたしに何ができるの?

 もう一度治癒魔法を使う?

 それとも、他の魔法?


 無理。

 4人の位置を特定できないのに、魔法を使えるわけがない。


 だったら、前に出れば?

 みんなにもっと近づけば?


「!?」


 これはギリオンさん?

 とんでもない咆哮だ。




「うぅ」


 頭がくらくらする。

 気持ち悪……。


 えっ?

 音が消えてる?

 熱気も薄れてる?


 まさか、倒れたの?


「ブリギッテさん?」

「サージさん?」

「ヴァーン?」


 返事も反応もない。

 微かに届くのは……地を這うような苦痛の声。


 駄目!

 もう待ってられない!


「ヴァーン!」


 足を前に。

 周りの空気と足裏の感覚を頼りに前に、前に。




「はあ、はあ」


 やっぱり何度か躓いてしまった。

 それでも転倒することなく近づけた、と思う。


「ァァァ……」


 近くにギリオンさんの息遣いを感じるから。

 ただ、みんなの気配は?


「ヴァーン?」


 暗闇の中に言葉を投げる。


「ブリギッテさん、サージさん?」


 近くにいるはずなのに、誰も答えてくれない。


「ヴァーン、ヴァーン!?」


 そんな!

 嘘?

 嘘よね?


「うぅ……」


 聞こえた!

 この声は!


「ヴァーン、無事なの? 何があったの?」


「……逃げろ……シア」




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