表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
669/701

第665話 闇



<ヴァーンベック視点>




「サ、サージ」


 いつもとはまったく違う、蚊の鳴くような声。

 それでも、間違いない。

 ギリオンが喋ってる。


「……逃げ、ろ」


「へっ?」


「逃げろ……サージ」


 ただ、この言葉は。


「何言ってんだ、ちっと治りかけてんだぞ」


「逃げ、ろ」


「だから、大丈夫だって。こうして話もできてんだぜ」


「逃げ……」


 意識が戻りつつあるギリオンの口から出るのは、逃げろという一語ばかり。

 これは混濁した意識が生むうわ言?

 それとも……?


「何か感じんのか? ギリオン?」


「……ヴァーン?」


「俺が分かるんだな?」


「ヴァーン……離れ……」


 まだ朦朧としているようだが、認識はしっかりできている。

 なら、やはり。


「俺たちが近くにいちゃまずいのか? 危険なのか?」


「……」


「ギリオン!」


「……離れ、ろ」


 今にも鱗が消えようとしている顔や腕を見ていると、このまま回復してくれるとしか思えない。それでも、ここまでの反応をするんだ。単なる戯言と決めつけていいわけがない。


「どうしたの、ヴァーン? サージ?」


 歓喜から一転、困惑し始めたサージと俺を見て、ブリギッテが声をかけてきた。


「問題でも起きたの?」


「分からない。まだよく分からない」


「治癒の効果は出てるんでしょ?」


「……だと思う」


「なら、何なのよ?」


 ブリギッテがこちらに駆け出してきそうな勢いを見せている。


「待ってくれ」


「……」


「今はまだそこでシアと待機を続けてくれ」


 治癒魔法は今も継続中。

 ブリギッテが離れていい状況じゃない。


「危険があるってこと?」


「……ああ」


「そう……分かった。けど、何かあったらすぐに言ってちょうだい」


「もちろんだ」


 とりあえず、後ろはこれで問題ない。

 ギリオンに集中できる。


「で、どうするよ、ヴァーン?」


「どうもこうも、様子を見るしかないだろ」


「まっ、そうだな」


「ぅぅぅ……逃げ……」


「「……」」


「逃げ……離れ、ろ……」


「まるで熱に浮かされてるようじゃねえか。鱗は消えかけてんのに、意味わかんねえぜ」





**************************


<ギリオン視点>




「ぐっ!」


 真っ黒な闇が襲ってくる。

 オレを飲み込もうとしている。


「うぐっ!」


 駄目だ。

 避けれねえ。

 こんなもん、避けれるわけがねえ。


「ぐああぁ!」


 意識が飛ぶ。

 真っ黒になっちまう。


「ああぁぁ!」


 オレが消えていく。

 消えていく……。

 消えて……。




「ううぅぅ」


 消えて、残ったのは……。


 衝動。


「ぅぅ……」


 壊したい。

 破壊したい。


「……」


 完膚なきまでに!

 敵を、目の前にいるやつを!


 すべて壊し尽くして……っ!? 


 ちがう、だめだ!

 手を出しちゃいけねえ。

 あいつらがいるから。

 まだ剣を振るっちゃいけねえ。


 ……なぜ?


 ……剣を振るえるのに?


 ……壊せるのに?


 ……我慢を?


「うぅぅ……ぐがっ!」

 

 ……斬れ。


 ……斬ってやれ。


 ……壊してやれ!


 ……そう。


 ……ただ剣を振るえばいい。


「がが!」


 なのに、手が止まる。

 剣が振るえない。


 なぜ!?

 どうして!?


「がががガ!」


 気持ち悪い。

 苦しい。

 頭が痛い。


「はあ、はあ……ぐガッ!」


 楽になりたい。

 剣を振るえば、すぐに。

 すぐに!


「うぅぅぅ……」


「ぅぅぅ……」


「……」





「っ!?」


 消えた?

 痛みが?

 衝動が?


 晴れていく。

 真っ黒な闇が薄れていく。


 気持ちいいい。

 優しく柔らかい光だ。


「……」


 オレは……。

 ここは……。


「……」


 ギリオン?

 名前?

 オレの名前?

 呼んでる?

 

 誰が……?


「……サ……サージ」


「おお! 意識が戻った!」


 この声。


「……サージ」


「よかったな、ギリオン。ホント、良かった!」


 聞こえる。

 分かる。


「……」


 サージの声、ヴァーンの声!

 分かんぞ!


 ああ、間違いねえ。

 はっきり聞き取れる。

 戻ってきたんだ、オレは!


 っ!?

 だってのに……。


 迫って来やがる。

 すぐそこに、また闇が。


 しかも、さっきよりでけえ。

 気を抜いたら、一瞬で飲み込まれる程に。


「……」


 まじいな。

 今度こそ、もう駄目かもしんねえ。


 なら。


「ぐっ!」


 意識のある内に。


「逃げ、ろ」


「へっ?」


「逃げろ……サージ」


 くそっ。

 舌が回んねえ。


「何言ってんだ、ちっと治りかけてんだぞ」


「逃げ、ろ」


「だから、大丈夫だって。こうして話もできてんだぜ」


「逃げ……」


 まだ飲まれてねえのに、上手く喋れねえ。


「何か感じんのか? ギリオン?」


「……ヴァーン?」


「俺が分かるんだな?」


 あたりめえだ。

 分かんねえわけねえだろ。

 オレに意識がある限り、おめえを忘れることなんて絶対ねえんだぞ。


 けど。

 けどなぁ。


「ヴァーン……離れ……」


 駄目なんだ。

 危ねえんだよ。


「俺たちが近くにいちゃまずいのか? 危険なのか?」


 おめえには剣を向けたくねえ。

 傷つけたくねえ。


「ギリオン!」


 ヴァーン……。

 おまえだけは……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ここをクリックして、異世界に行こう!! 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ