第642話 嫌な予感
「気にすることはない。エリシティア様の気配も健在だしな」
「それは、まあ……」
エリシティア様の気配は目的地に残っている。
おそらくは騎士たちであろう気配も健在。
ギリオンの気配も……なっ!?
無い!
ギリオンの気配が消えている!
どういうことだ?
さっきまで問題なく感知できていたのに?
「……」
ギリオンの気配。
今考えれば、いつもと若干違っていたような気もする。
どこか異状があったのかもしれない。
それでも、はっきりと感じ取れていたんだ。
なのに、どうして?
「離れた者が単なる離脱であろうと偵察であろうと、問題はない」
まさか、ギリオンがエリシティア様のもとを離れたのか?
なら、この離脱者がギリオン?
いや、違う。
離脱者の気配はギリオンのそれとは別物だ。
それどころか……。
「心配無用だぞ、アリマ」
「……」
「もうすぐに到着する。そうすれば理由も分かるだろ」
その通り。
到着すれば明らかになる。
ただ、少し。
少しだけ嫌な予感が……。
「まずは先を急ごう」
「あっ?」
「今度はどうした?」
「また新たに数人が離脱しました」
「1人が出た後、時間差で数人か?」
「ええ」
「こうなると、ただの偵察とも思えぬな」
ギリオンの気配消失。
複数人の離脱。
いったい何が起こってる?
「それでも、今は急ぐしかない」
「……」
「速度を上げるぞ」
「……了解」
*************************
<ヴァーン視点>
キン、キン!
カキン!
「ガハッ、カハッ」
蒼鱗に覆われた顔面、真っ赤に染まった両眼、笑みがこぼれる緩んだ口元。
気味が悪い。不気味としか思えないバケモノなのに、繰り出す攻撃は剣士の剣そのもの。
どうにも矛盾している。
ガキン!
ガギン!
なんてことを考えるこっちは防戦一方。
バケモンの弱点を突く余裕もない。
剣撃についていくのがやっとだ。
「このままじゃマズいぞ、ヴァーン」
「分かってる」
「手はあんのか?」
「魔法しかねえだろ」
キン!
カキン!
「ブリギッテ、撃てるな?」
「準備できたところよ。でも、この乱戦じゃ無理よ」
やっぱり難しいか。
「狙いがつかないわ」
魔法を警戒してか、バケモノは立ち位置を変えながら剣を叩き込んでくる。
今魔法を放てば誤射を招きかねない。
となると。
「可能なら離れてちょうだい」
「「分かった」」
そうは言ったものの、バケモノの猛攻が続く中で2人同時に距離を取るのは困難だろう。
キン、カキン!
ガキン、カキン!
ならば、手が止まるのを待つか隙を見つけるしかないのだが……。
キン、キン!
ガキン、キン、カキン!
なかなかチャンスが見えてこない。
だったら……試してやる。
剣を振りながら、意識を体内に向け魔力を練り。
練った魔力を整えていく。
キン、ガキン!
駄目だ!
魔力が霧散してしまった。
もう一度練り直しを……。
キン、カキン!
ガキン、キン、カキン!
くっ!
やはり剣を振りながら集中するのは簡単じゃない。
キン、キン!
カキン、カキン!
今回もギリギリ。
が、何とか上手く進めている。
「グガアァァ!」
キン、ギン!
カキン!
もう少し……。
よし、完成したぞ!
「ファイア!」
発声と同時にバケモノの目の前に現れたのは小炎。
攻撃力は皆無と言っていい。
それでも、集中を切らすくらいの効果はあるはず。
「グギャ?」
驚きの声とともにバケモノの手が静止。
猛攻が終わった!
成功だ!
「サージ、ブリギッテ!」
「分かってらぁ」
「ええ、アイススピア!」
サージと俺がバケモノから跳び離れ。
ブリギッテは練りに練った強力アイススピアを発動。
動きを止めていたバケモノの太腿に……突き刺さった!
「ガギャアァァァ!!」
バケモノの叫声が山道に響き渡る。
「アアァァァァ!」
効いてる。
深手を負わせることができたんだ。
「ァァァァ……」
「やるじゃねえか、ブリギッテ」
「当然よ。次はアンタたちの番だから、頑張んなさい」
「おう、任せとけ」
そう言ってバケモノに向かっていくサージ。
一歩遅れて俺も続く。
「喰らえ!」
バケモノはまたも片膝立ち状態。
これじゃあ上手く反応できないはず。
「ァァァ……」
サージが狙うのは、氷槍が突き刺さっている辺り
ザシュッ!
完璧な一撃。
太腿を斬り裂いた!
ザシュッ!
俺の剣もだ。
なのに、バケモノは……。
「……」
悲鳴を上げることなく。
地面を見つめ唸るだけ?
「……」
まだ足りないのか?
なら、もう一撃を……っ!?
「グルアァ%$◆@ガッ!!」
何だ、この声は!?





