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第641話  剣捌き


<ヴァーン視点>




 うなりを上げるバケモノの剣身。

 大振りの強烈な一撃が水平に迫ってくる。


「ちっ!」


 こっちは剣を脚に叩き込んだまま、まだ戻せていない。やつの剣撃を受けるのは無理だ。とはいえ、完全回避も簡単じゃない。


 だったら、このまま剣を押し込むだけ。


「ヴァーン!」


 俺とは逆側にいるサージ。

 そのサージも不完全な体勢から2撃目を叩き込もうとしている。


 迫る剣身、放つ剣撃。


 ザッ!


 届いたぞ。

 俺の勝ちだ。


 直後、水平斬りが飛んで来る。

 が、剣撃を受けバランスを崩したバケモノの剣からは鋭さが消えている。軌道もずれている。これなら。


 ブンッ!


 俺の頭上を剣が通過。

 よし、回避成功だ。


 そこに、サージの一撃。


 ザシュッ!


「グガァァ」


 剛力を水平斬りに注ぎ込んでいたバケモノは、こっちの連撃に耐えきれず片膝をついてしまった。


「アアァァァ」


 なのに、バケモノの戦意には衰えが見えない。

 片膝立ち状態で3撃目を放ってくる。


 とはいえ、これは無茶というもの。

 当然、恐れるような剣撃にはなり得ない。


「いったん離れるぞ」


「おう」


 俺とサージは軽く左右に跳んで間合いから離脱。

 こうして再度距離を取ったところに。


「アイスアロー!」


 ブリギッテの魔法だ。


 ザンッ!


 剣撃同様、氷矢も脚に炸裂する。


「アァァ……」


「効いてるわ!」


「ああ」


 鱗に護られていない皮膚を剣と魔法で削ってやったんだ。

 効果がないとやってられない。


「ァァァ……」


「かなり痛がってんだろ?」


 鱗のバケモノといえど、生身なのだから痛覚はあるはず。

 痛いはずだ。


 ただ、痛み以上に……。


「グゥガガガッ!」


 目が真っ赤に染まっていく。

 殺気が溢れてくる。


 これは激昂状態、あるいは狂乱か?

 いずれにせよ、普通じゃない。

 何より、まだ終わっていない。


 ならば、あいつが立ち直る前に。


「ストーンボール!」


 太腿に向けて発射。

 石の塊がいまだ片膝状態のバケモノに……当たらない!


「ガアアァァ!」


 被弾直前に跳び起きたバケモノがストーンボールを避け、そのまま駆け出した。

 向かう先は左右に分かれた俺たちでなく。


「なっ!」


 ブリギッテとシアのいる方向!?


「行かせるか!」


 走り出した俺につられるようにサージも追走開始。

 が、超速のやつには追いつけない。


 剣が届かないなら。


「ストーンボール!」


 もう一発撃ってやる。


 ドガン!


 至近距離からのストーンボールがバケモノの背中に激突。

 ただし、そこは硬い鱗で覆われている。

 当然。


「アアァァ!」


 大した効果は望めない。

 それでも、僅かに足止めすることはできた。

 この一瞬でブリギッテとシアはさらに距離を取り、俺とサージは。


「おらぁ!」


「たぁ!」


 間合いに侵入完了。

 剣が届く。

 バケモノの後ろから太腿に!


「グガアァァ!」


「何っ!」


 その体勢から剣を放てるのか?


 キン、ガキン!


「ちっ!」


 キン、キン!


 振り向いたバケモノが俺とサージの剣を迎え打ってくる。

 剛力で打ち返してくる。


 カキン!


 ガキン!


 分かってはいたが、恐ろしい膂力だ。

 しかも、2人の剣を相手しているというのに、手数でも負けてない。


 キン、キン!


 キン、キン、ガキン!


 その上、力任せの猛振でもない。一振り一振りが理に適っている。

 とてもじゃないが、魔物の剣とは思えないぞ。


 やはり、鱗の中身は人なのか?


 キン、キン!


 ガキン、キン!


「くっ!」


 こっちは2剣なのに、押され始めている。


「こいつ、ほんとに魔物かよ?」


「……」


 分からない。

 が、この剣捌き。

 どこかで見たような……。


 まさか、ジルクール流?



 キン、キン!


 カキン!


 ガキン!


「ガハッ、ハッ、ハッ」


「このヤロウ、笑ってやがるぜ」


 笑う?

 バケモノが?


 カキン!


 ガキン!


「ハッ、ガハッ!」


 確かに、これは……。

 剣を振るいながら、バケモノが笑っている。





*************************





 うん?

 この気配……?


「シャリエルンさん?」


 進路を変え獣道をひたすら走り続け、もうすぐ到着するというのに。


「どうした?」


「感じませんか? 気配が1つ離れたのを?」


「……そう言われれば」


「間違いありません。目的地から1つの気配が離脱していきます」


「偵察に出たのではないのか?」


「その可能性もありますが……」


 離脱者の気配が普通じゃなかった。

 何かがおかしいぞ。






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