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第651話 普通じゃない


<ヴァーンベック視点>




「やっぱり、衝動があったのね」


「となると、こいつはもう間違いねえなぁ」


「ええ」


「ここに来る前、ギリオンは何らかの原因で自我を失い」


「狂暴化したんでしょうね」


「……」


 どれもこれも常識を逸脱したことばかり。明確な答えなんて出せるわけもない。それでも、ひとまずはブリギッテとサージの推測を前提に動くべき。今はそう思う。


「あっ、でも、私たちに会う前って、何してたの? というか、そもそも、こんな所で1人でって?」


「さすがに覚えてるよな、なあ、ギリオン?」


「……」


「おい、おい、そこも忘れたのかよ?」


「いんや、覚えて……少しずつ思い出してきた」


「狂暴化前の記憶も消えてたんだ?」


「消えてたっつうか、なんかこう、ボンヤリ? 鈍い? そんな感じ、分かんだろ?」


「分かるわけないでしょ。けど、まあ、先に頭の動きが鈍くなって、その後に自我が消えたってのは分かったわ」


「で、今はどうなんだ?」


「頭痛も消えたし、スッキリしたもんだぜ」


「……とりあえず、安定はしてるみたいね」


「おう」


「なら、とっとと説明してくれ。思い出した分でいいからよぉ」


「……」


 スッキリしていると言いながらも、ギリオンの表情は晴れてない。

 口も重いようだ。


「まずは、そう、テポレン山に上った経緯、俺たちに会うまでのことから頼むぜ」


「ギリオン?」


「……」


 おそらく、口にしたくない何かがあったんだろう。

 けどなぁ、ここでの黙秘は認めてやれないぞ。

 鱗化、狂暴化の答えが見つかるかもしれないんだからな。


「話したくないなんて、通用しないわよ」


「……わあってる」


 と答えたきり、また口をつぐんでしまった。


「その前に、ギリオンさん、治療は必要ない? 本当に痛くないの?」


「っ、シア、おまえは後ろにいろって」


「そうよ、シアさん」


「大丈夫、今のギリオンさんにおかしな感じはしないから」


 視力を失ってからのシアは他の感覚が鋭敏になっている。

 特にこういった勘は驚くほどに鋭い。

 そのシアが言い切るのなら……。


「話の前に少し治療しましょうよ?」


「……いんや、大丈夫だ」


「でも」


「わりい、気を使わせちまったな」


「ギリオンさん……」


「……」


「「「……」」」


 何というか、この空気。

 ちょっとやりづらいぞ。



「しっかしよぉ」


 そんな若干微妙になってしまった場を破ったのは。


「あの攻撃を喰らって何ともねえっつうんだから、魔物も驚きの再生力じゃねえか。いったい、おめえの体どうなってんだ?」


 サージのおどけたような軽口。


「ほんと、人外どころじゃないわよ」


「はあ? オレがバケモンだってか?」


「それ以外考えられねえわ」


「バカ言ってんじゃねえぞ」


「バカになったのはおめえの体だって。ん、ひょっとして中身は別もん?」


「その可能性もあるわね」


「こんのやろう!」


 3人の会話で、場の重さが消えていく。


「オレ様はオレ様だ! 生まれた時からずっと同じギリオン様だ!」


「いや、いや、この状況をよく見てみろって」


「関係ねえ」


「どう考えても関係あんだろ」


「……オレがバケモンだってんなら、おめえらも普通じゃねえぞ」


「どこが?」


「……」


「言えねえじゃねえか」


「違え! 異常なんだよ!」


「だから、どこが?」


「……対応だ」


「対応?」


「さっきまで命を奪おうとしていた相手にこの接し方はねえ……普通じゃねえんだよ」


「「……」」


「オレを拘束もせず許すって……」


「それは……ギリオンだからだな」


「はあ?」


「相手がギリオンなら仕方ねえ。受け入れるしかねえ」


「……」


「ん? ひょっとして、拘束されたい?」


「なわけあるか!」


「なら、戦闘か? この状況でまだ戦うってか? さすがにねえなぁ。どうだ、ブリギッテ?」


「ないわね」


「ちっ! それでいいのかよ! おい、ヴァーン?」


「ああ」


 理解できないことばかりだが、受け入れるしかない。

 ここから再戦闘なんて、それこそあり得ない。

 そもそも、あれだ。


「おめえのことだからよぉ、変な薬か魔道具にでもやられたんだろうぜ。けどまあ、こうして戻れんなら問題ねえ。何とかなる。助けてやるよ、ギリオン」


「……」


「ってことで、そろそろじゃれんのはやめて」


「「じゃれてねえわ」」

「じゃれてないわよ」


「……そういうのはもういいから、話を進めるぞ」


「「「……」」」


「ギリオン、話せるな?」


「……ああ」


「で、俺たちに会うまでの経緯は?」


「……気づいたらテポドン山にいたんだ」


 気づいたら?


「そんで、魔物と戦って鱗が出てきて。そっから皆と離れ……今だな」


 何言ってる?

 説明になってないぞ。

 それに、話すのを躊躇うような内容でもない。


「端折らないでちゃんと説明して」


「してんだろ?」


「してないわよ」


「はあ!」


「とにかく、もう一度話しなさい」


「ちっ……だから、あれだ。いきなりテポレン山に出て、そこで竜の子分と戦って鱗がやばくなったから飛び出したっつってんだよ」


「「「……」」」


 こいつ、ほんとに問題ないのか?

 まだ危ないんじゃ?


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