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第645話  猛攻




「エリシティア様、間違いないのですか?」


「コーキが信じられないのも尤もだが……全て真実だ」


 そんな、あり得ない。


「ギリオンが蒼鱗化しているなんて……」


 バケモノになってしまったオルセーと同じじゃないか。

 どうしてギリオンが?


「……」


 予想外の事実に動揺する俺を横目にシャリエルンがエリシティア様の傍らに歩み寄っていく。


「先程こちらを離れた数名の気配は追手でしょうか?」


「離脱の気配を感知していたのだな?」


「はい、到着前に。それで、今は数名がギリオンとやらを追っている状況なのですね?」


「うむ、シャリエルンも知る騎士数名とワディンの者たちがギリオンを追跡中だ」


 そうだった。

 ここを離れた数名の気配は、ギリオンを追っているんだ。


 けど、大丈夫なのか?

 蒼鱗化し自失状態のギリオン相手に並の腕ではどうしようもないぞ。


「エリシティア様、追手の力量は?」


「リリニュスたち精鋭とヴァルター、それにギリオンの弟子もいる」


 幻影ヴァルターが追手?

 それに、弟子?

 ギリオンの弟子というと……アル?


「幻影ヴァルターが追手の一員なら安心できますね」


「……」


「エリシティア様?」


「……そう、だな」


 この煮え切らない返答。

 つまり、今のギリオンはヴァルターでさえ対処が難しいと。


 だったら!





*************************


<ヴァーン視点>




「完璧だ! 最高だ、ブリギッテ!」


「へへ、当然よ」


 細身のアイススピアがバケモノの右眼に突き刺さっている。

 まさに会心の一撃。

 これで勝負は決まったようなもの。

 そのはずだ、が……。


 倒れない。


「ァァァ……」


 貫通していないとはいえ、かなりのダメージがあるのは間違いない。

 それでも決まらないのか?


 すると。


「グガァァ!!」


「えっ?」


「何?」


 叫声と共にバケモノが氷槍の根元部分を粉砕してしまった。

 ただし、先端は眼に刺さったままだ。


「アアァァァ!!」


 なのに、それを無視して動き出した。

 やはり、まだ終わらないんだな。


「ちっ、しぶとい野郎だぜ」


 片眼を失いながらも、バケモノの闘志に陰りは見えない。

 とはいえ、効いているのは確実。

 だったら、このまま。


「続けるぞ、サージ。できるな?」


「あったりめえだ」


 疲労は蓄積しているものの、俺もサージもまだ戦える。


「ブリギッテは?」


「撃てるわよ」


「なら、次撃を用意してくれ。次は左目を頼む」


「了解」


「俺たちはまたやつを止めんのか?」


「それも狙うが、もうひとつ」


「ん?」


「アイススピアを押し込んでやろう」


 右眼には氷槍が残っているんだ。あれを使わない手はない。

 もちろん簡単じゃないだろうが、もし上手く押し込めれば。


「そりゃいいな」


 勝負が決することもあり得る。


「氷を折らないように慎重に押せよ」


「分かってらぁ! って、きたぞ!」


 右眼に氷槍の先端を残したままバケモノが突っ込んでくる。


「ちっ、速えじゃねえか」


 速度が衰えていない。いや、むしろ速くなってる?

 まだ上があったのか?


「サージ、回避優先だ」


「おう」


 最初の攻防同様。

 左右に跳んでバケモノの突進を躱す、はずが!?


「ぐっ!」


 サージの脇腹にバケモノの剣がかすった?


「グガアァ!」


 さらに俺には目もくれず、サージに追撃を!


「サージ!」


「危ない!」


 ブン!


 俺とブリギッテの声に反応したわけじゃないだろうが、再度の跳躍でギリギリ剣撃を避けることができた。


 が、バケモノは止まらない。

 剣を振るいながらサージに襲い掛かる。


「ガガァ!」


 ブゥン!


 横に避けても、後退してもバケモノの剣がサージを追う。


 ブゥゥン!


「くっ!」


 避け続けるのが難しいほどの連撃だ。

 その上、剣捌きがさっきまでとはまるで違う。単調になっていた剣が理性を取り戻しつつある。

 あんな状態なのに……。


 ブン!


 こうなると回避だけで対処するのは難しい。


 ブゥン!


 ガギン!


 剣で迎え打つしかない。

 が、あの剛剣を相手するのは簡単じゃないぞ。


 ギン!

 ガギン!


 剣圧に押され続けるサージは受けるだけで精いっぱい。

 このままでは長くは持たないだろう。


 ガン、ギン!

 ガギン!


 ただ、こっちはサージだけじゃない。

 3人いるんだ。


 ギン!

 ガギン!


 よし。

 サージが稼いだ時間、有効に使わせてもらったぞ。

 こっからは反撃の時間だ。

 まずは、サージしか眼中にないバケモノの背中に剣を叩き込んでやる。


 ガン!


 当然、こんなものが通用するわけもないが牽制にはなるはず。


「ァァ……」


 ほら、バケモノがこっちを振り返った。


「サージ!」


「おうよ」


 俺に目を向けたバケモノの背に、今度はサージの剣が。


 ガン!


 その一撃に再びサージに向き直るバケモノ。

 となると、俺がまた。


 ガン!


 次はサージ。


 ガン!


 ガン!


 ガン!


「ァァァ……」



 鱗を破壊することもできない単純な連係が何度も通用するのは、バケモノが中途半端に理性を保っているから。さっきまでのあいつなら振り向きもせず対象に剣を振るい続けただろう。


 ということで、そろそろだな。


「アアァァァ!」


 しびれを切らしたバケモノの動きが雑になったその隙を見計らい。


「ファイヤーボール!」


 準備済みの簡易魔法を至近距離から発動。


 バァァン!


 よし、火球がバケモノの顔に炸裂した。


「グアァァ……」


 突然顔に火が降りかかり狼狽えるバケモノ。

 とはいえ、これでは倒しきれない。


 だから。


「ブリギッテ!」


「……アイススピア!」


 完璧なタイミングで左眼を狙うブリギッテの氷槍が発動。

 と同時に俺がバケモノ懐に入り込み、右眼に刺さった氷槍の先端を……。





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