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第655話 勝負所



<ヴァーンベック視点>




 先制攻撃を仕掛けたギリオンを先頭にサージ、ブリギッテ、俺が猛攻を続けた結果。


「グルル……」


「グルゥ……」


 分体2頭からは当初の面影が完全に消え失せてしまった。動きは遅くなり、腕の振りも鈍い。ともに満身創痍で、もうすぐにでも倒せそうな状態。そうとしか見えない。


 と、ここまで追いつめている現状はもちろん悪くはないのだが、こちらも……。


「はあ、はあ……しぶてえやろうだぜ」


 サージが肩で息をしている。


「……」


 滴る汗を拭いもせず魔力操作にするブリギッテの顔にも疲労の色が濃い。

 魔力残量もそう多くはないのだろう。

 そして、何より。


「ぐっ!」


 ギリオンがまずい。

 いまだに剣は冴えているものの、薄れていた鱗が全身に浮かび始めているんだ。


「うっ、うぅぅ……」


 現状はまだ理性を保てているように見える。

 が、ギリオンの均衡はいつ崩れるか分からない。いつ暴走してもおかしくはない。さっきのような狂暴化の可能性も充分に考えられる。そうなってしまったら……。


「おい、大丈夫かよ?」


「……」


「ギリオン?」


「っ……問題ねえ」


 返答に反するようなかすれて弱い声音。


「大丈夫だ」


 ただ、ギリオンの返答に濁りはない。


「そっちこそ、やれんだろうな?」


「あったりめえよ!」


「はっ、威勢だけはいいじゃねえか」


「まだまだ余裕だからな」


「よく言うぜ。顔色は最悪なのによぉ」


「そりゃ、おめえのこった」


「何だと!」


 今もなお鱗は活性化しているようにしか見えない。

 それでも、この様子なら……。


「って、まあ、喋ってる場合じゃねえか」


「……とっとと片付けんぞ」


「りょーかい」


 終戦までもつ。

 それを願うばかりだ。


「ヴァーン、まだいけるわよね?」


「ああ」


「じゃあ、私とあなたは魔法で仕掛けましょ」


「……分かった。サージ、ギリオン、前を頼む」


「「おう!」」


 ここは時間をかけず倒し切りたい。

 であれば、効率よく連撃で攻めるのみ。

 足が止まった今の分体相手なら、やれるはず。


「いくわよ、アイススピア!」


「アイスアロー!」


 まずは、ブリギッテと俺の氷魔法。


「グギャ!」


「ギャア!」


 敵はこっちの想定通り。

 正面からの射撃が簡単に着弾するほどに動きが鈍い。


「喰らえ!」


 ガンッ!


 サージの剣も狙い通りに決まっている。


 ガシュッ!


「グギャァ!」


 ギリオンも同様。


「おりゃあ!」


「だあ!」


 ガンッ!


 ガシュッ!


 サージもギリオンも体調は底に近いだろうに、気力で補えている。

 充分以上の働きじゃないか。


「2人とも、やってくれるわ」


「ああ」


 となれば、こっちも。


「ブリギッテ、押し切るぞ」


「ええ、ここが勝負所ね。アイスアロー!」


「アイスアロー!」


 ガンッ!


 ガシュッ!


「ギャアァ!」


「グギャアァ!」


「アイスアロー!」


「アイスアロー!」


 ガンッ!


 ガシュッ!


 サージとギリオンの剣、俺とブリギッテの魔法。

 体力の限界を超えるような剣撃と、魔力を使い切るほどの攻撃魔法を行使し続け。


「「アイスアロー!」」


 ドガン!!


「おんりゃあああ!」


 ザッシュン!!


「アアアァァ……」


 ついに。


 ドッシィィィン。


 ついにだ。


「おっし、やったぜ!」


 3頭目も倒し切ることができた。


「……うぐっ」


 けれど、ギリオンが。


「痛むのね? 意識はどう?」


「ぅぅ……問題、ねえ」


「ほんとに?」


「……お、う」


 いや、どう考えても問題ありだろ。


「少し休んだ方がいいいな」


「ええ、そうしましょ」


「わたしが治療します」


 分体を屠ったまま剣を仕舞うこともできず、地に手をつき蹲った状態。

 そんなギリオンにシアが近づこうとしている。

 見えていないのに、ひとりで。


「止まるんだ」


「そうよ、シアさん、危ないわ」


「わたしのことより、ギリオンさんを助けないと」


「シア……」


「ヴァーン、もう魔物は倒したのよね。だったら、治療したい」


「……」


「治療させて!」


 その強い意志に言葉が詰まってしまう。


「お願い、近くまで連れて行って。ヴァーン、ブリギッテさん!」


「……」


「もしもの時は、みんなが護ってくれるから。そうでしょ」


「……俺が連れてってやるよ」


「ちょっと、サージ?」


「さっきは凶暴化しても何とかなったんだ。なら、平気じゃねえか」


「……」


「それに、今は意識があるんだぜ」


「そうだけど……ヴァーン?」


「……しょうがねえ。シア、俺の手を持ってくれ」


「なら、右は俺だな」


「ヴァーン、サージさん、ありがとう」


「いいってことよ。それより、治療だろ」


「はい」


 頷くシアの手を引きながら、ギリオンのもとへ。


「ぅぅ……」


 状態は変わらず。

 悪化も良化も見られない。


「ギリオンさん、横になってください」


「ぅぅ……シア?」


「今から治癒魔法を使いますから」


「……」


 何だ?

 今さら遠慮してるのか?


「早く横になれよ」


「……ぐがっ!?」


「ギリオン?」


「がっ、がガッ!」


「おい、どうした?」


「ギリオンさん?」


「がが、うぐっ!」


「おめえ、問題ないんじゃなかったのか?」


 そう言ってサージが前に出る。


「もんだ……ううぅ……離れろ!」


「はあ?」


「シアを連れてけ!」


「……大丈夫です、心配要りません。今から治癒しますので」


「ぐっ、ぐがっ!」


「おめえ、まじいのか? 狂化しそうなのか?」




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