第654話 猛攻
<ヴァーンベック視点>
分体3頭中戦っているのは1頭のみ。どういうわけか、2頭は後方で足を止めている。
「……」
この現状では、サージの考えにも理はあるし、利もあるだろう。
かといって、先制が悪いわけでもない。
「こっちから先に仕掛けるってのは?」
「積極的には賛成できねえな。今の時点で動かない子分2頭の戦意が高いとは思えねえからよ」
「ギリオンが1頭倒したら残りは逃げる可能性もあるものね」
「……」
「でしょ、ヴァーン?」
サージ、ブリギッテともに待機を主張する中、俺が1人で突っ走るわけにはいかないか。
「……分かった。もう少し様子を見るとしよう。ただし、戦闘準備だけは怠るなよ」
「当然、俺はいつでも出れるぜ」
「こっちも万全ね」
「わたしも大丈夫」
「シア?」
分体出現後、ずっと黙って待機していたシア。
そんなシアから決意のこもった声が。
「……おまえは出なくていい。その方針は変わってないぞ」
「ううん、敵が3頭もいるんだもん。魔法くらいは準備しないと」
今のシアでも魔法の準備だけなら平気だろう。
ただ、この感じは戦況次第で前に出て来そうな……。
「もしもの場合は私がシアさんを誘導するから心配要らないわ」
「ありがとう、ブリギッテさん」
「いいのよ、当然のことだから」
「まっ、ブリギッテと一緒なら問題ねえだろ」
「ヴァーン?」
止めても無駄か。
「……分かった。けど、絶対無理すんじゃねえぞ!」
「うん!」
方針が決まったところで、ギリオンの方は?
「だあ!」
ザンッ!
「おりゃあ!」
ザシュッ!
「ギャアァ!」
ギリオンの優勢は変わらず、押し続けている。
ここまで耐えていた分体の鱗も硬皮も酷い状態だ。
後方2頭も同じ。
動くことなく様子見に徹したまま。
ガンッ!
ザンッ!
ガシュッ!
「アアァァ!」
しかし、あの蒼い鱗。
ギリオンの鱗にそっくりじゃないか?
ん?
ギリオンの鱗が光って?
いや、光ってない?
錯覚……?
「グギャアァ!」
「そろそろ決まるんじゃねえか?」
「ほんと、もう少しかも」
っと、今は鱗より戦況だな。
「うりゃあ!」
ガシュッ!
「だりゃ!」
ザシュッ!
「いいのが入ったぞ!」
ああ、見事な一撃だ。
「よろめいてるわよ」
「おーし、そのままやっちまえ!」
「だあ!」
ザンッ!
「だああ!」
ザンッ!
「だりゃあ!」
ガシュッ!
「とどめだぁ、うっりゃああ!!」
ザッシュン!!!
これでもかと猛攻を続けた後の一撃。
所々鱗が剥がれ落ちた首もとへの横薙ぎが決まった。
「ァァァ……」
横薙ぎを首に受けた分体から鮮血が勢いよく溢れ出す。
大地を血で染めていく。
そこに。
ドッシィィィン!
分体が崩れ落ちた。
ギリオンが倒し切ったんだ。
「あいつ、やりやがったぞ」
「……」
エビルズピークで俺たちが散々手こずった分体を、たった1人で討伐しちまった。
「ギリオンさん、倒したんですね?」
「……ええ」
「1人で、本当に」
「ほんとよ、信じられないくらい凄まじい剣だったわ」
「ああ、凄えわあいつ。けど、今は呆けてる場合じゃねえぞ」
「後ろね」
サージの言う通り。
まだ分体が残ってる。
いまだ沈黙したままの後方2頭だ。
「「……」」
逃げるのか?
それとも、攻めかかって来るのか?
「さってと、次は後ろだなぁ」
「えっ?」
警戒する俺たちを尻目にギリオンが足を踏み出そうと?
「ちょっと!」
「待ってくれ、ギリオン。あいつら戦う気ねえかもだぜ」
休みもせず次の標的に向かおうとするギリオンをブリギッテとサージが止めに入る。
「なわけねえだろ」
「だから、ちょっと待てって」
「待てねえなぁ、っと」
「おい!」
「待つのはこいつらを始末してからだぁ!」
2人の手を振り払って駆けだしちまった。
「……どうしようもねえな」
「ほんとね」
「けどまあ、こうなりゃ仕方ねえ」
「ええ」
こっちも、やるしかない。
「たりゃあ!」
そんな俺たちの前では、ギリオンが間合いに入り込み。
剛剣を一閃。
惚れ惚れする剣を叩き込んだ。
ブンッ!
が、当たらない。
剣が空を斬っている。
「なっ?」
飛んだのか?
ずっと動きを止めていた2頭が同時に、左右に別れて?
「ガアァァ!」
「グガアァ!」
さらに、腕を振り襲い掛かってくる!
ガンッ!
ガギッ!
上手い!
一振りで、2本の腕を弾き返したぞ。
ガンッ!
ギンッ!
ガッ!
ガリッ!
それでも、今のギリオンは防戦一方。
完全に押されている。
ガリッ!
ギンッ!
「ちっ!」
ともに倒した分体より動きがいい。
そんな2頭を1人で相手するのは、今のギリオンでも難しいはず。
ただし。
「俺は左、サージは右だ」
「りょーかい」
「ブリギッテは牽制、手数重視で頼む」
「分かったわ」
こっちの態勢も既に万全。
分体の背後をとっている。
「いくぞぉ!」
ガギンッ!
ギンッ!
俺とサージの剣が分体2頭の背を強襲。
「アイスボール!」
「アイスボール!」
衝撃を受け振り向く分体の頭に低威力の氷球が炸裂した。
すべてが完璧に狙い通り。
「ギャ!」
「ゴフッ!」
分体の腕が止まり、意識もギリオンから離れている。
とはいえ、傷は浅いもの。
こんな連撃じゃ倒せはしない。
「ギリオン!」
それでも、時間稼ぎには十分。
隙もあるだろ。
「おうよ!」
ザンッ!
ザシュッ!
ギリオンの二振りが空を走り。
分体を斬り裂いた!





