第649話 予感
<セレスティーヌ視点>
予知で見た事後の光景は、おそらく8刻から9刻(16時~18時)あたり。
とはいえ、凶事の起こる時刻はつかめなかった。
それどころか、日付すら不明なまま。
なので今日は何も起こらないかもしれない。
でも。
「可能性は低くないと思う」
「確実確定ではないのですね?」
「……」
「でしたら、無理をして危険を冒す必要はないかと?」
「いいえ、それは違うわ!」
「セレス様?」
「予知での日時不特定は普通なの」
「……」
「ただ、何度も経験していれば分かることもあるから」
「つまり、セレス様の直感が今日を告げている?」
「……ええ」
予知直後からずっとそう。
嫌な感じが消えてくれない。
胸を締め付けられたまま。
「もちろん、だからといって絶対とは断言できないけれど、予知内容が今の状況とかなり一致してるし」
だから、まずは皆のもとに駆けつけ様子を見たい。
安心したい。
ただ、もしそこにコーキさんがいれば……。
もう間違いないと思う。
「ユーフィリア、お願い」
「……」
「ユーフィリア!!」
「……承知しました。ですが、私の他にも護衛をつけますので」
***************************
<ヴァーンベック視点>
「うぅ……おま、え……ヴァーン?」
こいつ、今俺の名を?
「……ヴァーン?」
なぜだ?
「ヴァーン……ぅぅ……なの、か?」
なぜ俺の名を知ってる?
「えっ、どういうこと?」
「おい、おい、何がどうなってんだ?」
「ブリギッテさん、サージさん、どうしたんですか?」
「わりい、わけ分かんねえ」
「ごめんなさい、私も……」
「ぅぅぅ……ヴァー……」
「ヴァーンよぉ、おめえ、こいつのこと知ってんのか?」
蒼鱗の知人なんていない。
それどころか、見たこともない。
けど、鱗が消えかけているこの顔は……。
「ぅぅぅ……痛い……」
「痛いって、やっぱり知性ある亜人種だったんだな。ん? なら、どうして、今まで暴れてたんだ?」
「狂暴化してたとか? それで、鱗が薄れると正気に戻るとか?」
「そんな話聞いたことねえぞ。ブリギッテはあんのかよ?」
「あるわけないでしょ。でも、今のあいつからは敵意も害意も感じないから」
「確かに、そうだな」
「それで、ヴァーン、どうなの?」
「知り合いか?」
「鱗の亜人種に知り合いはいねえ。けど……」
「けど、何?」
「鱗の下の顔は……」
「鱗の下……えっ!?」
「なんだ、なんだ?」
「嘘でしょ!?」
「だから、どうしたんだって?」
「サージ、よく見てみなさいよ」
「んん……なっ!?」
「ぅぅ……ブリギッ……サージ」
「私とサージの名前も知ってる! だったら、そうなの??」
俺たち3人を認識できて、鱗の下のあの顔は……。
「ほんとにおめえ、ギリオンなのか?」
*************************
<アル視点>
「リリニュスさん、もっと速く走って」
「はあ、はあ……無理です、これ以上は」
なら、どうしてついてきたんだよ。
少しでも早く師匠に追いつかないといけないのに。
「はあ、はあ……大丈夫、このままでも追いつけますから」
「けど」
「あまり無茶言うなよ、アル」
「……」
「俺たちも限界に近い。これ以上ペース上げれんのはアルとヴァルターさんくらいなんだぜ。それに感知的にも問題ないんだろ、なあ、リリニュスさん?」
「はい、ギリオンさんは今はもう動いてませんから、うっ、はあ、はあ……四半刻程で追いつけるかと」
「ってことだ」
「でも、師匠が何かと戦ってるって?」
「その可能性があると言っただけです。まあ仮に戦っているとしても、今のギリオンさんに敵う相手はそうそういませんよ」
「竜の本体が出たらまずいんじゃ?」
「それはそうですけど、今のところそんな気配はありませんし。そもそも、この山に来てから本体は現れてませんので」
「……」
「ここはリリニュス殿や皆に合わせた方がいい。万一の場合は我ら2人で先行すればいいしな」
「……ヴァルターさんがそう言うなら」
けど、やばい気配が出たらすぐに速度を上げてやる。
そこは譲れないからな。





