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第634話  説明


<エリシティア視点>




「調子に乗ってんのは、おめえらじゃねえのか」


「「「「「何っ!」」」」」


「はっ、図星だな」


「「「「「この野郎!」」」」」


 駄目だ。

 このままでは再度交戦状態になってしまう。


「エリシティア様?」


 顔を歪めているウォーライルも私と同じ考えなのだろう。


「……」


 もちろん、戦っても敗れるとは思わぬ。

 が、爆散矢を持つ敵と疲労困憊した自軍という状況、この先に待つアイスタージウスとの決戦を考えると……。


 やはり、ここでの交戦は避けるべき。できる限り穏便に下山を終えた方が良いに決まっておる。


 ならば。


「ギリオンを止められるか?」


「……やってみます」


 ウォーライルが傍らから離れ、魔法壁の外へと足を踏み出して行く。



「何もしてねえこっちに手を出したんだ。謝んのが筋ってもんだろうがよ」


「王軍が何言ってる!」

「そもそもはそっちが仕掛けた戦いだぞ!」」

「「「「「謝んのはそっちだ!」」」」」


「ちっ、話になんねえぜ」


 ウォーライルが向かう先では、ワディン騎士、ギリオン共に剣を抜き払っている。

 まさに一触即発の状態。


 と。


「師匠も皆も待てって!」


 両者の間に入ったのはウォーライルではない。

 またしてもアル少年だ。


「アル、おまえの師匠だからって、王軍に変わりないんだぞ」

「王軍は我らワディンの敵」

「「「「「そうだ、敵だ!」」」」」


「とにかく、ちょっと落ち着いてくれ!」


「「「「「アル!」」」」」


「頼む!」


「「「「「……」」」」」

「「「「「……」」」」」


「少しでいいから」


「「「「「……」」」」」

「「「「「……」」」」」


 ワディン騎士たちの興奮は冷めていないものの、ひとまずは動きを止めたようだ。


「王軍が敵なのは、おれも分かってる。けど、ちょっと様子がおかしくないか?」


「何がだ?」

「何もおかしくないぞ」


「いや、おかしい。ワディンを探している王軍なら、おれたちを見つけ次第攻撃を仕掛けてくるはずだろ」


「「「「「……」」」」」

「「「「「……」」」」」


「それなのに、あいつらはおれたちを見てもすぐには剣を抜かなかった。それどころか、こっちをワディンと認識していたかもあやしい……違うか、あの動きはまず間違いなくこちらを認識できていない動きだったな」


「「「「「それは……」」」」」

「「「「「……」」」」」


「つまり、あいつらはワディンを探している王軍じゃないってことだ」


 アル少年の言う通り。

 ワディンを探しているのは我らではない。


「この時期に山にいる王軍がおれたちを探していない、認識できないなんて不自然すぎる。何らかの事情があるに決まってる」


「「「「「まあ……」」」」」

「「「「「何か事情は……」」」」」


「それに、今はおれの師匠もいるんだから、まずは話を聞くべきじゃないのか?」


「「「「「……」」」」」

「「「「「……」」」」」


 アル少年の熱弁を受け、ワディン騎士たちの勢いが収まりつつある。


「ってことで、師匠」


 ただ、ギリオンは……。


「いったいどうなってるのか状況を説明してくれ」


 いまだ剣を握りしめたまま。


「師匠!」


「……」


 ギリオンの後ろには既にウォーライルが到着している。

 その横にはヴァルターもいる。

 今なら何とかなるだろうが。


「話してくれ、師匠!」


「ギリオン、こちらの事情を話してやれ」


「ギリオン殿」


「……はあ、しゃあねえなぁ」


 ようやく剣を納めたか。


「こっちはよぉ、この山に到着したところなんだぜ」


「うん」


「で、おまえらに遭遇したところで攻撃を受けてだ」


「……」


「反撃、交戦したって感じか」


「……で?」


「ん?? そんだけだぞ」


 ギリオン……。


「それじゃ、分からないだろ」


「分かんねえのか?」


「分かるわけないって。ちゃんと話してくれよ、師匠」


「……」


「……ギリオン殿の代わりに私が説明しよう」


 ここで、ウォーライルがギリオンの前に。


「あんたは?」


「こちらの騎士を取りまとめているウォーライルと申す」


 頼むぞ。


「……それで、何があったんだ?」


「荒唐無稽な話だと感じるであろうが、先刻まで我らはこの山にはいなかった」


「ここに着いたばっかりなら、何もおかしくない。荒唐無稽じゃないぞ」


「いや、我らは魔物と戦っていたのだ、この世界とは異なる異界で」


「異界? 何だ、それ?」


「詳しいことは私も分からない。ただ、数刻前に我らは白都と黒都の間にある国境で魔物と戦い、その後どういうわけか異界に連れ去られ、そしてまた……ここに転送されてしまった」


「ちょっと前まで白都と黒都の間にいただって?」


「うむ」


「はは……こっからどんだけ離れてるか分かってんのか?」


 アル少年もワディンの騎士たちも、すぐには受け入れがたいだろうな。

 当事者である我々でさえそうなのだから。


「そんな話信じられるかよ」


「だから、荒唐無稽だと言ったのだ」


「……」


「つまり、我らはワディン騎士を捜索しているレザンジュ軍とは別物。まったく違う部隊になる」


「……」


「「「「「……」」」」」

「「「「「……」」」」」


 漂い始めた微妙な空気の中、口を開いたのは。


「ウォーライル殿の言葉に偽りはない」


 ずっと沈黙を守っていたヴァルター。


「君がどう感じようとな」


「ちっ、勝手なことばかり言いやが……ん?」


 どうした?


「あんた? どっかで?」


 アル少年のこの反応は?


「……そうか、黒都か」


「ああ、君とはカーンゴルムの通りで話したことがある」


「……」





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