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第656話 記憶


<ヴァーンベック視点>




「ギリオン、おめえ、狂化しそうなんだな?」


「まだ、だいじ……ううぅ……離れろ!」


 サージの問い掛けに否定を返すギリオン。

 その鱗化に変化は見えない。

 意識もはっきりしている。

 なのに、ここまで拒否するとは……。


「狂化なんてさせません!」


「なっ?」


 シアがサージの脇を通りギリオンに近づいていく。


「治療始めます!」


 そのまま治癒魔法を発動すると、シアの手から溢れ出た治癒の光がギリオンを包み込む。まるで目が見えているかのような魔法治療が始まった。


「ううぅ……だめだ」


「駄目じゃないです」


「やめろ、シア!」


「やめません」


「おま、ぐっ、うぅぅ……」


 これは、効いてるのか?

 効いてるんだよな?


「ぅぅぅ……」


「サージ、ブリギッテ」


「ああ」


「分かってるわ」


 頷く2人と共にいつでも動けるよう護衛態勢を整える。

 とりあえずは、こうして様子を見るしかないだろう。





**************************


<ギリオン視点>




 オレの治療をすると近づいてくるシア。

 ありがてえことだが、こいつが治癒魔法でどうにかなんのか?

 そう考えた瞬間。


「……ぐがっ!?」


 急激な頭痛と同時に消えていた記憶が戻って来た。


「ギリオン?」


「がっ、がガッ!」


 痛え。

 けど、それ以上に。


「おい、どうした?」


「ギリオンさん?」


 まずい。

 また抑えられなくなっちまう。

 だから姫さんやアルたちから離れたってのに、 これじゃあ意味がない。

 くそっ!

 どうして今まで忘れてたんだ。


「がが、うぐっ!」


 いや、まだ大丈夫。

 まだ時間はある。


「おめえ、問題ないんじゃなかったのか?」


「もんだ……」


 つっても、長くはもたねえ。

 早く離れねえと……駄目だ、今は体が!


「ううぅ……離れろ!」


「はあ?」


 なら、こいつらを動かすしかねえぞ。

 まずはシアを。


「シアを連れてけ!」


「……大丈夫です、心配要りません。今から治癒しますので」


 なっ!

 拒否すんのか?

 今のオレを見て?


「ぐっ、ぐがっ!」


「まじいのか? 狂化しそうなのか?」


 狂化?

 あれを狂化と言うならそうなんだろう。

 

「ギリオン、おめえ、狂化しそうなんだな?」


「まだ、だいじ……」


 もう少しは耐えられる。

 意識を保てるはず。

 が、治療なんかさせてる余裕はねえ。

 

「ううぅ……離れろ!」





**************************





 もうすぐだ。

 あと少しで到着できる。

 と一息つきかけたところで。


 何?


「……」


 気配感知が乱れている。

 これは……シャリエルンと山に入った当初に感じた乱れと同じ?

 いや、少し違うのか?


「駄目だ」


 はっきりとは分からない。

 けれど、今この時点で感知が乱れるとは……。


 嫌な予感がする。

 

「……」


 気配を追いテポレン山を駆けているこの状況。

 セレス様と入れ替わった幸奈を追っていたあの時と似ている。

 あの惨劇の直前と……。


 依然として上手く働かない感知に加え、既視感をも覚える現状に嫌な予感は増すばかり。陰鬱な不安までも重くのしかかってきた。


 そんな負の感覚を振り払うように脚に力を入れる。

 山を疾走する。

 全力で走り続ける。




 と……。


 獣道に近かった山道がかなり開けてきた。

 坂上はさらに広がっているようだ。

 なら、その先の気配は?

 足を止め、精度の低い感知で強引に探ってやる。


「……」


 そんな不完全な行使でも感じ取れるこの複数の気配。

 まず、間違いない。

 ここが目的地。

 そう、もうすぐ到着するんだ。


 とはいえ、澱のような感覚は残ったまま。

 消えていない。


「……大丈夫」


 剣の音は皆無。

 魔法音も聞こえてこない。

 つまり、ギリオンが暴れていないという証。

 であれば、どうとでも対処できる。

 そう考えながらも、脚はゆっくりとしか動いてくれない。


「ふぅぅ」


 さっきまでの疾走とは打って変わっての遅々とした歩み。

 急ぎ向かっていた目的地を目の前にして、本当に情けない。

 そんな思いと共に坂を上っていく。

 とはいえ、時間は僅かなもの。


「……」


 見えてきた。

 多くの背中が目に入ってきた。


 ギリオンは?


「えっ? コーキ殿?」


「コーキさん?」


 こちらに気づいたのは最後方にいるワディン騎士とエンノアの民。

 彼らの先着は、もちろん想定内だ。


「どうしてここに?」


「その話はまた後で、それよりギリオンはどこです?」


 俺の問い掛けに言葉を返さず、眼を坂上に向ける2人。

 先にいるってことか。


「「「コーキ殿?」」」


「「「コーキさん?」」」


 驚きの顔を向ける騎士たちの中を抜け、前方に足を進める。

 すると。


 呆然と立ち尽くす4人の男女が視界に入ってきた。

 アルとヴァルター、あとは意外な2人。オルドウの冒険者だ。


 なっ?

 アルが涙を流してる!?


「アル……」


 すすり泣いたまま、こちらには目も向けてこない。

 気づいてもいない。

 いったい、何が起こって……?


 あれは!

 誰かが倒れてるのか?


「……」


 間違いない。

 4人の数歩前に剣を持った男が倒れ伏している。

 複数の剣傷、破れた上着、その下に見えるのは……鱗、蒼鱗!?


 まさか、まさか!!


 待て、それだけじゃない。

 さらに、その先にもいる。

 真っ赤に染まった女性を胸に抱く男が!?



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