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第664話 特化型



<ヴァーンベック視点>




 サージと俺が剣を振るい、シアは後方待機。ブリギッテも魔法の準備をしつつの後方待機で、ここまで魔法による援護はほぼ無し。

 そんな戦いなのに、想定をはるかに超えた余裕が持てている。

 かなり有利に運べている。

 それもこれも、ギリオンが手加減してくれているから。


 ガンッ!

 ガンッ!

 ガリッ!


 だから、今ここで可能な限りギリオンを削っておきたい。

 片足だけでも不能にしておきたい。


 そうは思うものの。


 ガッ!


「硬すぎんだろ」


 その通り。

 蒼鱗が硬すぎる。


「剣身はやべえし、手のひらも痺れっぱなしだぞ。あのやろう、さっきより硬いんじゃねえか?」


 的確な剣撃を複数与えても、鱗表面が傷つく程度。

 対する剣や手のダメージはでかい。

 まったく、とんでもない硬さだ。


「つっても、まあ、まだましなんだけどよ」


 これもその通り。

 現状は剛剣が振るわれることもなく謎の衝撃波もないので、硬さ以外は余裕を持って対処できている。


「ってことで、続けるしかねえわな」


「ああ、剣身がもつことを祈っておこう」


「はあ~。いっそ鉄棒で叩きてえくらいだぜ」


 そんな愚痴を口にしながらも剣を振るい続ける。




 ガンッ!

 ガンッ!

 ガッ!


 依然としてギリオンは剣を使おうとしない。

 鱗に覆われた顔からは表情が消え目にも知性の光など皆無なのに、最後の一線を越えずに留まっている。俺たちを傷つけまいと本能で抑えているんだ。


「しっかし、こいつもすげえよなぁ」


「……ああ」


 対峙しているだけでもギリオンの強い思いが伝わってくる。


「ここまでされちゃ、こっちも引き下がれねえって」


「今さらだろ」


「まあな。はなから見捨てる気なんてねえけどよ」


 サージも俺も考えは同じ。

 何としてでもギリオンを助ける、鱗の症状から救い出す。

 これしかない。


 ただし、シアを危険にさらすことだけは避け……ん、シア?

 シアが魔法発動体勢に入ってる?

 何をするつもりだ?


「シア、ブリギッテ!」

 

「……奇跡の光をキュア、キュアイルネス!」


 後方から光が溢れ出す。

 あれはシアの魔法。

 特別な治癒の光?


「ヴァーン、おい!」


 光が空に放たれた!


「まさか遠距離の治癒? 可能なのかよ?」


「……」


 分からない。

 俺も始めて見たんだ。

 けど、空を翔ける光は間違いなく治癒のそれ。


「シアさん、もう少し左」


「っ、はい」


 ブリギッテの誘導で軌道が変わった。

 優しい光がギリオンの頭上に降り注いでいく。


「まじか、届きやがった」


 光がギリオンの頭を包み込んでいる。


「遠距離の治癒魔法なんて聞いたこともねえ」


「……」


 治癒魔法行使には対象への接触が不可欠。

 それが皆の持つ常識だ。

 とはいえ魔法の常識は破られるものだし、実際コーキが少し離れて治癒を使う場面を見たこともある。ただし、それは体ひとつも離れていない僅かな距離だった。こんな遠距離じゃなかった。


 それなのに、シアは……。


「って、治癒魔法はまずいだろ。鱗の傷が消えちまうぞ」


 そうだ。

 今は驚くよりすべきことがある。


「ブリギッテ、シアを止めてくれ!」


「大丈夫らしいわ」


「どういうことだ?」


「頭だけに集中してるから、足の傷を癒すことはないみたい」


「……」


「それに、ギリオンの意識を戻すことに特化させてるとも言ってたわ」


「おい、おい、おい、おい」


 サージが驚くのも当然。

 俺は言葉すら出てこない。


「ほんとかよ?」


 遠距離治癒だけでも常識外れなのに狂化専用の治癒を創り出す?

 しかも初見で、この短時間で?


 どう考えても、あり得ることじゃない。

 魔法の概念を超え過ぎてる。


「特化なんて、すぐに創れるもんじゃねえだろ?」


「まず無理でしょうね」


「なら、今回は?」


「シアさん、前からこれに近い治癒魔法を研究してたらしいの」


 なっ?

 聞いてないぞ。

 いつの間に、シア!


「それを今ここで改良したってか?」


「ええ」


「だったとしても、すんげえことだぞ」


「分かってるわよ。私もまだ興奮してるし」


 今も魔法発動に集中しているシアを傍らで支えるブリギッテの顔が赤い。

 俺も……。


「ぐっ、んん」


 と、ここでギリオンに反応が?


「んん、ううぅぅ……」


「顔の鱗が薄れてる? 消えかけてんぞ!」


「効果が出たのね!」


 治癒の光が降り注ぐ中なので若干見づらいが、間違いない。


「ああ、すげえ……」


「シアさん、効いてるわ! 効いてるのよ!」


「……よかった、っ!」


「あっ、ごめんなさい。集中してるのに」


「いえ……」


 一言返したシアが集中状態に戻っていく。


「ギリオン、聞こえっか?」


「ぅぅ……」


「俺のことが分かっか?」


「……」


「頷いた? 今頷いたよな?」


「こっからじゃ見えないわよ」


「ヴァーン?」


「もう一度声をかけてみろ」


「ああ、そうだな。ギリオン、俺だ。サージだぞ。聞こえてんなら頷いてくれ」


「……サ……サージ」


 答えた!


「おお! 意識が戻った!」


「……サージ」


「よかったな、ギリオン。ホント、良かった!」


「……逃げ、ろ」




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