第631話 連撃
「ここまでの魔法を使えるなんて」
ああ、そうだな。
今はもう認めるしかない。
少女の魔法の腕はシャリエルンと俺以上だ。
「ふふ、どうした?」
「……」
ここまで彼女が発動した魔法は炎と壁だけ。典型的な魔法ばかり。本来なら手を焼くようなものじゃない。なのに、この戦況。
明らかにレベルが違う。自分の魔法に対して抱き始めていた自信が砕けるほどにレベルが違う。
「まさか、終戦ではないよな?」
「くっ!」
今も眼前に立ち塞がる魔法防壁。
こいつもとんでもない。
現出速度、強度ともに素晴らしい上に、見たこともない半透明の原材でできている。
俺には判別もつかない素材、未知の魔法……。
「ここで終わるのも詰まらぬし……やむを得んか」
「……」
「壁は消してやる」
「なっ? きさま!」
驚きの声を上げるシャリエルンと俺の前から、魔法壁を消し去ってしまった。
「これでまた戦えるだろ?」
「「……」」
「さあ、力の温存など考えず全てを出してもらおうか」
「「……」」
シャリエルンも俺も完調とは言えない状態。
この後には、エリシティア様やギリオンの捜索も待っている。
力を出し尽くしていい場面でもない。
が、今のままでは先が見えてこないのも事実。
ならば。
「アリマ?」
覚悟を決めて戦うしかない。
余力など考えず、全力で。
「ええ」
その思いが伝わったのだろう。
シャリエルンの目の色が変わった。
「左右からだ!」
こちらを見ることもなく右に飛び出していく。
僅かに遅れて俺も左に。
一息で接近、左右から挟み撃つように迫る。
この段に至っても少女は無防備な状態。なのに、笑みを浮かべている。
「やあ!」
右からシャリエルンが裂帛の気合いのこもった剣撃を放つ。
ほぼ同時に左からは俺の一撃。
魔法壁を消したままの少女に剣がとど……。
「シールド! シールド!」
キン!
ガキン!
届かない!
中空に現れた物体に防がれてしまった。
「また魔法壁を?」
「壁ではなく盾だな」
「盾……」
シャリエルンと俺の前に浮かぶのは半透明の盾。
さっきの魔法壁と同じ素材か?
とすれば、すぐに破壊できるものじゃないだろう。
が、これは想定内でもある。
あの少女を相手にして、そう簡単に攻撃が通るわけがないのだから。
「約束通り、壁は使ってないぞ」
ただ、盾の防御範囲は魔法壁の四分の一程度。
今も宙に浮いたままの謎魔法とはいえ、これなら何とかなる。
用意していた魔法で!
「シャリエルンさん、私に合わせてください」
「……分かった」
もう一度盾に向かって剣を振るい。
キン!
キン!
そして左の手のひらから。
「雷波!」
雷撃とは異なる範囲魔法を発動。
その盾の狭い防御範囲では防げないはず。
「おお、広いな」
狙い通り、盾を越えた紫電が少女の全身を包み込んだ。
なのに!?
少女は平然としたもの。
何事もなかったかのような顔で立っている。
紫電は今も少女を飲み込んだままなのに……。
「魔力で全身を護っているのか?」
「その通り。壁も盾も膜も、わしにとっては同じなのだよ」
半透明素材による防御は全て同じ。
消去も現出も容易いものだと。
「しかし、今のは悪くない魔法だった。残念ながら、もう一歩足りぬがな」
「……」
剣も広範囲魔法も、少女の身までは届かない。
一撃では傷を負わせることができない。
「威力か工夫か、何かせねば通用せぬぞ」
そうなんだろうな。
が、だからどうした。
魔法、剣の一撃が通用しないなら、続ければいいだけだ。
「とはいえ、わしに膜まで使わせるとは大したもの」
その膜も盾も、粉砕してやる。
内と外に魔力を纏ったこの強化剣を何度も叩き込んでな。
「たぁ!」
キン、キン、ギン!
「その剣をまだ続けるのか?」
キン、ガキン!
キン、キン!
俺同様、シャリエルンも眼前の盾に剣を打ちつけている。
何度も何度も。
ガキン、ガキン!
ガキン、ガキン、ガキン!
ガッ、ガン!
ガギーン!
よーし、盾にひびが入ってきたぞ。
ここまでくれば。
ギン、ガキン、バキーーン!!
盾破壊に成功だ。
「ほう」
その剣勢を落とすことなく、少女の体に接近。
次のシールドは現れない。
だったら、このまま剣撃を。
キン!
キン、ギン!
盾とは違う手応え。
防御膜の方が防御力は低そうだ。
案の定。
5撃も放たぬうちにひび割れが生じ始め。
「ふふ、素晴らしい連撃だな」
そして……。
バリーーン!
盾に続いての粉砕に成功した。
なら、少女の防御は?
新たな膜は現れていない。
防御を失った少女の身に、今度こそ剣が届く。
剣身が少女の胸に……。
シュン!
直撃したはずが、手のひらに残るのはほんの僅かな感触。
衣類を切り裂いたような手応えだけを残し、剣が空を払っている?
どういうことだ?
少女は?
いない?
「……」
少女が、その場から姿を消していた。
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<エリシティア視点>
「師匠! 師匠だろ?」
「はあ?」
「ギリオン師匠だろ?」
「……」
驚きの一声に、皆の攻撃の手が緩んでしまう。
「「「「「「「……」」」」」」」
「「「「「「「……」」」」」」」
「「「「「「「……」」」」」」」
「「「「「「「……」」」」」」」
いや、敵も味方も完全に動きを止めている。
「師匠……」
敵陣の中から現れたのは。
「アル?」
その顔にあどけなさを残した1人の少年。
「アルなのか?」





