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第637話  変貌

申し訳ありません。

緊急の仕事が入ったため更新が遅くなりました。


<アル視点>




「師匠?」


「アル……うぅ……」


「これは?」


 青い鱗にこの苦しみよう。

 何が起こってる?


「師匠!?」


「ぐっ、うぐっ!」


 駄目だ。

 まともに答えられる状態じゃない。

 けど、このまま放ってもおけない。

 どうすれば……?


「横になれ、ギリオン」


 戸惑うだけのおれを横目に師匠に近づいて来たのはレザンジュの数人とヴァルターさん、それにエリシティア王女。


「すぐに魔法を使ってやるからな。そうすれば楽になるはず」


「うっ、ぅぅ……」


「皆、始めるんだ」


「「「はっ」」」


 横たわった師匠にレザンジュ騎士3人の手のひらから魔法の光が放たれていく。


「うぐっ、ぅぅ……」


 三方向から治癒の光を受ける師匠。

 それなのに、鱗には変化が見られない。


 大丈夫なのか?

 効果はあるんだよな?


「……」


 不安な思いで見つめていると。


「ぅぅ……」


 表情が僅かばかり穏やかなものに。

 そして。


「姫さん……」


 呻き声が消え。

 師匠から言葉が!


「……わりい」


「謝る必要はない」


「けどよ」


「おまえがいたから、あの竜どもを撃退できたのだぞ」


「……」


「何も悪いことなどない。だから今は休んでくれ」


「……休んでばっかだな」


「勇者の特権だと思えばいい」


「勇者か……」


 顔が鱗で覆われているから分かりづらいけど、師匠が柔らかな目で王女を見つめている?


 あの師匠がだぞ?


「悪くねえなぁ」


 しばらく会わない間に何があったんだ?


「……」


 って、そんなことより今は。


「師匠の身体に何が起きてるんです? 病気なんですか?」


「我らにも詳しいことは分からない。が、単なる病ではないだろう」


「だったら?」


 何だというんだ?

 どうすれば治る?


「治癒魔法を続ければ治るんですか? ヴァルターさん?」


「これまでがそうだったように、症状を抑えることはできるはず」


 これまで?


「師匠は何度も同じ症状に?」


「ああ、ドラゴンと戦い始めてからは……」


 そんな!


「オルドウでは鱗なんて現れたことないんですよ。絶対おかしいです! それなのに、症状を抑えるだけなんて」


 どう考えても普通じゃない。

 魔法じゃ足りない。


「分かっている。それでも、この状況では応急処置するしかないのだ」


「……」


「山を下りた後には、しっかりと治療させてもらう」


「本当ですか?」


「約束する」


「……分かりました」


 今はこれで納得するしか……えっ!?


「うぐっ! うがあぁぁ!!」


 師匠、さっきまで症状が落ち着いていたのに?


「「ギリオン?」」


「「ギリオン殿?」」


「ぐっ、ぐがが……」


 四肢が、胸が痙攣している。

 異常どころじゃない!


「っ! もっと魔法を、それに魔法薬も!」


「エリシティア様、薬はもう……」


「何だと!」


 魔法薬か。

 それなら。


「魔法薬はこっちで用意します。それを師匠に」


「助かる!」


 焦りながらも大急ぎでワディン騎士から魔法薬を集め。

 レザンジュの騎士に手渡してやる。

 けど。


「ぐが、ががガガガ!」


 痙攣が酷すぎて薬を飲ませられない。


「経口は諦めて鱗に直接かけるぞ。が、その前に少しでも体を抑えるんだ」


「「「「はっ」」」」


「ガガガガガ!!」


 今や痙攣と呼べる状態ですらない。

 そんな師匠の四肢が暴れ回り。


「「えっ!」」

「「あっ!」」


 周りの騎士に激突。


 ガシャン!

 パリーーン!


 魔法薬の入った2本の瓶が地面に落下してしまった。


 パリーーン!

 パリーーン!

 パリーーン!


 さらに、次々と破壊されていく。

 このままでは全てが無駄になる。


「いったん距離をとれ!」


 そう判断したエリシティア王女の号令の下、騎士たちが離れた瞬間。


「ガガガァァァァ!!」


 一際大きな声を上げた師匠が、痙攣状態から跳ねるように立ち上がり。

 そのまま目が合ったおれのもとへ。

 駆け寄って来る?


 凄い勢いだ!


「師匠!」


 止まらない。

 止まってくれない。

 なら、避けるしか。


「っ!」


 おれがギリギリで避けきったところで立ち止まった師匠。

 こっちを凝視している?


「何してんだ、師匠!」


 顔面のほぼ全てが青い鱗でおおわれ、眼も虚ろな色。

 その瞳には……何も映っていない?


「師匠?」


 返答は皆無。

 やっぱり、認識できていないんだな。


「……」


「……」


 少しばかりの沈黙の後、今度はゆっくりと歩み寄ってきた。


 いつものせっかちな姿とは全く違う。

 何もかもおれの知ってる師匠じゃない。


「しっかりしてくれよ」


「……」


「頼むから……」


 ワディンもエンノアもレザンジュも、皆が息を潜め師匠を注視する中。


「ガガ、ガガ!」


 歩を進めながら、また声にもならない声を。


「師匠……」


 対するおれの中に湧き上がってきたのは、よく分からない感情。

 一歩ずつ近づくその姿を真正面から目にして、様々な思いが浮かび上がってくる。


「ガガガ!」


 そんなおれの前にやって来た師匠が剣を持っていない左手を伸ばし。


「うっ!」


 俺の首に?


「「「ギリオン殿!」」」


 締め上げてくる?





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